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らせんの本棚

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SF、ファンタジー、実用書からマンガ、画集、絵本などなど、アトランダムに紹介するレビュー集。神楽坂らせんが読んで「グッ!」と来た本を不定期に紹介していきます。もちろんネタバレはな…
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#読書感想文

『はじめアルゴリズム』レビュー

『はじめアルゴリズム』三原和人 (著) ◇ 年老いた頑固者の(元?)数学者、ウチダは出身地である米作島で、誰も聞いちゃいない数学の講演をぶちこわし、苛立ちながら会場を後にします。そして、引き寄せられるかのように、かつて自分が数学に目覚めた母校へ足が向かうのでした。 おんぼろ校舎には、彼が過去に残していった数式の落書きと共に、小学生の小僧が楽しげに遊んでいる姿がありました。 難解な数学と「遊ぶ」小学生!!(小5)ハジメとの出会いです。 この少年こそ、まさに天才だと

『失踪日記』/『アル中病棟:失踪日記2』/『逃亡日記』レビュー

『失踪日記』/『アル中病棟:失踪日記2』/『逃亡日記』 吾妻ひでお (画・著) ◇ はああ~。(ため息) 吾妻さん、もういないんですよね……。 10月13日は吾妻ひでおさんの命日。今日で一周忌だそうです。。 (吾妻ひでおさんは2019年10月13日にお亡くなりになりました><) 謹んでご冥福をお祈りいたします。。南無……。 ――― がっくりと肩をおとしつつ、吾妻ひでおさんの晩年を飾った話題作『失踪日記』~『アル中病棟:失踪日記2』、そして『逃亡日記』を読んで見

『クローディアの秘密』レビュー

『クローディアの秘密』 E.L.カニグズバーグ (著) / 松永ふみ子 (訳) ――― 長女はつらいよ。 こんなことは改めて書くことでもないですが、家族の中で長女というのは、いつだって年齢以上の責務を負わされた上に貧乏くじを必然的に引かされて、つらい思いをしつづけるんですよね。血のつながった家族が存在する以上、「常に」。そして他の家族からは顧みられることはないのです。あーあ。 ということで、12歳の誕生日のひと月ほどまえ、三人の弟をもつ長女のクローディアは、こんな

『アレックスと私』レビュー

『アレックスと私』アイリーン・M・ペパーバーグ(著) / 佐柳信男(訳) ◇ 世界でもっとも賢い鳥類として、全米ネットワークやBBC等で紹介された「ヨウム」のアレックス。 事実、彼は100語あまりの英語を操り、自在に人間とコミュニケーションをとることができました。 ※Youtubeで Alex Parrot で検索すると動画も沢山上がっています。 ↑これはBBCのもの。アレックス本人(本鳥?)と、鳥類とのコミュニケーション研究者であり著者のペパーバーグさんが登場

『完全焚火マニュアル』レビュー

『完全焚火マニュアル』 Fielder編集部(編) ◇ 焚火マニュアルかー。ゆるキャン△流行ってるもんねー。ふつーに焚火の火の付け方とか、薪の組み合わせ方とか書いてある本なんだろーなー。って最初おもっていましたがとんでもないw (もちろんそれも書いてありますが) 「完全」と書いてあるだけあって、まずは「燃える」という根本的なところを科学的に押さえています。 「木に火を近づけたらふつー燃えるじゃん」だなんて、単純なことではなかったんですね。(知りませんでした) 木

『時をとめた少女』レビュー

『時をとめた少女』ロバート・F・ヤング (著) / シライシユウコ (イラスト) / 小尾芙佐・他(訳) ◇ 『たんぽぽ娘』、『ジョナサンと宇宙クジラ』で有名な抒情SFの第一人者、ロバート・F・ヤングの日本オリジナル編集、ほっこり恋愛と一目惚れと純愛と悲哀のSF短編集です。 この、ヤングさんの評価はこれまた日米で大きな差があるようで、バリイ・N・マルツバーグによると、ヤングはSFにおける ”もっとも知られざる作家のひとり” なのだそう。ようは誰も知らない作家であると

『宇宙【そら】へ』レビュー

『宇宙【そら】へ』メアリ・ロビネット・コワル (著) / 酒井昭伸 (翻訳) ――― 時は西暦1952年。人類の技術はようやく宇宙開発のとば口にさしかかり、やっと数個の小さな人工衛星を打ち上げることができたぐらいの時代。 当然アポロ計画なんてないし、まだ有人ロケットも打ち上げられていなかったころです。 そんなある日、突然に巨大な隕石がアメリカはワシントンD.C.近海へ落下。 アメリカの首都を一瞬にして文字通り消し去り、東海岸に未曾有の被害をもたらします。 その日、ロ

