【古本のはなし】昭和十年の裁縫の教科書を読む。和服編。

先日、東京蚤の市で裁縫の教科書を手に入れた。以前より『ソーイングの教科書』を頼りに裁縫をしてきた私だが、今度は本当に教科書だ。

古本屋で税込三百円。中を見ると、「昭和十年一月十一日文部省検定済」とある。続いて、「師範学校・高等女学校裁縫科用」「実業学校家事及裁縫科用」だそうで、義務教育や普通科では扱わない教科書のようだ。

中をめくって、前書きのようなものには「これは全部で四巻あって、各学年に一冊ずつ使用するものとして教材を配当」と書かれている。ギョッとして再度表紙を見たら、大きく「2」と書かれていた。ほんとだ、なぜかこれ一冊で完結すると思っていた。

これ一冊で完結すると思っていたのは、おそらく私が中学高校ともに家庭科の教科書は一冊しか使わなかったからではなかろうか。人生が長くなると、経験を基にした発想ばかりしてしまう。


目次を見たら、和服の部と洋服の部があった。おお、裁縫に和服がまだちゃんと組み込まれているのか。実際、日常的に和服を着ていたのっていつくらいまでなんだろう。という話題はさておき、今回はその「和服の部」をパラパラめくってみる。

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まずなんとなく見た目がおしゃれだ。フォントのおかげなのか。流行ったフォントなのか分からないけど、現代から見るとレトロで良いなと思う。行間や文字の大きさが見やすくて、教科書っぽさも感じられる。

まあまあ読みづらいポイントとして、漢字が旧字体なのがある。昭和の文章で旧字体を読まされるの、なんか納得いかないよなあ。大正ならギリ理解できるんだけど。常用漢字が出来るのってもっと遅いのか……1981年(昭和56年)内閣告示だそうだ。最近だ……


この本の和服の部では、長襦袢、帯、綿入、女袴を扱っている。洋裁と違って、和服は型が分かりやすい。カーブがないし、四角をきちっと組み合わせて生地を無駄にしないよう裁断することができる。

服を作るのに型紙いらないの、理想すぎるだろ。型紙を用意するのが面倒なんだから。まあ、このシンプルなパーツの寄せ集めは立体を作れないから、ドレスの丸みやスーツの肩や腰のラインのようなシルエットを作れないのが弱点だよねえ。帯はその平坦なラインにメリハリを出してスタイルをよく見せてくれるから、見た目の面でも必要なんだなあと思った。抑えるだけなら紐で十分なので。


前書きに「図や実写写真を載せて理解を促す」とあったが、図がやたらおしゃれで羨ましい。配置のセンスがいい。そして分かりやすい。


教科書なのでちゃんと問題がついている。文字を追って読んだにもかかわらず、全然答えを思いつかなかった。着物関連の語彙が乏しいせいで、教科書の内容が入ってこないのだ。


漢字が難しくて、読めねえ〜というのは現代の技術に頼れば読める。現代では写真の文字をそのままコピーする機能がある。なので、写真を撮って文字をコピーし、Googleで検索をかければ解決する。

簡単だがいちいちやっていると面倒ではあるため、一旦周りの文章から推測する。「烙熳」が分からね〜と思いつつ、まあアイロンかなと読み進めると、写真が登場した。

手に持っているのが「烙熳」

ああ、なんだアイロンじゃん。この時代はまだそんなにアイロンが普及してなかったのかな。と読み進めていたら、普通にアイロンも出てきた。

両方出てくるのは、アイロンと「烙熳」を使い分けていたということだろうか。じゃあ「烙熳」て何?と調べてみたら、焼きごてや焼き金のことらしい。わざわざ使い分けなくてもアイロン使えばよくない?なんで分けてるのか謎だ。


漢字の方は調べれば良いのだが、言い回しで引っかかる部分も。

名古屋帯の話で、「この帯は胴回りのところが、半幅になっているので、用布が経済で又締めて軽く、その結んだ体裁は、腹合わせ帯と変わらないので、日常又は外出用としても盛んに用いられるようにやってきた。」とあり、急に「経済」と言われて「ン?」となった。

しかしちゃんと考えてみれば、使う布が少ないので経済的だ、お財布にやさしいということであった。この言い回しって今も使われるのかな。


寸法表が分かりやすい。どの部位のことを言ってるのか分からんけど、計算が単純そうでいい。


綿入の話で、「最近は綿入ではなく保温は下着により調整する」「綿入は仕立てが手間で、着た時も動きづらいし、見た目もあまり良くない」と書いてあった。確かに、着物全体に綿を入れてモコッとしたら、ずんぐりむっくりになってしまう。冬の厚着を程々にしないと動きにくくなるのも良くわかるし、UNIQLOのヒートテックをみんなが愛用する理由も多分「軽い、動きやすい、見た目がいい」だからよね。


という感じで、サラリと見たが「覚えたら仕立てやすそ〜!」という印象。洋裁よりずっと楽だろ、これ。選ぶ布や布の長さを変えて、洋服と和服のちょうどいい折衷服を考えたら作るのも着るのも楽だろうなあ。それは甚兵衛のことかもしれない。

白黒で経済だが、フォントや図版がスタイリッシュなおかげで読むのが楽しい。この時代に学んでいたら退屈な教科書だったかもしれないけど、学びとか関係なく昔の教科書を読むのは良いなと思った。



こういう系の話が好きな方は↓をどうぞ。

次回更新 7/3:洋服編
※だいたいリサーチ不足ですので、変なこと言ってたら教えてください。気になったらちゃんと調べることをお勧めします。

めでたし、めでたし。と書いておけば何でもめでたく完結します。