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盆と正月とクリスマスが一気に来たみたいなやつ B'z×Mr.children『B’z presents UNITE #01』を配信で観た

"世間知らずだった 少年時代から
自分だけを信じてきたけど"

稲葉浩志がこの一節を歌い始めた瞬間に、「こんなことがあってもいいのか?」と、思ってしまった。そして桜井和寿がアコギを弾きながら次のパートを歌う。

序盤はピアノとクリーンなギターアルペジオだけのアレンジで、2人のボーカルのアカペラに近い状態。画面越しではあるが、細かい息遣いまで感じられる。サビでは稲葉が主旋律を、桜井が低いパートをハモる。
2人とも、一声聴けば「この人だ」「このバンドだ」となる特徴的な声の持ち主だ。桜井の優しいながら力強さを感じられる声と、稲葉の哀愁のある声が合わさり、一つのメロディーを奏でている。それぞれの個性はそのままに、でもぶつかることもなく、心地よい空間を作り出している。

2番からはバンドの演奏が加わる。ステージ全体に照明があたり、Mr.ChildrenとB'z、両方のメンバーの姿が見えてくる。演奏をリードするのは松本の、暖かみがあって、まさにB'zと思わせるギターサウンド。それを土台で支えるのはMr.Childrenのバンドの音。演奏の素晴らしさはもちろんだが、30年に渡り日本の音楽シーンのトップを走ってきた二つのバンドが、こうして同じステージに立って、共に演奏しているという事実そのものに感慨深いものがある。

最初の動きは今年の5月にYouTubeで公開された、稲葉と桜井の対談だった。正直、これだけでも驚きだった。
これまで、両バンドが公の場で関わることはほぼ皆無だった。松本がラジオMr.Childrenの「ALIVE」を褒めてたとか、桜井が何かの番組で「今夜月の見える丘に」を歌ったとか、Music Stationのエンディングで会話している場面がテレビに映ったとか、そんな話を耳に挟んだりはしたことはあった。けれど、そもそも音楽性は近しい訳ではないし、活動スタイルも違うので、表立った関わりがないこと自体は、何ら不思議などとは思わなかった。

動画内での彼らの言葉を引用すれば、まさに「トーナメントの違うサイド」にずっといた両者だ。そんな彼らが1時間以上に渡って対談をして、互いのバンドについて話しているのも興味深かった。
個人的には、母音によって出しやすいものとそうでないものがあるという話。私もカラオケで歌うとき、a音やo音は出しやすいが、i音は難しいと思っていたので、「母音によって違うということはやっぱりあるのか!」と一瞬思った。が、よくよく考えたらプロの感覚と素人のそれなんて全く違うと思うので、たぶん気のせいなんだと思う。

そして対バンイベントの発表がされた。
正直、それでもコラボはしないだろうと思っていた。MCなどで互いのことを言及してくれるだけでも充分だった。両バンドの楽曲は、それぞれのメンバーの内で既に完成されていて、それを崩しようがないように思っていた。各々の演奏スタイルも個性的で、合わさる姿は全く想像ができない。桜井がB'zの曲にゲスト出演するくらいは、もしかしたらあるかもしれないくらいは思ったが。

2回目の、「stay」というロングトーンのサビの後はギターソロに突入する。原曲では田原→桜井とリレーされるが、Mr.Childrenの中でここまで長く、聴かせるソロはそれ程多くない。今回はまず田原のソロパート、ではあるのだが派手なフレーズではない。ベースの中川・ドラムのJENのプレイも含めて主役を引き立てるための、次への橋渡し的なアプローチは、まさに「Mr.Childrenの楽器隊」といったプレイだった。そして、満を持して松本のソロパート。随所に原曲のソロの雰囲気を交ぜ込みつつ、「B'zだ」「松本だ」と感じられる音色で、緩急を織り交ぜた安定感のあるフレーズだった。

この曲の仮タイトルは「エアロ」だという。個人的に、Aerosmithの「What It Takes」に雰囲気が似ているということは以前から思っていた。だからどうってことは一切ないが。
そしてB'zはAerosmithとは何度も共演をする間柄だし、音楽性からアレンジや個々のフレーズまで、様々な面で大きく影響を受けている。最近の稲葉は特に、Steven Tylerに近付いてきているような気がする。ちなみに「What It Takes」に似ている曲はB'zにもある。そんな間接的な繋がりが、この選曲に繋がったかどうか知らないが(いや、多分無い)。

大サビは3本のギターと2人のボーカルと、バンドメンバーによるコーラスも加わり壮大なアレンジに。それぞれがどんな音を出しているかが気になって、何度も巻き戻して見てしまった。最後にJENが、松本に対して「どうぞ」といった様な動作をしているのが印象的に残った。おそらく締めの音を出すタイミングを松本に委ねたのかと思う。
MCからも、ちょっとした振る舞いからも、互いがリスペクトしあっている様子が感じられた。

共演の機会はもう一度あった。B'zのアンコール時に桜井が招かれ、「さまよえる蒼い弾丸」を歌ったのだった。
この曲がリリースされたのは1998年。この年にリリースされた「B'z The Best "Pleasure"」「B'z The Best "Treasure"」の2枚のベストアルバムは、合わせて1000万枚以上を売り上げた。シングルもアルバムも、ミリオンヒットを連発していた時期だ。B'zの人気が絶頂だった時期だ。

”落ち着く場所ありますか?って そんなのまだいらねぇ”

それまでの状況に慢心するつもりを微塵も見せない姿勢が、歌詞からも疾走感がある曲調からも感じられる。一方でイントロやアウトロや間奏では、シタールや民族音楽風なパーカッションが取り入れられて厳かな雰囲気がある。ライブでは頻繁に演奏されて、随所にギターやベースのエフェクトの効いた小技が挟み込まれるので、聴いてて楽しい一曲でもある。

ライブアレンジやカバーなどで、いつもとは違う形で曲が披露されると、今まで気が付かなかったその曲の良さや、バンドの良さなどを再認識することがある。
「さまよえる蒼い弾丸」では、歌い出しは桜井のソロパートで、それを聴いて「桜井の声ってこんなにも明るくて快活だったのか」と改めて感じた。普段は稲葉のしゃがれた、独特のクセのある歌声で聴き慣れているだけに、余計そう思ったのだろう。

サビでは2人が向かい合って、互いの声をぶつけ合うようにして歌う。繰り返しにはなるが、長年に渡りトップを走ってきた、そして齢50を越えた2人が、こうして力強い歌声と素晴らしいパフォーマンスを披露している。いや、長いキャリアを経てきたからこそ、闇雲な力技だけでない、その時々に最適な力の出し方を心得ているのではないか。そしてそれがこの素晴らしいコラボレーションになっている、という気がしてきた。
そして最後は「もっと…」「もっと速く…」という掛け合いが続く。交互に繰り出されるシャウトは圧巻としか言いようがない。


――以下余談。

私は中学生の時にB'zと出会い、その後松本に憧れてギターを始めた。大学時代に軽音楽サークルに入って、人と音を合わせる楽しさを知ると、Mr.Childrenのバンドとしての魅力を知ることになった。
我が家には3本のギターがある。一つはアコギ。そしてBacchus製のLes PaulタイプのモデルとFender製のTelecasterだ。「Evervthing(it's you)」で桜井、松本、田原が使用していたものと同じものだ(メーカーなどの細かい違いは置いておく)。つまり、我が家では以前からB'zとMr.Childrenのコラボがされていたのかと、ライブを観終わったあとの高揚感の中で、そんなことを考えたのだった。

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