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旅行かばんの”耐えられない軽さ”

テレビドラマを見ていて、ちょっとしたことが気になって気になってストーリーに集中できなくなることがしばしばしばしば、ある。

主人公が旅に出るとか、刑期を終えて出所してきたとか、そういう場面では必ず役者さんがボストンバッグを下げて登場するシーンが出てくる。今どきはボストンバッグじゃなくて、みんなキャスター付きのスーツケースをコロコロ転がしているが、それでは絵にならないからか、ほぼほぼ旅行かばんはボストンバッグと相場が決まっており、しかも、決まって軽そう

ボストンバッグの中身は丸めた新聞紙に違いない。

と、私は確信している。ボストンバッグは膨らんではいるが、役者さんたちはみんな、それを軽そうに持っている。新聞紙しか入っていない軽いかばんであることが腹立たしいほどに見え見え。

つい先日も「虎に翼」で、寅子がアメリカ視察から帰ってきて、両手にボストンバッグを下げて職場の階段を上っていくシーンがあったが、あれも中身は新聞紙だろう。普通の大きさのボストンバッグに着替えやお土産などを詰め込んだら、けっこう重くなる。寅子のカバンには書籍だって入っていたかもしれない。両手にかばんを下げてあんな軽やかな足取りで階段を上っていくことなんかできるはずがない。

コロコロのスーツケースが席巻する以前、ボストンバッグに荷物を詰めて旅行した経験がある人なら、大きな旅行かばんを持って駅の階段を上り下りするのはけっこう大変だったことを覚えているだろう。

2時間ドラマなんかにはお約束のように”ボストンバッグシーン”が出てくるが、いつ見てもかばんには新聞紙しか入ってなさそうで、気になって仕方ない。もう何年も前からず〜〜っと気になっている。最近は、ボストンバッグが出てくるたびに「今度もまた新聞紙なんだろうな」と思ってかばんに注意が向いてしまう。が、ボストンバッグがまともに重そうだった試しがない。

持てないほど重くしなくたっていいが、タオルでもなんでもいいから詰めて、「2、3日分の着替えくらいは入ってます」みたいにリアルさを演出してほしい。一体なぜなんだろう。役者さんに重い荷物を持たせてはいけない、という優しい配慮なのだろうか。撮影現場にはそういうルールでもあるのだろうか。

ちょっと辛口な意見で申し訳ないが、着替えや洗面道具など、数日の旅行に必要なものが入っているそれなりの重さのかばんを持っているという演技が役者さんにできないなら、かばんに何か適当な重量のあるものを詰めてそれらしく見せろ、と言いたい。かなりベテランの役者さんでもボストンバッグのシーンでは手を抜いている。私はこのプロ意識のなさにけっこう驚いている。役者も演出家も助監督もみんな、”こういうもの”だと思ってしまっているのだろうか。理由がさっぱりわからない。それとも、私がクレイマーなのか。

高倉健さんや役所広司さんみたいな役者さんだったらこんな手抜きの演技はしないだろう。新聞紙で膨らませただけのボストンバッグをそれなりの重さのかばんとして扱う演技はできない、もしくはそんなところに集中力を割くのは無駄だと思ったら、自分でかばんに何か詰めてそれなりの重さにするんじゃないかな。

ドラマや映画にボストンバッグが出てくると、その軽さに目が行ってしまって耐えられない私です。




らうす・こんぶ/仕事は日本語を教えたり、日本語で書いたりすること。21年間のニューヨーク生活に終止符を打ち、東京在住。やっぱり日本語で話したり、書いたり、読んだり、考えたりするのがいちばん気持ちいいので、これからはもっと日本語と深く関わっていきたい。

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