銀河鉄道は雨の中 其の九

九 ヌラ

二兎吉の膝の上で寝てからどれ程たったのだろうか?

ヌラはムクッと起き上がり様子を見た。
まだ二兎吉は景色を眺めていた。

「え!まだ見てる。今何時だと思って??」

ヌラはそう言いながら展望デッキ入り口にある時計を見た。

時刻は夜の12時を回っていた。

「ん?・・・はぁ??」

暫く考えたヌラは驚愕した。

展望デッキでくだんと別れたのが大体夜の7時になりかけてたから、もうかれこれ合計で5時間近く景色を眺めてる。

ヌラは呆れて二兎吉の指に噛みついた。

「いたぁーい!なにすんのヌラ、酷いじゃん急に!!」

「なに言ってんの!よく時間みたら?今何時だと思ってんの、夜中の12時だよ!いつまで星空を見てるのよ!いい加減にしなさい」

「はあ、なにが?別に良いじゃん、私は全然平気だし!それにお母さんみたいなこと言わないでよ!!」

ヌラはいつまでも景色を見てる二兎吉を制したつもりだった。
だがとうの本人は「別に良いじゃん」と一点張り、しかも「お母さんみたいなこと言わないでよ」・・・

「ああそうだよ!私は貴方のお母さんみたいなものよ!なんで貴方に付いてきたと思う?なんで貴方と一緒に居たと思う?」

ヌラは少し怒り気味に言った。
嫌な雰囲気を感じた二兎吉はビックリしてヌラを見て少し焦ったような感じで答えた。

「いっいやぁ、それはわからない・・なぁ・・・」

「それはそうよね!貴方になにも話してないもの、お母さんも、私のことなんて貴方に一切話さなかった。」

「ん?え??」

二兎吉は困惑した。
突然怒りだしたヌラに動揺しやっと我に返った。

「ねえゴメンよ、さっきの事は謝るからそんなに怒らないで、それに、ヌラが言ってることいまいちわからないよ」

「もういい、おこっちゃいないからとにかく私の話を聞いて、この際だから貴方にちゃんとした事話してあげる。」

ヌラはそう言うと二兎吉の前のイスに飛び乗りあぐらをかいたような姿勢でそこに座った。

「私はね貴方のお姉ちゃんなの、貴方が産まれる3年前に病気で亡くなった。
産まれて2年くらいの出来事だった。
私の本当の名前は乙菜(おとな)、少しはお母さんから名前は聞いてない?」

「聞いてた。いつもいつも誰のことだろうって思ってた・・・お姉ちゃん・・だったんだ」

「お母さんかが何故私のことを貴方に話さないかわからない、どうしてなんだろう?
そう思って貴方の夢に出てみたとき貴方の心の中の本当の自分が覚醒した。
余計な事しちゃった。
余計な事言っちゃったかなって思っちゃった。
まだ早かったのかなって・・・
だけど、そのせいでお母さんが余計おかしくなっちゃった。
私には理由がサッパリわからない、だから私はある人とお話しをして貴方とお母さんの間を元に戻そうって計画した。」

二兎吉は急な話の展開に思考回路がついて行かない「え?は?」そういいながらヌラの話を聞いていた。

「待ってよ、一気に話をされても意味がわからない、頭が混乱するよ」

「ゴメンね一気に話しちゃって、つまりは貴方がこの汽車に乗るのは私と、ある人が計画した事、到着地である乙女座の駅にはお母さんが待ってる、それだけお話しておく、後は駅に到着すれば全てが分かるから・・・」

二兎吉は腑に落ちなかっただけどヌラはそれ以上話してはくれなかった。

一緒に寝台車へと向かい寝ることにした。
次の駅まではまだまだな道のり、長い道のりの半分をすぎた頃、二人は布団に包まり寝ることにした。

「ねえ、お姉ちゃん・・・あのさ」

「どうしたの?」

「どうしてもお母さんと会わなきゃダメなのかな・・・」

「辛い?嫌?」

「・・・」

二兎吉は不安な顔で黙ってしまった。
母親に会うという事、それはあの時のトラウマが蘇るかもしれないと言うこと・・・

「貴方はもう私の子供じゃない」

母親に言われたのがショックだった。
もう、優しくしてもらえないんだと言う恐怖と孤独感がそれを思い出すたびにフラッシュバックしてくる。

怖くて怖くてたまらなかった。

だけど母親からうけたわずかな温もりも覚えていた。
お母さんに会えるんだという期待の気持もあったがそれを上回るようにトラウマは二兎吉の心を浸食していく

寝たいけど、不安が勝って二兎吉の睡魔は頭の中で怖じ気付いている。

「寝れない・・・」

不意に呟いた二兎吉の言葉でヌラは顔をペロッとなめてあげた。

「怖いよね・・・でもね私が付いてるから安心して寝なよ、貴方の思った行動は間違いじゃなかった。
貴方には元々その感情をもっていた。
それがあの時たまたま開花しただけ、お母さんだって本当は分かってるんだよでも、お母さんの中の何かが貴方を許しきれてない、でもそれはきっと乙女座の駅に着いてるときには貴方のことを分かってくれる気持に戻ってるはずだから・・・」

