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自分で見つける幸せの姿ー大豆田とわ子と三人の元夫

『大豆田とわ子と三人の元夫』を観た。
言いたいことは、「ぜひ多くの人に観て欲しい。」ということ。
下記の内容は、ネタバレは少し含むけれど、読んだ上でも充分楽しめるはず。なので、『観ようかな…どうしようかな…』という人たちの背中を押すnoteになればいいと思う。

目次
✳︎あらすじ
✳︎人間って複雑な生き物だ
✳︎離婚は傷でも勲章でもない
✳︎幸せは自分で手に入れたい?
✳︎三世代に渡る、生き方の話
✳︎脚本家・坂元裕二の魅力
✳︎最後に

✳︎あらすじ

大豆田とわ子(松たか子)は40歳。15歳の娘・唄がいる。そして離婚を3回経験した。親族の結婚式では縁起が悪いと疎まれるが、親友のかごめや唄、やりがいのある仕事と共になんだかんだ人生楽しくやっている。元夫三人から連絡がくるのはうざいけどなぜか憎めない。これから一人で生きていくことに不安はある。そんな彼女の約2年間を描くストーリーだ。
チャーミングだけどちょっと癖があり面倒くさい元夫三人(松田龍平、角田晃広、岡田将生)と、新たに出会う人々がとわ子の人生を彩っていく。
ナレーションやテンポよく進んでいく展開に、気づけば目が離せなくなる。全10話の物語だ。

✳︎人間って複雑な生き物だ

「離婚っていうのは、自分の人生にうそをつかなかったって証拠だよ」

親友のかごめに言われて気付くとわ子。

自分に嘘はつきたくないけど、一人でも大丈夫だけど、それでも寄りかかれるものがある人生を選びたい。
網戸が外れた時、布団に入ってから換気扇をつけっぱなしにしていた事に気付いた時。

自分ですべて決められるけど自分ですべて決めて消化していかないといけない人生。
あぁめんどくさいなぁ。ちょっとしたことの積み重ね、ちょっとした意思決定。誰かに寄りかかれたらなぁ。
そんな自分の心の穴に蓋してくれる存在が欲しい。それを望むの変なのかな?という葛藤。

『幸せになることを、諦めたくないんだよ』と言うとわ子の気持ちはリアルで複雑だ。

✳︎離婚は傷でも勲章でもない

出会った男性から、女性の離婚は傷と言われる。これは往々にしてある話だ。かわいそうだよね、結婚うまくいかなくて、と。
でも世の中には色んな形の恋の始まりがあるように、終わり方にも色々あるのだ。

三人目の元夫が後悔してとわ子との幸せを失ってしまったと嘆くシーン。とわ子は言う。

『失くしたんじゃないじゃん、捨てたんじゃん。捨てたものは返ってこないよ。
『別れたけどさ、今でも一緒に生きてるとは思ってるよ』


恋の始まりも終わりも自分の選択だ。
受け入れるのは、そんな簡単じゃない。
だって、それでも人生は続いていくのだ。
だからこそ、彼女は傷や勲章として残すのではなくて、自分なりの答えを出して、過去の記憶をも愛着に変える。そしてまた新しい自分を作っていく。
人生は、何かを失った時や間違った時の記憶が象っていくものなのかもしれない。

✳︎幸せは自分で手に入れたい?

とわ子は大事な人を失い、そして仕事上の立場も失いかけ、もう一度自分を見つめ直す。
二番目の夫、三番目の夫にも支えてもらいながら、最後には最初の夫である八作とも語り合うことで、自分を見つけ出す。

「ほしいものは自分で手に入れたい。そういう困った性格なのかな」(とわ子)
「それはそうだよ。手に入ったものに自分を合わせるより、手に入らないものを眺めているほうが楽しいんじゃない?」(八作)

とわ子にとって、幸せというのは結局は自分で手に入れるから幸せなわけであって、相手に求めていないのだ。結局自分を幸せにするのは自分でしか無いのだ。
じゃあ、どうやって生きていく…?それをとわ子が見つける大事な場面。

いつか、私自身が心理学の恩師から言われた言葉を思い出し、胸が熱くなる。
『どれだけ困った性格の自分でも愛すると決めて。自分と結婚すると決めること。これが幸せでいる秘訣よ。』と。

