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人生で初めて告白した話

思えばあの瞬間から、僕の人格は歪んでいったのかもしれないし、あの時にはすでに歪んでいたのかもしれないし、そもそも歪んでいると自分で思い込んでいるのかも知れない。それでもあれは僕の中で少なからずのちの人生に影響を与えた事件であったことは間違いないと思う。もうずいぶん前のことなので話が正確ではないのだが許してほしい。

中学3年生の卒業式が終わった後、それなりに交友関係の広かった僕は友達と思い出のために写真を撮っていた。醜い顔をさらにぐしゃぐしゃにして泣いている僕を友人はからかった。泣き止もうとして顔に力を入れると顔がさらに歪んで、あの時の写真は見れたもんじゃない。当時僕には気になっている子がいた。自分の容姿に自信がなく、馬鹿にされるのが嫌でだれにもいったことがなかったが、ずっと心に思っている人がいた。吉澤さんは小柄で華奢で聡明なのにどこか抜けてて笑った顔がかわいいショートカットの女の子だった。吉澤さんは当時男子の中でも人気の女の子だったため、○○君とつっきあっているのようなことは風のうわさで何度か聞いたが、特にアクションを起こすこともなく廊下をすれ違う時に友達と話している風を装いながらチラチラ見ることしかできなかった。

卒業式の後、クラスで打ち上げと称して焼き肉を食べに行くことになっていた。自転車で10分程度の川沿いにある網焼き亭に、自分自身ができる目いっぱいのおしゃれをしていった。とはいうものの、集まってみると女の子は軽くメイクをしているようでどこか大人びて見え、男の子も雑誌を参考にしたのか、父や友人と買いに行ったのか、すでに高校生という風貌だった。当時の僕は、自分が何を着ればいいか分からなかった。(今現在も何を着ればいいかなんてわからないのだが)かといって本屋でファッション誌を買おうとも、こんなに服がダサい自分が買ったら店員に馬鹿にされるに違いないという自意識が働いて、しまむらで人目を気にしながら一人で服を買っていた。そんな僕の『目いっぱいのおしゃれ』なんかクラスの人たちの前では『ちょっとダサい服』でしかなくて、さっさと消えてなくなりたかった。もしくは小栗旬になりたかった。

1時間半だか2時間だかの食べ放題コースが終わり外に出ると辺りは暗くなっていて、「まだかえりたくないね」なんて誰かが言い出したもんだからふらふらと歩いているんだけども、夜の8時に中学生ができることなんか何もなくて、結局近くの公園に行きついた。背が高く大人っぽい男の子がほろ酔いを買ってきたもんだから公園にいた中学生8人くらいで飲み会が始まった。

僕はこの打ち上げにある決意をもって望んでいた。吉澤さんにメルアドを聞こう。あわよくば告白なんてものをしてしまおう。何度か試みたことはあるが、いずれも勇気が出なくてすんでのところで踏みとどまってしまっていた。しかし、今日は、今日は最後の日なのである。吉澤さんと僕は違う高校に行くことが決定していたので、今日が終われば吉澤さんと会う機会はほぼない。今日しかないのだ。そう思いながらほろ酔いを飲んでいた。

そういえば「加藤は好きな子いないん?」頭はよくないが顔がよくて実家が金持ちで今ではギャルになっているであろう女子のリーダー的な人が言った。(どうでもいいが、こいつみたいな人生を歩みたかったと切に思う。)「えーうちも気になってた」「確かに加藤ってそういうの全く言わないからな」皆がこちらに注意を向ける。吉澤さんはと言うとこちらを見ながらニコニコ微笑んでいる。今しかない。

「じ、、実は、、吉澤さんのことが好きなんだよね」

恥ずかしくて、前を向けなかった。顔の細胞一つ一つが発熱しているようだ。「ええええ!!告白じゃん!!」例のギャル(仮)が叫んでいる。自分のつま先から目線が上に行かない。今が夜で本当に良かった。恐る恐る顔を上げる。これが映画やドラマなら、彼女も赤面して、二人で手でもつなぎながら帰るのだろうか。しかし私が生きていた世界は映画でもドラマでもなく現実だった。顔を上げると、彼女が非常に困った顔をしていた。今思えば、彼女には、彼氏がいることが濃厚なわけであったから、もしそうであれば困った顔をするのが当然の反応であるし、もしかしたらそんな表情などしていないのかもしれない。だが当時の僕は『僕の好意で相手は困る』というセンシティブな出来事だけが頭から離れなかった。

周りにいた人たちに促されメールアドレスを交換したものの、『吉澤さんは困っている』ということだけが頭に残り、その日の夜「今日はいきなりごめんね。付き合いたいとかそういうのとかじゃなくて、最後だから気持ちを伝えときたいなって思っただけだから」と相手に振られるより自分は鼻からそういうつもりじゃないですよと示してより大きな傷を負うのを防いだなんとも女々しいメールによって、この恋は終わってしまった。

あの時、帰り道に、自分の家と全く違う方向なのに僕と吉沢さん二人で帰ると気まずいだろうからってついてきてくれた荒川くんっていうめっちゃいいやつは元気にしているだろうか。

この日以降、自分の容姿の自信のなさに加え、『自分が人を好きになると相手が困ってしまう』という2つの防壁を手に入れ、めでたく極度の恋愛恐怖症に陥ってしまった。もしかしたら元からそうだったかもしれないし、本当のところは過去の話なので分からんけどね。

こんな話を思い出すと、人肌が恋しいな。


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