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ヴァニティ 唯川 恵

20代後半から30代前半の女性たちが織り成すアンソロジー。

もう若いだけではなく、それぞれの人生を歩んでいっている彼女たちの恋愛や人生における悩みを描く。

結婚して家庭をもった女性がいる。キャリアウーマンとしてバリバリ働いている女性もいる。背徳感に苛まれる恋愛に落ちた女性もいる。なんとなく可もなく不可もない夫と一緒になった女性もいる。仕事は順調だけど恋愛はからっきしな女性がいる。やりたかったことをやれずに食べていくために現在の仕事についている女性がいる。

環境は様々であるけれども、全員が葛藤している。

ーーー「こんなはずじゃなかった」

私も含め、同じ年齢の女性ならこの本の中にひとりでも「これは私だ」と思う女性が出てくるのではないだろうか。私はひとりではなく何人か見つけた。

なんとなくの不安を抱いているのだ。

悟りを開いたり、自分の中で折り合いをつけられるほど大人にはなってないし、かといって輝かしい未来ばかりをみてがむしゃらに飛び込めるほどの若さもない。

登場人物のほとんどが、学生時代における人間関係や恋愛によってつくられた(もしくは自ら形成した)「自分像」にもがいている。若すぎても老いすぎてもいない彼女たちは学生時代のように同世代の女性たちとお茶を囲みながら近況報告をし、時に愚痴り、羨み、そしてひっそりとお互いを牽制して「自分はこの子より幸せである」という優越感を確認する。

そうするしか、なんとなくある不安は拭えないからだ。

各々の結末はばらばらである。

そしてその先に彼女たちを待ち受けているものは読者は知る由もない。女性たちが強くなって終わったわけではないから、ハッピーエンドばかりではないんだろう。

だけどほんの些細な出来事がきっかけで彼女たちの中のなにかが変わった。その変化を受け入れるだけで、これからの人生に幾度もある「なんとなくの不安」とも向き合っていけて、そして本当に強くなれるんだろう。

私自身もまだ数年は「なんとなくの不安」期が続くことだろう。

そしてそれが終わればきっとまた未知の不安が訪れるんだろう。きっと人生なんてそんなものだ。

人は皆なにかしらの荷物を抱えている。道を歩いている人が持っている鞄が重いか軽いかなんて、見ただけではわからないのだから。

本を読み終わって「強くなろう、しっかりしよう」とは思わなかった。だけど今抱えている私の中の「なんとなくの不安」は、同じものを抱えている彼女たちに喫茶店で話せたような気がして、すっとした。

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