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マイム マイム マイム マイム

高校の文化祭のラストと言えば、フォークダンス。
……と、書くと自分でも「げっ!」と思う。
照れる。そんな時代もあったのだ。夕陽の校庭で手をつなぐ男女。スピーカーから流れる音楽は、マイム マイム。
この曲がどこの曲かも知らなかった。ちょっとエキゾチックなアラビア風のメロディー、軽快なテンポ。今どきの高校生は絶対に踊らないだろうけれど、60年代〜70年代の高校文化祭では定番だったんだよ。
マイム マイムを踊れるなら、あなたは私と同世代!

でも、なんでこの曲は日本のフォークダンスになったんだろう。

マイム マイムはイスラエルの民俗的なダンス。
この曲の歌詞はいたってシンプル。「泉だ、泉だ、喜べ、喜べ」と繰り返している。砂漠で水源を見つけ「水が出た〜!」と皆で喜ぶ踊りなんだ。17歳の私は歌の歌詞も知らずに、ただ、踊っていただけなんだけどね。

どこの誰が泉を見つけて喜んでいたのか。
それは、イスラエルとパレスチナの闘いの歴史と関係する。……って、そういう事が理解できたのは、ずーっとずーっと年をとってから。だって、私が学生だった頃は第1次世界大戦から第2次世界大戦あたりの歴史は、猛スピードですっとばされてた。歴史の授業は縄文時代から始まるんだよ(笑) 縄文文化や大和朝廷がどうでもいいとは言わない。だけどさ、どちらかと言えば、昭和史から遡ってもらったほうが、後々、国際情勢を理解する賢い大人になったのにな、って思うよ。

とにかく、イスラエルは遠い国って思っていたのに、まさかイスラエルのダンスを夢中で踊っていたとは、自分でもびっくりだ。

かつて私が知っていたのは、イスラエルはユダヤ人の国ってくらい。むかーし、むかしユダヤ人はバビロニアやローマ帝国に国を追われて流浪の民となった。
そもそもユダヤ人ってどういう人たちだと思う? たとえば、日本が沈没して日本人が難民になり世界に散ったとして、日本人には「日本語を話す」「天皇制」以外に、どういうアイデンティティがあるのかな。日本語なんて、日本以外で通用しない言語だから難民になったらすぐ消えてしまいそう……。天皇制を維持するにも、日本が沈没しちゃったらどうなる? 何が日本人の信仰の対象となるのかな。神道? 仏教? 天皇を象徴とした神道的なものが私を日本人としてつなぎ止めるだろうか? どうかなあ、なんか……すぐ別の国に同化しちゃいそうだなあ。

ユダヤ人は、ユダヤ教を信仰する人たちなんだ。ここは日本人と全く違うところだ。宗教ありき、なんだよね。ユダヤ教を信じる人たちは「ユダヤ教の教えに従って生きれば絶対に、絶対に、絶対に幸せになれる」と信じている。なにかもう、それを立証せんがためにがんばって生きているようなところがある。たとえば、日本人なら「ハーフ」とか「クオーター」ってアリだよね。だけど、ユダヤ人との「ハーフ」ってないんだよ。それがユダヤ人をよく表していると思う。ユダヤ人は、ユダヤ人かユダヤ人でないか、のどっちかしかない。宗教的定義優先なんだ。

えっと、話はマイム マイムだ。

誰もがなんとなく知っているとおり、ユダヤ人は世界中から「じゃま者扱い」をされてきた。ヨーロッパでも、ロシアでも……。1900年代初頭に帝政ロシアで大規模なユダヤ人虐殺が起こった。そして難を逃れた人たちがパレスチナに渡り、共同村で集団生活を始めた。砂漠を開拓して自給自足の生活。もう一度、かつての土地に自分たちの国をつくりたい……。もう迫害されるのはゴメンだ。皆殺しにされたら、誰だってそう思うよ。

私は日本という島国に住んでいて、国があるってことが空気と同じくらい当たり前だから、ここに住んでいるありがたみを忘れている。ろくでもない政府、税金高過ぎ、と文句しかない。だけど、国があるっていうのは、ユダヤ人から見たらめちゃくちゃ羨ましい事なんだと思う。

ユダヤ教徒も自分の国が欲しい。それで、世界中から建国を願うユダヤ人が集まって来て、砂漠を開拓し土地を手に入れて共同生活をするようになった。それがキブツと呼ばれる集団。イスラエル建国という共通の目的のために、みんなで働き、平等で、共同責任、機会均等という4原則のもと、自給自足生活を始めた。なにしろ砂漠だからね、日本とは違い雨なんか降らない。水の確保は最重要課題。だから、水源を探してみんなで井戸を掘った。

キブツでの集団生活の中で生まれたのが、マイム マイムなんだ。砂漠を開墾していたユダヤの人たちが、泉を見つけた時はそりゃあ嬉しかったと思う。泉を囲んで輪になって踊って歌った。歌には「イスラエル建国」に燃える人々の願いが込められていたんだ。そーんなことも露知らず、日本の高校生は青春の1ページとしてマイム マイムを踊っていたのだった。

……とはいえ、私の青春時代は、戦後30年くらい。まだ日本が右肩上がり、世界を追い越せ追い抜けな時代だったから、気分としてはマイム マイムだったのかもしれないな。

第1次世界大戦前まで、移住してきたユダヤ人とアラブ人は共存していた。共に折り合いをつけて生きていた時代があった。だけど、第1次世界大戦で領地拡大を狙ったイギリスが、アラブ人陣営とユダヤ人陣営の両方に「建国を支持する」という密約を交わしたんだ。最低の二枚舌外交(フランス・ロシアとの密約を加えれば三枚舌外交)を展開したことにより、中東情勢は悪化する。イギリスは、戦後の中東領土の分割で優位に立とうとして、アラブ人とユダヤ人を利用したんだ。ユダヤ人には独立を応援するよ、と約束してロスチャイルドから資金援助を受けた。

ひどい話だ。結局、約束は果たされず中東はイギリスの支配下に。で、ユダヤ人は考えた。「他国の力に頼っても国は作れない。だったら、自分たちの力で勝ち取るしかない!」って。

イギリスはロシアやフランスとも領土分割の密約を交わしていた。ようするに、20世紀の戦争は領土分割合戦……資源争奪合戦だった。それでどれほどの人が苦しみ死んでいったかを考えたら、どれほどのカルマを後世に残したかを考えたら……、欲にかられて人を騙すことがどんな悲惨な結果になるのか、歴史は語っているよね……。

そして、連合国のエゴがむき出しになった第1次世界大戦が残したのは、報われなかった国々の怨念で、怨念の集合無意識が生みだした怪物がヒトラーだった。

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