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しじゅうくにち旅物語

(あらすじ)人は亡くなると「あの世」へ行くとされています。仏様になるには49日かかると言われていますが、「あの世」で故人はどんな旅をするのでしょうか。
人が亡くなって直ぐに行くところは「中有ちゅうう」と呼ばれるところ。「あの世」でも「この世」でもないところ。
その中有を49日かけて旅をします。
死出の旅は距離にすると約800kmとも言われています。7日毎に裁判で裁かれることは有名ですが、その裁判が少しでも有利に進むように7人の御尊格(ごそんかく)達が助けてくれます。それはどんな「助け」なのか、
旅人は果たしてその旅をどんな風に進んでいくのでしょうか。そして無事に終える事が出来るのでしょうか
その全貌をおとぎ話風にまとめてみました。

#創作大賞2024

第一話 不動明王(初七日)

その旅人が目を覚ますと、辺りは真っ暗。月も星も見えぬ闇の中でした。慌てて立ち上がり、周りを見回しましたが、一筋の光すら見つかりません。

「ああ、私はどこにいるのだろう?なぜこんな場所に来てしまったのだろう?」と、旅人は不安な気持ちでいっぱいになりました。

そのとき、ふと鼻をくすぐる香りがしました。「これは...」と旅人が思わず呟いたのは、懐かしいお線香の香り。その優しい香りに包まれ、旅人はしばし物思いに耽りました。
その匂いにつられて歩いていくと大きな川が見えます。
大きな川には橋がついているのですが、足を前に出しても進めません。
はて?と思い悩んでいるとそこへ、
突然、ドスンドスンと大きな足音が聞こえてきました。
「まあ!何が近づいてくるの?」驚いた旅人は、恐る恐るその音のする方へ振り向きました。
そこには大きな大きな鬼の形相をした恐ろしい人が立っていました。
右手には大きな剣を持ち、左手には長い縄を持ち背中にはメラメラと燃える炎を纏っています。

旅人は恐ろしさのあまり、膝をつき、頭を下げて「どうか助けてください」と懇願しました。

すると、その恐ろしい姿の者は、思いがけず優しい声で語りかけました。

「恐れることはない。お前はまだ、なぜここに来たのか分かっていないようじゃな」

その優しい声に、旅人は思わず顔を上げ、「はい、仰る通りでございます」と答えました。

「わしは不動明王(ふどうみょうおう)じゃ。お前は肉体を離れ、魂となってここへ来たのじゃ。お前の世界との縁を断ち切り、穢れを祓うために、わしがお前に会いに来たのじゃ」

旅人は混乱しました。「魂になった?肉体を離れた?」そう思いながら自分を見ると、真っ白な着物を着ていることに気づきました。
最後に覚えているのは病院のベッドに寝ていると死んだ筈のお母さんが「もう、行こうね」そう言ってどこかへ連れて行かれたこと。
母は何処へ???どこにいるんだろう??
「おかあさーん」そう叫ぶと同時に

突然、頭上に大きな剣が振り下ろされるのが見えました。

「ぎゃーーーっ!」と叫びましたが、ものすごく大きな光に包まれたと思ったら剣は無事に振り下ろされ、大きな不動明王様はにっこりと微笑んで言いました。

「旅を無事に続けるのじゃぞ」

そう言って、旅人をつかむと橋の向こうまで放りなげました。
旅人はびっくりしましたが、やれやれ、橋を渡れたと思い不動明王様にお礼を言おうと思って振り返ったら、

もう不動明王様はふっと姿を消してしまいました。

しばらく呆気に取られましたが、とにかく歩いて進んで行こうと思い薄暗い道をゆっくり進んでいくことにしました。

また良い匂いがしました。
お線香の香りです。いったいどこでお線香を焚いているのだろう...

ずっと良い匂いがしていたのですが、不動明王さまに突然会った事で感じませんでしたが、良い匂いに身体中を包まれ、不思議なことにお腹がいっぱいになっていくことに気がつきました。

歩きながらさっき不動明王さまに言われた事を思い出しました。

肉体を離れて魂になった.....

言われてみるとまとわりつくような「縛り」を感じて身体が重かったのが不思議と軽くなっていました。

大きな剣で切られたのに全く痛みはなく目を開けていられないほどの大きな光に包まれただけです。

不思議なこともあるものだなぁ....
そう思いながら歩き続けていました。


#創作大賞2024 #ファンタジー小説部門


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