『精霊の木』レビュー

『精霊の木』上橋菜穂子(著) ――― 《守り人》シリーズで有名な上橋菜穂子さんのデビュー作、ずっと入手困難でしたが30年ぶりに再販・文庫化されました。 作家生活30周年ということで、この本には、30年前の「初版あとがき」、15年前の「新装版あとがき」、そしてこの本用の「文庫版あとがき」の3本のあとがき、それに加えて《守り人》シリーズの担当編集者である偕成社の別府章子さんによる解説までが付いてきます。上橋菜穂子さんの歴史を知る上でとってもお得な重要資料となっていますw

『揚げて炙ってわかるコンピュータのしくみ』レビュー

『揚げて炙ってわかるコンピュータのしくみ』秋田純一(著) ――― ごめんなさい、またネタで買いましたw が、この本もまた(失礼ながら)ネタ本かと思いきや、どうしてどうして、しっかり「コンピュータのしくみ」についての理解を深められる、優秀な学習書になっています。 ◇ 冒頭、「はじめに」で、1977年に作られた教育映画 ”Powers of Ten” が紹介されます。(これがCG使わないで作られてるところがまたスゴイのですが、まあ、それは余談) ↑未見の方はぜひ見

『テルジーの冒険』レビュー

『テルジーの冒険』ジェイムズ・H・シュミッツ(著)/鎌田三平 (訳) ――― 前回紹介したこちら、 『チックタックとわたし』はこのテルジーの冒険シリーズ(と言っておきましょう)の第一部。 そこから始まる天才少女の冒険物語です。 ◇ 時ははるか未来。人類は銀河に広くいきわたり、さまざまな星域を植民地にして独自の社会形態をつくっています。その星々は〈ハブ連邦〉という大きな枠組みで統治されています。この、〈ハブ連邦〉の政策は基本不干渉であって、よほど大きな(外敵の侵略

『まんがでわかる クライオニクス論』レビュー

『まんがでわかる クライオニクス論』  未来を拓く新技術 実用的クライオニクスへの挑戦 橋井明広 (原作), 清永怜信 (監修), 高原玲(漫画) ◇ クライオニクスとは耳慣れない言葉ですが、簡単に言えばSFによく出てくるコールドスリープ技術のこと。恒星間旅行をする宇宙船には必須の技術ですね。 人間の寿命をはるかに超えた時間を冷凍睡眠(冬眠)状態で過ごし、然るべき時に目覚めよう。という技術のことです。その手のSFにごく普通にばりばり使われています。 単純に低温状態

『あなたの人生の物語』レビュー

『あなたの人生の物語』テッド・チャン(著) 浅倉 久志(訳) ――― ――― ネビュラ賞を受賞し、映画「メッセージ」の原作となった表題作の他、現代短編SFの名手として知られるテッド・チャンの8本の短編を収録した作品集です。 寡作な方のようで、あまり作品数は多くないのですが、ものすごい打率で名作揃いなのですよね。実際、この短編集に収められている8篇の殆どはネビュラ賞、ヒューゴー賞、ローカス賞などなどを総なめしています。 あんまり賞とったからスゴイスゴイと太鼓持ちをす

『なめらかな世界と、その敵』レビュー

『なめらかな世界と、その敵』 伴名 練(著) ――― ――― おんもしろかったです! 短編集なので、例によってそれぞれざっと一言づつ紹介をしておくと…… ◇ 『なめらかな世界と、その敵』 表題作。表紙のイメージこれかしらん? 青春SFでちょっぴち百合成分♪ 最初わけのわからない状態から始まって「なめらかな世界」の意味に気が付いた時に印象がガラッと変わります。この世界の認識の相転移感がとってもセンス・オブ・ワンダー。読了感もさわやかでよいです。 『ゼロ年代の臨界

『フェッセンデンの宇宙』レビュー

『フェッセンデンの宇宙』〈河出文庫版〉エドモンド・ハミルトン (著) 中村 融(編・訳) ◇ 『反対進化』の紹介でも触れておきながら、そういえばちゃんと紹介していなかったわ~というわけで、あらためて、こちらもレビューしておきますね。 これは、エドモンド・ハミルトンの傑作『フェッセンデンの宇宙』のスペシャルバージョン、いわば完全版ともいうべき短編集です。 実は、早川書房から1973年にも同じ書名『フェッセンデンの宇宙』として短編集がでています。が、いわゆる銀背本で当然