✳︎三世代に渡る、生き方の話

とわ子の母、とわ子、そしてとわ子の娘である唄。三人それぞれのifが重なり合っているのも面白い。
大豆田とわ子と三人の元夫たちの登場人物は全員、泥臭くて些細な現実世界を生きている。そのにあるのは小さな幸せと小さな不幸であり、ドラマティックなことなどほとんど存在しない。

その中で、とわ子の母から繋がり、母・娘の生き方にフォーカスされる。
形はそれぞれあるけれど、どれも最後は自分ですべてを選び、決めて、生きている。
前を向き、過去を振り返ることはなく、愛着に変えて抱きしめ、自分や大切な人の"今"へ愛情を注ぐ。
それが冷たく辛い人生を少しでも温かくしてくれる幸せのコツだと言うかのように。

【自分の幸せは自分で決める女たちを見る】
きっとそれだけで子供たちは人生の秘訣を学ぶのだろうと思わされる。

✳︎脚本家・坂元裕二の魅力

本作の脚本を書いた坂元裕二さんは、数多くの有名作品を手がける日本屈指の脚本家と言えるだろう。
そんな彼は、長女が生まれてすぐに主夫となり、家事育児を全て引き受け、女優である妻を支えたそうだ。
当時は30年ほど前で、今以上に家事育児=女の仕事であり、良い奥さん=家事育児ができる女、だという風潮が強かった。そんな日常の中で葛藤したという。その葛藤が、数多くの素晴らしい脚本の中でも、児童虐待や生活保護世帯、シングルマザー世帯の壮絶さを描く「Mother(2010)」「Woman(2013)」という作品を産んだのだろうと思う。
世の中の生きづらさ、特に女であることや小さき者を育てる上での辛さや葛藤を描くことができるのは、おそらく想像力だけでなく、どん底に近い感情を経験したからと思わざるを得ない。

2018年に彼が出演したプロフェッショナル 仕事の流儀にて、このようなことを語っていた。

<才能とかそんなのってあんまり当てにならないし、何かひらめくっていうことも当てにならないし、そういうときに本当に書かせてくれるのは、その人が生活しているなかから出てくる美意識とか。自分が世界とちゃんと触れ合っていないと生まれないから。やっぱりパソコンに向かっているだけとか、飲んでるだけとか、そういうところからは生まれない>

まさしくこの生活の中から出てくる美意識や世界と折り合いをつける中で生まれる感情こそが人の心を動かし、捉え続けるのかもしれない。

✳︎最後に

私は、ドラマをリアルタイムでは観られない。テレビをつけたら最後、息子に横取りされるから。寝なくなるし、部屋の形がワンルームみたいになってて難しい。
だからNetflixで全話一気に観られるこの機会を逃すまいと1日1話ずつ観ようと決めた。

でも結局、5日で観てしまった。
当初の予定より文字通りの倍速で観てしまった。でもめちゃくちゃ面白かったので仕方なかった。我慢が、できなかった…。

例えば『何が良かったの?』
と他人から聞かれたとき、この作品は言葉にして良さを伝えるのが難しい。音楽も含めて、どっぷり世界に浸ってしまう。浸ってみないとわからない感覚。これは村上春樹のねじまき鳥クロニクルを読んだ時と近い感覚かなぁ。
もっと色は淡いし、痛くないし、どちらかと言うと心の穴にはまるピースを一話ごとに一個ずつ、手渡してもらえたような。
刻み込まれる感じ。

この手の作品の魅力を表現することは本当に難しい。多分、私の想像力を超えているからだろうな。間違いなく持て余している。
でも、そこで終わらせないのは私の良いところだと思う。
30歳、一児の母である今の私がどう受け取ったのか。それをちゃんと気持ちとして残しておこうと思ってnoteに記しておこうと思った次第である。

これから観る人々に向けてもネタバレを最小限に抑え(たつもり)、その上で楽しんでもらえる内容としてまとまっていればいいなと思う。そう願いを込めて書いた。
元夫たちも全員めちゃくちゃにいい奴らなので、正直もっと語りたいけれど、今回はとわ子本人を中心に魅力をお伝えしてみた。
ちなみに主題歌である『Presence』という曲もおすすめしたい。ドラマ内のとわ子の目線、元夫たちのそれぞれの目線を歌詞にした曲だ。
全部で五種類あるので、ぜひ聴いてみてほしい。

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