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小説「景色」その2

先日、投稿した小説「景色」は、「アイデアを形にする教室」の2月の課題として提出した作品です。

今日は、この小説を、講師の方にアドバイスをいただいてから、

友人の沙知の視点から描くという形で書き直してみたものを投稿したいと思います。

「景色」

 わたしは未緒の家に入るなり、きちんと片付けられ整理整頓されたリビングにおどろき、

 「うわー、片付いてる!うちの子が3歳の時なんて家の中ぐちゃぐちゃだったよー」と言った。

 未緒は冷蔵庫から麦茶を取り出してコップに注ぎながら、

 「今日は片付けただけでうちもそうだよ」と言った。

 「この時期はどうしてもね…で、相談も子供のこと?」と、わたしはさっそく聞いてみた。未緒は玄関の方を見つめながら、

 「うん…ごはん食べてくれなくてさ…もう毎日泣きじゃくりたいよ」とぼやいた。

 さっきまで爽太君が幼稚園に行きたくないとぐずっていたのかもしれない。それも毎日。ごはんは食べない、幼稚園にも行きたくない、毎日ぐずる。そんなこんなで泣きたいのはわたしの方だ、ということだろう。わたしもあの頃はつらくて鬱病になってしまったから、未緒もそうなのではないかと勘ぐってしまう。

 「幼稚園のお弁当はどうしてるの?」とさらに聞いてみる。

 「先生と相談しながら卵焼きとエビフライだけとか。なのに残されるからね。週3回はそんな感じ。朝ごはんと夜ごはんもなかなか食べてくれなくて…」と未緒はうつむきながら言った。わたしは、

 「聞いてるだけでつらいわ…」とつぶやいたが、

 「ダンナは何て言ってる?」と続けて聞かずにはいられなかった。

 「仕事が忙しくていつも帰りが遅いし会話してない」

 「寂しいし孤独だよね…」

 「っていうより、爽太がごはん食べないっていうのがやっぱキツイよ」

 未緒はわたしから目をそらして、すかさず言い、

 「でも…夫にも、なんで自分の子供のことなのに他人事みたいな顔してんだろ?とか思ってムカつくんだよね」と続けた。

 「うん…あのさ、それはひとりでいる時?目の前にダンナがいる時?」

 「うーん…ひとりの時の方がムカついてるかなぁ…」

 「簡単にわかる、っていうのもどうかと思うけど、あたしもそうだったから…。自分の食事もテキトーになってるんじゃない?」

 わたしは、外遊びはどれくらいさせてるんだろう?とか、まず親が食事をおいしそうに楽しく食べているか、など聞きたいことは他にもあったが、自分がそういうふうに夫や自分の親に聞かれて、ひどくうんざりした時期があるのでやめておいた。そんなことは未緒もわかっているだろうし、できる限りのことはしているのだろうから。

 「もうすぐ幼稚園のお迎えの時間だよね?あたしそろそろ帰るね」と言って、わたしは椅子から立ち上がった。

 「うん…ほんとありがとう。沙知も忙しいのに。そのうちまた会って話したいんだけどいいかな」と未緒は申し訳なさそうに言った。わたしは「もちろん」と、なるべく明るい返事をして、自宅へと急いだ。


 それから何日か経って、未緒からメールが来た。爽太君がごはんを食べている写真に、

 「けっこう食べてくれてる!!今日、久しぶりに3人で買い物行って、夜ごはんも皆で食べてる。この前、沙知が言ってくれたこと思い出して、自分が食べたいもの作ってみた。夫も仕事が忙しすぎて疲れてて、やっと休める、って言ってたけど、雨の中、買ってきたもの運んでくれてる姿を見たら、ちゃんと手伝ってくれてる部分もあるんだ、ってわかった。沙知、ありがとう!」と書いてあった。わたしはすぐに、

 「よかった…!!ほんとよかったね!!うちなんかさー、今日クソババアって言われたよ笑」と書いて送った。ほどなくして未緒から返信が来て、

 「クソガキって言い返してやんなよ!っていうか、あたしが今度クソガキって言ってあげるよ!笑」と書いてあったので、

 「もちろんクソガキって言い返したよー笑」と送った。

 わたしは、鬱病だったけど元気になれたことを、いつか未緒に話してみたい、と思った。

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