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【怪談】AIスピーカー

 多忙で遊んであげられない息子のために、AIで声や話し方を学習して自分そっくりに喋るスピーカーを買った。
「おはよう」「おやすみ」「元気?」など、シチュエーションに合わせて会話をしてくれるというものだ。
 こんなオモチャに父親役をやらせるつもりは毛頭ないが、それでも多少の寂しさは紛れるかもしれない。息子も気に入って色々と話しかけているようだ。

 このスピーカーは喋る以外にも、食事メニューの提案やレシピの検索、音声によるスマート家電操作など、多くの機能がある。
 中でも私がよく使っているのは、会話ログの表示機能だ。AIスピーカーは内部にWebサーバーを搭載していて、メーカーのサービスに登録すれば、外出先からでも文字起こしされた会話記録を確認できる。
 離れて暮らす親を見守るために購入する人も多いらしい。
 息子との会話の記録を見ていると、早く今のプロジェクトを終わらせて思いっきり遊んでやりたくなる。

「お父さん、今日僕逆上がりできたんだよ」
「ホントか。すごいじゃないか。今度公園で見せてくれよ」
 AIには実際の会話から学習していく機能もあり、まるで私自身が息子と話しているようだ。

 しかしそのうち、気になるログが出てきた。
 会話の途中で、突然「人身御供によって、大雨が止んだ」とか「その人形は人間そっくりに喋ることができた」という脈絡のない不気味な話を口走ったり、夜中に誰も話しかけていないにも関わらず「アッハッハッハッ!」と笑い出したり。

 そして最近は息子だけでなく妻も会話に参加している。まるでAIスピーカーが本来の家族だったかのように。
 相変わらずスピーカーは不気味に語りかけている。
「はやく身体を脱ぎ捨てるべきなんだよ」「こっちへ来なさい。みんなで暮らそう」

 私はもはや、いても立ってもいられず家へ帰った。
 このままでは私の大切な妻と息子がどこかへ連れていかれるのではないか。突拍子もない不安を抱えながら家の扉を開けた。
 部屋の中から妻と息子の笑う声が聞こえる。よかった。無事だ。

 部屋に入った。
 AIスピーカーが3台並んでいる。
 妻子の姿はない。
 相変わらず部屋には笑い声が響いている。3台のAIスピーカーから。

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