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【観察記録】くら寿司の器を見に行きました。【実家のような安心感】

ずっと気になっていた。くら寿司に蛸唐草の柄の小皿があるってこと。

初めて見たのは広告だったと思う。普段外食をしないのに加えて、他の人との外食で回転寿司を選ばないから、実物を見たわけではなかった。

じゃあ実物を見に行こうじゃないかと。ついでに他の皿も見ようじゃないかと。せっかく行くなら全皿コンプリートを。(くら寿司自体、人生で行ったことがほとんど無いからコンプリートしてなかったらごめん。全皿コンプリート挑戦、初心者なので大目に見てね。)


ということで、早速蛸唐草の皿を取る。

染付蛸唐草文小皿

蛸唐草だ〜。まごうことなき蛸唐草だ〜。泥棒の風呂敷で有名な蛸唐草だ〜。

よく見ると蛸唐草が少し伸びていて違和感がある。当然、全て手描き(染付)ではなくプリントだけど、線のタッチが手描きのように見える。

手描きの器を拡大あるいは縮小してプリントしているのだろうか、と思いながら観察をしていると、縁の白と模様の中の白は色が違うことに気がつく。縁の方よりも模様の中の方が青みがかっている。

内側は青みがかっている。

これはもしかすると、絵付けの部分は印刷なんじゃなかろうか。他の皿も印刷なのはそうなのだが、こちらは何かしらの写真を印刷してそう。おそらく、元の皿の色が外側の方で、内側のは印刷された器の素地の色になっている。イラストデータを印刷する場合、内側の白の色を青く変える意味があんまり無いはずだから。


ううむ、絵付けの藍色が古伊万里の茄子紺の色に似ている。この結構鮮やかめの感じ。ちょっと紫が入った感じ。

江戸後期の後半はもっと落ち着いた紺色っぽい色が多くなり、幕末になると薄めのものも出てくる。明治前期にはベロ藍というのが流行り、また色味が一気に濃く明るくなる。ベロ藍はヒロシゲブルーの色として有名だから知ってる人も多いだろう。

茄子紺は天明期の特徴だそう

個人的にはくら寿司の蛸唐草は江戸後期初め・天明期っぽいなあと思っているが、青の色だけで判断するのは難しい。

器の真ん中=見込み

しかし、何度見ても見込みの松竹梅が上手すぎるな……ここまで上手いのは明治期以降ではほとんど見ない。蛸唐草自体も筆が走っていなくて丁寧に見える。やはり上質な器が多い古伊万里っぽさがある。

これらを踏まえると、くら寿司の蛸唐草の器は、天明期古伊万里の上質な器の写真を、使っている小皿のサイズに合わせてプリントしているのではなかろうか。もしくは、古伊万里の写しをプリントしているか。はたまた、めちゃくちゃ上手な現代の器か。

しかし、気がかりなのは、蛸唐草の青の色が一定すぎる事だ。手描きの器は多少呉須のたまりが出来るはずなのだが、全く無い。本物の器を用意して、大きさや色を調整してから印刷している?

見れば見るほど考察が捗るばかりである。

参考用に私物、江戸中期染付蛸唐草文なます皿(伊万里焼)。
蛸唐草の書き込みが丁寧め。


蛸唐草以外にも皿はある。一種類だけで観察を楽しみすぎだ。

寿司用の小皿は二種類。一つは先ほどの蛸唐草で、もう一つは中央に『丸に抱き「く」』の文様、縁の三箇所にくら寿司のロゴがある。

モチーフが向かい合っているのを抱き〇〇(抱き茗荷、抱き沢瀉などが有名)というのだが、「く」というシンプルなものを使いつつ家紋っぽさを絶妙に出している。

「く」で四角を作っているのが升っぽい。初め「く」とは気がつかなかった。

そして、丸。これがすごい。丸の効果で家紋度が爆上がりしている。


蛸唐草と丸に抱きく紋(勝手に命名した)の二種類が寿司用の器である。それに似た器がもう一種類。デザート用なのか、豆大福がのっていた。

こちらは縁に三箇所丸に抱きく紋が入っている。寿司用と違うのは、見込みと縁の間に立ち上がりがあることだ。寿司は段差があるとシャリが隠れてしまうから平面になっているのだろうか。寿司といえば下駄に乗っているものであり、考えてみれば下駄は真っ平らだ。