まるでヌラが人間に戻ったかのように二兎吉の体を暖かい気持で全身を包んでくれた。
抱かれてるような感覚だった。

二兎吉はその温もりに反応するように急にまぶたが重くなりまどろみの中に落ちていった。

それを確認したヌラはホッとした表情を浮かべ天井を見つめながら呟く

「お父さん、お母さんの事しっかりやってくれてるかな?」

汽車は光を薄くした星の海を走る。
宇宙にも夜はあるんだ、お星様も寝るし、光が弱くなる。

少し薄暗い銀河鉄道を汽車は走り目的地に向かっていく

どれくらいの時間寝ていたのだろうか、銀河鉄道は眩い光を放つ綺麗な天の川の真上を走っていた。

外の光は窓から中に入り二兎吉をてらす。
優しく眠りを包むように頭の中の睡魔という存在をその光はかき消し二兎吉の頭を起こしていく

目から流れ込む光、それが更に脳を刺激して二兎吉は目を覚ました。

「凄い眩しい所だな、いったいここはどこなんだ?」

そう思い外に目をやる。

煌びやかな星々が集合する天の川がいつも以上に綺麗に輝いている。
目が開けられないくらい眩しい、二兎吉は目を細めて下に広がる星の海を見ていた。

そこには世にも不思議な魚がいっぱい泳いでいた。

時には星の水を噴射する鯨も現れた。

そんな光景を見ているとヌラが現れ二兎吉の顔に体を擦りつけてきた。

「おはよう、よく寝れた?」

「あ!お姉ちゃん、昨日はありがとうよく寝れたよ、それとね不安あるけど勇気を持ってお母さんに会ってみるから、お姉ちゃんの言葉しんじてみるよ」

二兎吉の顔は外から入ってくる光も相まってもの凄く輝いているように見えた。
きっと心の中の不安もあるだろうけど、ヌラから貰った温もりが二兎吉の気持を癒して少し和らいでくれたのだろう

だから気持も少し明るくなり顔に光が灯ったのだろう、ヌラはそう感じた。

二兎吉は外を不思議そうに見ていた。
今までとは違いすぎるキラキラすぎる景色が不思議でならなかった。

「そんなに外の星達が気になる?」

「うん、綺麗すぎやしないかな?って」

「それはね。外が晴れてきたからよ、本来の天の川はこれくらい綺麗な所なの、今までは雨の中だったからあまり綺麗にはみえなかった。夜になればお星様も寝るし、光が弱くなるだからニッちゃんはここまで綺麗な星の海を見れてなかった。
それにね。乙女座の駅は天の川の反対側にあるからわざと真上を通って絶景を見せてるんだよ」

それを聞いた二兎吉は食い入るように真下の天の川を眺めた。

「やっと雨が止んだんだね。だからこんなに綺麗なんだね。」

二兎吉の目には何故か涙がたまっていた。
でも声色は透き通り気持が高ぶっている感情が出てるように感じた。

だけど涙は感動している涙じゃない、それは心の中の不安が漏れ出した涙だとヌラは確信し二兎吉の涙をなめて拭き取ってあげた。

「よかったね」

ヌラはその言葉だけを言って二兎吉に寄り添ってあげた。
二兎吉はそれに合わせるようにニッコリと笑ってヌラを抱き寄せた。

「ありがとうお姉ちゃん、私がんばるよ」

二兎吉がそう呟くと汽車は汽笛をならす。
目的地に着くようで車内アナウンスがなった。

「まもなく乙女座街、スピカ駅に到着いたします。お降りの方は忘れ物のないようご注意下さい」

ついに目的地に到着した。

二兎吉は覚悟を決めて出入り口をみている。
ドアが開き駅構内の光が汽車の中に入ってくる。

二兎吉は一歩一歩踏みしめそこへ向かっていく目的の場所、会わねばならない人の為に。



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