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珠美の島〜18年の時を経て〜19話

モノレールで安里へ戻り
栄町の食堂へ

お昼時は
とっくに過ぎていたので
ひとり、カウンターに
お客さんがいるのみ

「おかえり、
 遅かったねー
 ウートートできたねー?」

母の小学校時代からの親友
きみこさんと
旦那さんであるまーぼぅが
切り盛りする食堂

いつ来ても何も変わらない
自分の家のように
帰って来たな、と
ほっとする場所

「お腹すいたねー、何する?
 ソーキそばね?」

そこはもちろん
ソーキそばで

先に瓶ビールを開け
母と乾杯

来た、おそば

お盆には
ソーキそばの他に
煮物の小鉢と殻の小鉢が
乗っている

軟骨ソーキではなく本ソーキ
お肉についている
あばら骨を捨てるための
小鉢だ

お腹いっぱいでも
このそばだけは食べていた
ここに来ると必ず

「もう50年なるよ、早いね」

そっか、

そんなに続けて来れたなんて
尊敬の念がふつふつ

移気な自分には
辿り着けない境地に感じる

「いつもこんなよ、
 お昼時にわーって来て
 パタパタァして
 この時間はいつもよんなーしてるさ」

食べながら
きみこさんとゆんたく

夜、親を起こさないように
2階の窓から窓に
飛び移って遊んでたことや
昔の同級生の近況なんか

「あれなんかはさあ、
 ふらふらーしてからに、
 最近よくここまわってくるよ、
 昔まじめだったから
 今頃なって遊びまわってるわけさー」なんて

数年前
きみこさんは
突然腰が悪くなり
歩けなくなった時期が
あったそうだ
二度の脊髄注射が功を奏して
幸い歩けるようになったが
同じ症状で同じ治療をしても
治らない人もいるらしい

「もうお店もやめようと思ってさ、
 でも動けるようなったから
 まだ続けるかねー、してたら
 今度はこれでしょ、」

年明け
二日営業したところで
沖縄は蔓延防止法適用になり
また二ヶ月近くの休業を
余儀なくされた

「このまま閉めてるのも
 場所ももったいないしさ
 ご飯屋さんじゃなくて
 みんなが持ち寄りで楽しめる場所に
 変えようかとか、色々考えて」


入り口の鈴の音

「あい、いらっしゃい
 何するねー?
 今日も持ち帰りするね?」

きみこさんは立ち上がり
注文のチャンプルーと
肉炒めを通して
持ち帰り容器の準備をする

常連さんらしき人たちが
短時間にまとまって来店

スナックのママ風ネーネ家族
学生の男の子達
バックパッカーな空気感の
ヤマトゥのカップル

「あれなんか、最近毎日来るさー」

みんな
癒しを求めに来てるんだな
ご飯だけでなく、きっと

「はい、今日はもう終わり」

お客さんの波が引いた後
そう言ってまーぼぅは
オモテの看板を裏返した。



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