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その機械は死を視る

 千体目のご遺体が、俺に退職を決めさせた。
それは夜の熱が残る路地裏に転がっていた。
呆けた顔で転がる中年手前の全裸の女。死因は額の銃創だろう。
俺は務めとして、写真を『神託』オラクルに送る。
ほどなく、返信。カビ臭あふれる路地裏を出る。

 監死者の業務は、『神託』の予測した死を観測し、記録することだ。
観測対象に干渉するのは職務規定違反となる。新人は一日でいなくなる。俺は二年勤めた。

 朝はすでに熱くたぎっていた。
煩わしい熱気の中、俺は『神託』に退職依願も送った。これも、即承認が降りた。一週間後に俺は自由の身となる。
枯死した売人、捻じくれた幼児、潰れたトマトとも縁が切れるだろう。

 今日のランチは肉が食える。飲食店を調べる俺に、次の通知が入った。
見目麗しい、長い黒髪の女子高生が糸切れ人形同然にアスファルトに転がっている。観測時刻はまもなく、場所はすぐそこの団地だ。

 俺は妙な気持ちを起こした。

 すぐに、予測された現場へと向かう。
果たして、そこではまだ何も起きていなかった。
対象の少女はちょうど向かいの団地から出てくるところで、澄み渡る青空みたいな笑顔だ。
俺は、彼女に声をかける。不審者扱いは、どうでもよかった。

「すみません」
「はい?なんでしょう」
「この辺りに飲食店はないでしょうか」
「でしたら……」

 彼女は、嫌な顔ひとつせず答えてくれた。
が、俺はとっさに彼女をこちら側に引き込む。硬直する表情。
続いて、急加速したトラックが眼前を駆け抜けていった。衝突音。

「失礼、車の様子がおかしかったもので」
「あ、はぁ、ありがとう……?」

 彼女の頬から、血の気が引いていく。
俺はすぐに、彼女に礼を言ってその場を離れた。
『神託』には観測出来ずの報告。次の通知は、間を置かずに来た。

「ウソだろ」

 次の『神託』の中で、俺は死んでいた。
時間はちょうど、三日後の朝。

 続いて、悲鳴が俺の思考を打ち砕いた。今助けたはずの少女の声が。

【続く】

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