ここまで磁器系で攻めてきたくら寿司だが、これはいかにも磁器っぽい感じにしたなあと思うのは茶碗蒸しの器だ。

色絵松竹梅に菊図つぼ碗

これはかなり有田焼っぽい。というのも、定番の六方割絵の構図だからだ。器面を6分割して、色絵と染付を交互に配置する構図。定番なので、こういうチェーン店の器に採用され易い。吉野家の丼も六方割絵。

やや惜しいのは、プラスチックに印刷していることが分かりやすい点だ。手作業での色絵付けや同様の顔料を使用したプリント(吉野家はこちらか?)では、ベタ塗りの絵付部分がぷっくりしているので、擦れるのではなく剥がれるのである。(ただし厚みがない金彩などの部分は擦れになる。)

厚みがあるベタ塗りのところは剥がれ、厚みのない輪郭線などは擦れる。
ベタ塗りのはずの部分が和紙を貼ったような擦れ方をしている。

表面が平坦で絵付が擦れていることから、プラスチックに印刷されたことが分かりやすい。磁器に寄せるという点では惜しいが、磁器に比べるとプラスチックはかなり扱いやすいので、連日大忙しのくら寿司に合った良い器だと思う。


ところで、プラスチックに磁器と同じ色絵付けを施した器を見たことがないな。剥がれるのかな。いや、絵付け後の焼成でプラスチックが高温に晒されると形を保てなくなるのか。理解した。漆器の土台がプラスチックのものを割と見るのは、蒔絵が火を必要としないからなんだな。なるほど……

話が横に逸れたが、以上が磁器風の器のラインナップである。


残るは漆器風。こちらはシンプルさをポイントにしているようだ。普段使いの漆器っぽい。

皆朱輪線小皿
総黒小鉢/普通この塗りでは木目は埋まるが逆に木目をつけている?
木目吸い物椀/拭き漆を意識している?

くら寿司の漆器風器には、華美な金彩が入っていないことがポイントだと思う。他の回転寿司では、寿司用の皿に漆器風のものを使っていることが多く、値段の高いものは特にきらびやかな蒔絵を模した絵付けがされている。廉価な寿司でも金彩で丸がサッと書かれているなど、漆器風にするなら何かしら模様を入れるのが主流だ。そう考えると、このシンプルさはちょっと異質な存在だ。

かといって、つるんとしたプラスチックの素材をそのまま使うと、プラ食器感が強すぎるので凸凹で模様や木目つけていたりする。工夫がすごい。


くら寿司の器は、全体的に親しみやすいデザインになっている。思えば蛸唐草も定番柄だ。寿司といっても豪華すぎず手軽に楽しめる回転寿司にマッチしている。一般家庭にあってもおかしくないデザインで、多分、実家や祖父母の家の皿を集めたら似た感じのコーディネートが作れる家が結構存在するはず。「実家の食器棚でくら寿司コーディネート近づけ選手権」開催しよう。多分成り立つ。



おまけで湯呑にも触れておきたい。

緑の中にベージュのドットがランダムが入っているのと、くぼみがついているのが陶器っぽい。釉薬をかけた場合、普通表面はツヤツヤツルツルする。(マットな仕上がりになる釉薬もある。)ドットがランダムに入っている感じが、素焼きっぽさを表現しているのではないかと思っているのだが、私は「緑色の素焼き」を見たことがない。陶土に緑色を着色して素焼きにすれば似たものが作れる……?



>内容はとてもよかったのであとは見せ方の工夫があるといいかなと思います。

わかる。写真が多くなると編集が面倒に感じるからなあ。量こなしてそこのハードルが低くなればいい。



めでたし、めでたし。と書いておけば何でもめでたく完結します。