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『反対進化』レビュー

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『反対進化』

エドモンド・ハミルトン (著), 中村 融 (翻訳), 市田 泉 (翻訳)

エドモンド・ハミルトン といえば、SFの創成期に活躍された方で、キャプテンフューチャーで有名なスペース・オペラの超大御所さまです。

しかし、いわゆる典型的な、

危機に陥った世界を救うためにさっそうと現れた主人公が科学と知力と(時に腕力)で悪を倒して世界を救ってついでに美女もものにしちゃう。

というアメリカ人好みのやつをパターン化して量産してしまったがために、当時のSFの偉い人(ハードSF以外SFと認めないもんね的なSF雑誌の編集長さまとか)に過小評価されパルプSF呼ばわりされてしまい、しばらく日陰の身であったそうです。
それでも、いろんな芸風で書き続けています。スぺオペ以外にも、幻想モノや奇想天外な設定を使った「奇想SF」の第一人者でもあるのです。
なんと生涯に書いた小説は長短織り交ぜて277編にものぼるそう。
この本は、ある意味子供向けなヒロイックストーリー以外にも、こんな奇想SFを沢山かかれたのですよ。という、2005年に日本で独自に編纂された短編集です。

奇想SFと言えばの代名詞でよく出てくる『フェッセンデンの宇宙』(ドラえもんの『のび太の創世日記』の元ネタです)もハミルトン作です。『フェッセンデンの宇宙』は同書名の別本でがっつり入っているので、この短編集からは省かれていますが、それでも良作ぞろい。ハミルトンのSF短編で抑えておきたいお話であまり他の短編集に入っていない物を集め、年代順に収められています。

簡単に内容を紹介すると

『アンタレスの星のもとに』
科学者が貧乏な冒険家を雇い、ビームでアンタレス星系の惑星へ転送。降り立ったところはピラミッドのてっぺんで、ちょうど王を選出する真っ最中だったというご都合主義な、典型的パターンの一作。

『呪われた銀河』
隕石に閉じ込められていた超存在とのファーストコンタクトSF。その超存在がなぜ隕石に? そしてタイトルの呪われたとは? 当時の最新宇宙論だった膨張する宇宙を題材にした奇想SF。

『ウリオスの復讐』
アトランティスで脳を別の肉体につけかえる実験をしていた科学者の復讐の物語。その技術を盗み逃亡した元弟子を追って、お互いに脳みそを若い身体へ移植しつつ幾千年も追い続けるお話。

『反対進化』
表題作。人間が進化の極みに達していると豪語する生物学者一行が、太古に絶滅したハズの原形質生命に出合って……というお話。ハミルトン一流のペシミスティックなムードと奇想がすばらしい傑作。『フェッセンデンの宇宙』同様、後のSF界に大きな影響を与えたようです。

『失われた火星の秘宝』
めずらしく毒気のないあっさりとしたヒロイックファンタジー。これはキャプテンフューチャーと同じ設定の太陽系世界のようです。

『審判の日』
人類が核戦争で滅んだ直後、放射線の影響でか、動物たちが知性化している地球に、宇宙から舞い戻った人間の男女。彼らを動物たちが審判するお話。
知性化した犬と猫がかわいいw
手塚治虫さんや石ノ森章太郎さん、藤子不二雄さんあたりが漫画化していそう。(編者さんもその絵柄が浮かんでくるそう)

『超ウラン元素』
1951年にもう月に基地があって、そこでプルトニウム以降の原子価の高い不安定な超ウラン元素を作る実験をしている科学者たち。自然界に存在しない放射性元素が生み出されて……。というお話。

『異境の大地』
植物の生活時間で世界を見るお話。
人の生体時間を100倍まで遅めた時、森はどのような姿を見せるのか。
原題の"Alien Earth"がいいかんじ。同じ地球に生きていても、生体時間が食い違うだけで全くのエイリアンになってしまう奇想がすごいのです。

『審判のあとで』
核戦争後、戦争では人類は滅ばなかったものの、放射線で突然変異をした謎の病原菌によって人類は滅んでしまう。
月に取り残された研究者たちは、他星系へ送り出した観測用生体ロボット(サイボーグと書かれているが頭脳は無し)の帰還を待っているのだが……。

『プロ』
ベテランSF作家の息子がロケットに乗って宇宙へ飛び出す話。
主人公のSF作家は明らかにハミルトン本人の投影。作家自身の内面の描き方が素晴らしい名作。

というかんじの全10篇。

ハミルトンの若いころの作品から順にたどって、最期の『プロ』に至る構成の妙がすばらしいです。
最初は確かにちょっとおおざっぱと言うかご都合主義なところが(多々?)ありましたが、段々と巧みになっていって、『プロ』の内面描写なんて、さすがプロ! と言いたくなる出来栄えです。
頭のほうのヒロイックファンタジー的なのは、「そういうお話だし」と割り切って単純に楽しんで、段々と奇想SFの「なんでこんなこと思いつくんだろう!」といったセンスオブワンダーにしびれていって、最期に『プロ』で作家自身の心情の吐露がくる。その内面描写がこれまたSFとして上手いこと機能しているのですよねぇ。ほんと、秀逸で心にグッとくる名作だと思います。
これを最後に収めているのは、やっぱりハミルトンの作家人生を知ってから読んでほしいという編者さんの心意気でしょうね。

最新のSFも良いけれど、こういった古典の名人芸に浸るのもなかなかよいものです。短編集なので簡単に読めますが、飛ばさないでやっぱり年代順に始めから読むことをお勧めします。最期の感動が違いますよ!☆

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