【短編小説】「あるもの」

 あるものが、闇の中でため息をついた。
「ああ、幽霊、妖精、ゾンビ、宇宙人。全部やり尽くしたなあ。もうみんな驚かないよ」
 あるものは、なんにでもなれる。でも、なにものでもいられなかった。だれもあるもののことは知らない。あるものはいつも違うものだ。
「恐れて欲しいなあ。あるのかないのか疑ってほしいなあ」
 あるものは闇から這い出て、世界の中を進んだ。ぐるぐると歩いて、驚いた。
「びっくりだ! こんなことになっていたなんて」
 あるものは姿を変えて、大きな声で叫んだ。
「人間だぞう! 僕は人間だぞう! まだいたんだぞう!」
 世界に残されたものたちは、その姿を見て恐れ、本当にあるのかないのかを疑った。歴史の中、一瞬で消え去ってしまった、あの人間だって?
 あるものは、満足だった。

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