『博物戦艦アンヴェイル』レビュー
『博物戦艦アンヴェイル』
小川一水(著)
◇
清く正しい(かどうかはちょっと微妙)な海洋冒険ファンタジー!
いやあ、面白かった!!
◇
16歳の少女騎士ティセル(泳げないので海が嫌い)が、王宮の少年道化師ジェイミーの護衛となり、世界の驚異を探すための探検帆船『博物戦艦アンヴェイル』に乗り込み、今だ海図も作られていない外洋へ乗り出す……。
異世界ファンタジーものっぽいですが、さすがSF作家の小川一水さん、設定がとにかくしっかりしています。
まだ蒸気機関の発明前、動力機関船はなく、風の力(帆)と人力(オール)でしか船を動かせなかった、いわゆる大航海時代初期ぐらいの時代設定の世界でお話はスタート。
環状に島々が並ぶ諸島環に人々は住み、ティセルの属するラングラフ王国はその中の一強といったところ。
ラングラフ王国は神話の時代にその島々を統べたメギオスが建国した国。そのメギオス王は、島々を統一した後、諸島環の外側の「外海」を探検して様々な脅威を見出し記録した博覧王と呼ばれています。
この、群島が弧を描き、円形をなしている円の中が内海、その外側が外海というわけ。内海は島伝いに貿易船が行き交い、海図も作られていますが、外界はまったくの未知。
その未知の世界へ、『博物戦艦アンヴェイル』は、いにしえのメギオス王の時代の遺物を求め、冒険の旅に出るわけです。
このメギオス王の時代というのがこれまた秀逸です。
作中の現代、つまり、帆船を使って外海へ乗り出せる程度のテクノロジーを得られた時代より1000年前の神話の時代、魔法が巨大な力を持っていた時代という設定で、そのバックボーンが物語をとてもうまく補強しています。
いわく、神話の時代に天空で戦があったらしい、とか、その名残で夜空に浮かぶ巨大な魚(しっぽから登ってくる。頭はいつも東をむいているという設定もイカス)が見えるとか、内海の中心点に天を仰ぐ巨大な塔「キオの至天錐」があり、そこを目指して探検したもので帰った者はいないとかとか。
このあたりの、【その世界の者は前提として知っている世界の一部】のSF感というかファンタジー具合がとても良いですね。それぞれ、読者は、「ああ、あれのことなのかな?」なんて世界についての推理や想像をふくらましながら、キャラクターたちの、それが根差している世界での生活や冒険を読んでいけるわけです。
秀逸な世界設定と、世界の謎に迫りながら進むストーリー、帆船どうしの戦い、めっちゃ魅力的なキャラクター、どれをとっても非の打ち所がない良作です。
強くて可愛いティセルがもう最高(おいw)
道化の少年とのラブストーリーの行方も見逃せません。
ちょっとセクハラ部分がありますが、まあ、ご愛敬…かなあ?w
文庫版のあとがきでも、2010年当時は許されたけれども今はむりかも? なんて書かれていますがw
そう、これ、10年前の2010年に単行本(新書版)になっていたそうです。
↑これですね。
こちらが、10年の時を経て、文庫化したわけです。
今読んでももちろんとても面白く、ぜひぜひ続きを書いていただきたいのです、が、今のところ2巻目の
『博物戦艦アンヴェイル2 ケーマの白骨宮殿』
↑が出ているのみ。
もちろん入手して読みましたよー。
ばっちり順当に1巻の続きで大変におもしろかった!
そいでもってラストの続きが気になるぅぅぅぅ!!
のですけれど、まだ、これ以降は出ていないのですよね。
10年たって文庫化した、ということは、やっぱり売れてる、ってこと? ですよねぇ? (まだ二巻目文庫化されていないようですが)
ぜひぜひ、続きを書いていただきたい!
ですので、皆さんも買って売り上げに貢献してあげましょうw
そして、ぜひぜひ、なんとか著者の小川一水さんに続きを、そして、できればこの物語の最期まで書いていただければ、と思うのであります。
あ、あと電子書籍版もおねがいしマース☆
―――