【器のはなし】丁寧さを感じない迷いのない筆致が良い。

前回の予告通り、東北の磁器の話をしましょうね。前回のは白磁だったが、今回は染付と印判を持ってきた。染付は手描きの絵付けで、印判は転写での絵付けのこと。

「印判の染付」と表現することもあり、この場合の「染付」は「藍色の下絵付け」くらいのニュアンス。印判単体の絵付けの場合と、印判と染付を両方使っている場合と様々あり、どっちを取れば良いんだ?となりそうだが、基本的に印判があれば印判と言う。

印判の種類はいくつかあるが、今回は「型紙刷り(紙刷)」しか出てこないので、今日はそれだけにしておく。



明治前期紙刷山水図7寸皿

見込みが山水図、つまり山とか海とかの風景図になっている。めっちゃよく出てくる図柄で、山水図は基本的に安い。たくさん出てくると言っても、絵付けをする職人や色合いで雰囲気が変わるし、初めは「あんまり好きじゃないな」と思っていても、「これは好きかも」っていうのに出会える可能性もある。

裏側の龍と見込みの山水図は染付。明治前期らしいベロ藍の力強い色味と豪快な筆遣いが、東北の勇ましさを出している。丁寧さを感じない迷いのない筆致が良い。

山水図の部分は、上から山、舟の帆、海、家、岩が描かれている。舟の帆はそれと言われないと分からない人の方が多そう。この逆三角形は舟以外にないので、これから出てきたら舟かあ〜と思っておけば乗り切れます。

そして、縁は型紙刷り(紙刷印判、紙刷とも)で小紋が並ぶ。六方割絵で二種類の図柄が交互になっている。

一つは十がめっちゃ並んでるやつ。これは何て名前の模様なんだ?紙刷は、渋柿で撥水加工した型紙を使っていたそうだ(着物の型紙もそういうのを使う)が、さすがに耐久性がそこまでないので線に繋ぎ目を入れて破れないように補強する。だから線が途切れ途切れになる。その繋ぎ目が変にならないようにうまいこと作り出した模様かもしれない。

二つ目は、片身変わりで片方に松皮菱の中に市松模様、もう一方に上の方が桜、下の方に花(梅か?)と折れ松葉と周りに花散らし。複雑すぎて説明しようとすると心が折れそう。

まず、片身変わりは、画面がギザ線で区切られて二画面作っていることを指す。その片方に松皮菱、松の皮を剥ぐとギザギザに取れることから菱形に小さな菱形をくっつけたような形を松皮菱というのだが、それをフレームにして市松模様が中を埋める。もう片方に、花とかが散らばっている。

という感じで、次に行きましょう。



明治前期紙刷山水図7寸皿

先ほどと同じ蛇目高台の造り。ジャノメ。高台の中の中央の円を除いた部分の釉薬を剥いだものを蛇の目にみえることから蛇目高台というのだが、全然共感できない。蛇の目をちゃんと見たことないし。

裏側。多分波千鳥。山みたいなのが波で、丸いのが千鳥。一つの丸で一羽。ざっくり絵付けすぎて、合ってるかどうか。

前回の角小皿と同じで、見込みに目跡が4箇所ある。ということは切込焼か……?そうであれ。そうだと信じている。

こちらも山水図だが、染付ではなく紙刷印判。先述の通り、線が途切れている。紙刷は線が途切れるのと、線の太さが一定なので、模様がゴチャつきがち。しかもなぜか色んなモチーフを詰め込むことが多くて、一つ前の7寸皿みたいに説明が大変になりがち。

海や山などの青く塗りつぶしてある部分は染付。印判は大量生産を目的としているが、塗り潰しは染付でやるのが結局一番早い。そのため印判と染付を併用することが多い。



明治前期染付花図小皿

こちらもベロ藍。花は、何だろう、これは。桜?はっきりと「これはかわいい!」ってなる絵付けじゃないのに、なんか惹かれる魅力がある。私は東北の焼き物の風合いが好きなんだと思う。

高台の中が無施釉でざらざらしている。釉薬をかけない感じが、洗練されきってない素朴な印象に繋がっているところあると思う。

4箇所の目跡。これはもう切込焼でしょう。



明治前期染付山水図7寸皿

これは全部染付。下の方にある箱の部分が多分家で、中に人がいる。中央左側には木が生えているが。こういうときに描かれるのは松が多い。でもこれ松っぽくないな。葉っぱの生え方とか、枝の角度とか。

一つ前の小皿と高台のざらざら感が一緒だ。よく見ると、7寸皿の方は4箇所丸く白抜きになっている。赤くなっているのは、火が当たったところである。ということは、白い部分には何かしらが置かれていた訳で、4箇所あるってことは表面の目跡の数と一致するのである。さては重ね焼きをしてますね?

小皿の方はぐるぐる模様がついているのに、7寸皿の方はついていない。

木に2箇所、奥の山の山頂付近、手前の山の山頂付近に1箇所ずつ茶色の目跡がある。

目跡が茶色いのが気になるんだよなあ。窯が違うのかな。切込焼を作る窯がいくつかあったはずだから、それぞれで窯独自のやり方をしていて、それによる違い?

表面に目跡があって、高台内が施釉されてないっていう特徴が被ってるから、産地は一緒だとは思う。



ところで、東北の焼き物といえば福島の会津本郷焼、大堀相馬焼、宮城の切込焼が有名どころだ。というか、それ以外が「ある」ことしか知らなくて、それ以外を挙げることが私にはできない。無力。

会津本郷はどちらかというと陶器の産地で、相馬は馬の絵が書いてあるから、東北のこういう磁器というとなんとなく切込か……?となる。が、そのへんの研究が進んだら産地が全然違ったみたいなこともありそうだ。もっと南の方だった〜とか。

というか、今回載せているものも東北だよって言われたから東北なのねと思って載せている感じで、自分で判断出来るほどの眼はまだない。


先日、大森貝塚のモース博士が日本の陶磁器をコレクションしていたのを知ったが、それを知った論文に「東北の磁器は、出来の良いものだと伊万里と間違うようなものもあった」的なことが書いてあった。伊万里は日本の磁器の始まりの地であり、柿右衛門、鍋島などの上手物を多く生み出してきた。もちろん、粗野なものもあるが、基本的には「磁器の見本」みたいな立ち位置にいる。だから、それと遜色ないというのは結構な出来栄えなのである。

いま、なぜか骨董好きの間で東北の焼き物の人気が高まっているらしい。数もあまり出てこないし需要はあるしで値段が高くなっている。前回の角小皿を購入したお店の人が言うことには、「東北の焼き物は東北より東京の方が安い」そうだ。地元愛が強い。でも多分流通している数が違うから、東北の骨董屋も覗いてみたいなあ。


次回更新 12/5:器の話をする予定。印判の話しますか?
※だいたいリサーチ不足ですので、変なこと言ってたら教えてください。気になったらちゃんと調べることをお勧めします。


めでたし、めでたし。と書いておけば何でもめでたく完結します。