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短編小説集

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記事一覧

プレゼントスイセン

プレゼントスイセン

12月26日。目覚めた。
種の中は冷たかった。枕の中で。ひっそりと。
芽を出した。
寝息を立てる子供。安心している。

1月1日。双葉が出る。
家には誰もいない。田舎に行った家族。
誰にも見えないんだ。
しばらくはお年玉が子供たちの希望。

4月8日。ランドセルが揺れる。
すっかり大きくなって、部屋を見回せる。
夢ものぞく。
もらったゲームに飽き始めてる。

7月25日。少し乾く。
子どもたちは夏

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火星の窓

火星の窓

 12月24日。地球は特別な日だろうな、とロヴァは思った。地球にまだ暦があるかはわからないけれど。
 いつも通りの、固形食を食べる。こちらはまだまだ、切れそうにない。
 窓のない部屋。船の真ん中の食堂には、彼女しかいない。咀嚼音が続く。誰も入ってこない。
 この船には、生きた人間は彼女しかいないのだ。
「ジングルベルージングルベルー……この音、合ってるのかな?」
 独り言のリズムすら、怪しくなって

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【短編小説】「あるもの」

 あるものが、闇の中でため息をついた。
「ああ、幽霊、妖精、ゾンビ、宇宙人。全部やり尽くしたなあ。もうみんな驚かないよ」
 あるものは、なんにでもなれる。でも、なにものでもいられなかった。だれもあるもののことは知らない。あるものはいつも違うものだ。
「恐れて欲しいなあ。あるのかないのか疑ってほしいなあ」
 あるものは闇から這い出て、世界の中を進んだ。ぐるぐると歩いて、驚いた。
「びっくりだ! こん

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【短編小説】休日シーソー

 多くの瞳が、こちらを向いていた。
 きっと、今日は休みの日なのだろう。家族連れが多い。
 目の前には、かなり旧型のパソコンが置かれている。僕の家には、なかった。必要がないというか、使い切れないというか。
「随分と賑やかですね」
 奥から、女性の声がする。
「こっちに来てよ。一人じゃ気が重い」
 返事はなかった。無理もない、彼女はまだここに慣れていないのだ。
「あーあ。なんかするか」
 パソコンに

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花子章

 

 その女の子の名前は、花子といいました。花のように綺麗な娘に育って欲しい、そんな願いが込められた名前です。彼女にはたくさんの兄達がいましたが、彼女が十になるときには、次郎兄と五郎兄しか残っていませんでした。次郎は十八になるというのに少しも嫁を探す気配を見せず、暇さえあれば釣りばかりをしていました。五郎は逞しい体を持っていましたが、少し考え事が苦手らしく、蛙や亀とばかり話をしていました。両親は

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【短編小説】 年末パズル祭り

  そうだ、それ以上のイベントを作ってしまえばいい、と考えた。定着するには季節に合ったものがいいし、一人で家にいる理由ができるのがいい。そして、世間の支持を得るにはお金が動く方がいいだろう。

 そこで考えたのは、「特大カレンダーのパズルを作る祭り」というものだった。これならば家でするのが当たり前だし、年末にやる理由があるし、お店も儲かる。

 まずは自分でやってみないと話にならない。パズルを買う

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本当のサンタクロース

本当のサンタクロース

 布団の中で、僕は寝息のまねを続けていた。

 今年こそは。今年こそは起きてなきゃいけない。

 どれぐらい時間が経っただろうか。足音が、こちらに近づいてくる。

 気付かれちゃいけない。必死で眠ったふりを続ける。ごそ、と音がして、枕元に何かが置かれたのがわかった。足音が、遠ざかっていく。

 しばらく時間がたって、布団から顔を出す。いつもの年と同じように、大きな箱が置かれていた。

 僕はその箱

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【短編小説】 魔法使いのデシ

 入門から二年、結局気が付くと課題を全てこなした弟子はロックフォーゲルただ一人だった。
「さあ、この課題ができたらお主も卒業、一人前だ」
 白い髭を蓄えた老魔法使いは、ロックフォーゲルに言った。彼はたどたどしいながらも呪文を唱え、杖を振るうとテーブルの上に檸檬が一つ現れた。
「おお、さすが最後まで残った弟子。これでお主も魔法使いじゃ。他の者たちもお主のように真面目にやっておればなあ」
「お師匠、お

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【短編小説】ありがとう

 カレーから生まれたカレー太郎と、コーラから生まれたコーラ太郎と、近所の川島太郎は、旅に出ました。
 ある日、おなかのすいた子供がいました。カレー太郎はカレーを作ってあげました。
「ありがとう、カレー太郎!」
 子供は嬉しそうにお礼を言って去っていきました。
 またある日、のどが渇いている子供がいました。コーラ太郎はコーラを作ってあげました。
「ありがとう、コーラ太郎!」
 子供は嬉しそうにお礼を

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Re: Santa Claus

Re: Santa Claus

#Xmas2014

「言ったはずだ。俺はサンタから足を洗った」
 裏通りの階段を下りた地下のバー、ソファ席に向かい合う男二人。
「そこをなんとか。なんせ、イヴは人手不足だろ」
「知らん」
 口髭の生えた男が、グラスに手を伸ばす。中には、アラウンド・ザ・ワールドと呼ばれるジンベースのカクテル。
「お前にしかできない仕事なんだ」
「だったら、今は誰にも不可能な仕事だ」
「けどさ」
 

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【短編小説】 天空の門

 ある日、宇宙からの強い光線によって、天使たちが滅びてしまった。そのため神々は、仕方なく悪魔たちに助力を願った。
 ある悪魔は言った。
「いい気味だ、どうせならお前たちも滅んでしまえばよかったのに」
 またある悪魔は、こう言った。
「天使の仕事に耐えられるなら悪魔になってねーよ」
 さらにある悪魔は言った。
「うぜえよ」
 結局神々は、これまで天使たちが行っていたことを自分たちでしなくてはならなく

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【短編小説】永遠

 今日も、星は小さく瞬いていた。
 思い出すことも尽きた。それでも、いつものように過去を振り返るぐらいしか、することがない。
 幼い頃は、優等生だった。いつも成績は学年一位、一番有名な大学に行った。
 でも、そこでは普通の人だった。天才たちの内では、平凡な天才だと思い知らされた。そして初めて、運動もできないし、ルックスもよくないことを意識した。僕は、とんだ勘違い野郎だった。
 それでも自分がすごい

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【短編小説】ねえ、君となら

 君が見付けてくれた湖で。
 僕は間違って黒い服を選んでしまいました。君は生真面目に「死に装束なのに」と言って、白いTシャツを着てきたのに。僕はまた間違ってしまいました。それでも君は、僕を許してくれます。
 君が見付けてくれた湖は、とても澄んでいるけど、世界一綺麗ではなさそうだから、好き。そして君も、世界一ではないけれども、とっても綺麗です。
 でも、二人は途方に暮れました。入水自殺のやり方がわか

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