落語ラン vol.28 「しじみ売りラン」
都内の街ランをやっていると、道の形状や街の様子が明らかに不自然だったり、昔はどうなっていたんだろう?と思ったりするところがありますね。特に、湾岸地域やお濠沿いがそうです。
今回は「しじみ売り」ランで銀座・汐留周辺に行きましたが、あの辺りの道路の形状も古地図と照らすと経緯が良く分かります。
あらすじ
茅場町の魚屋和泉屋の次郎吉。ただ、裏ではご存じネズミ小僧。ある日、博打で大負けのあと、【新橋汐留】の船宿伊豆屋に船で送ってもらおうと立ち寄った。雪見酒で一杯やっていると、十歳くらいの男の子がしじみを売りに来る。不憫に思った次郎吉は全部買って、そのまま汐留川に放してやった。子どもに話を聞くと、母親と二十三歳の病気の姉がいるという。姉はもともと新橋の【金春板新道】紀伊国屋の小春という売れっ子芸者で、三田の紙問屋の若旦那、庄之助と深い仲だったが、見世に通い過ぎた庄之助は勘当。二人は旅芸者となって箱根に行くことに。ところが、庄之助は箱根の湯湯治場のイカサマ賭け碁で巻き上げられ、姉は人質にとられそうになる。そこに隣の部屋の男が現れ、負けを建て替えた上にイカサマ師から金を奪い取り、五十両を二人の路銀にと与えてくれた。しかし、その金で宿の支払いをしようとしたら、それは金蔵やぶりの小判で、庄之助は【伝馬町】の牢屋に入れられ、姉は病に臥せってしまった。子どもはそのためしじみを売っているという…。
ランニングコース
汐留→金春通り→小伝馬町
汐留
今の三井ガーデンホテル(銀座)の辺りの昭和通りが湾曲しているところと首都高が交差している辺りは道路形状が変ですよね。首都高は昔の汐留川、一方、今の昭和通りから三井ガーデンホテルを一つ挟んだ辺りというのは、三十間堀という幅の広い川がかかっていました。汐留川に掛かっていたのが汐留橋(蓬莱橋)と新橋(芝口橋)になります。要は、三十間堀も汐留川は今は埋め立てられている訳ですが、ドン・キホーテ近くの公衆トイレ脇の植え込みに「三十間堀」の説明板と三十間堀跡から掘り起こされた大きな築石が置かれています。
出所:古地図 with MapFan
三十間堀関連の表示板(公衆トイレの横にあります…)
朝鮮通信使が江戸に来ていた頃、新井白石の建言を受けてこの地には規模の大きい「芝口御門」が建設され、朝鮮通信使に対して幕府の威光を誇示していたようです。もともと新橋と呼ばれていた橋も芝口橋と呼称変更になったようですが、芝口御門はほどなく焼けてしまい、芝口橋ももとの新橋に戻ったようです。地域で「銀座御門通り」と呼び、掲示板もありますが、やや目立たなくなっているのは残念ですね。
金春通り
江戸時代、幕府直属の能役者としては金春・観世・宝生・金剛の四家があり、金春屋敷として拝領したのが今の銀座八丁目の辺りのようです。「金春」の名前は、「金春通り」と「金春湯」に残っており、金春通りの入り口(新橋側)には金春屋敷跡の説明版が残っています。また、その傍らには「金春通り煉瓦遺構の碑」もあります。煉瓦遺構というのは銀座の煉瓦街の煉瓦のことです。
金春通り(銀座側から(奥に金春湯))
金春湯
煉瓦遺構の碑
また、金春湯を金春通り一本挟んだ向かい側の「久兵衛」や資生堂パーラーがある辺りは、昔の「出雲町」です。もともと家康公が全国の諸大名に号令し、石高千石につき一人の役夫(千石夫)を出させ、市街地造成の大工事を実施したようです。その時にそれぞれの国名を町の名前にしたとか。そして、出雲町は資生堂創業の地でもありますね。資生堂創業者(福原有信)の三男である福原信三氏(初代株式会社資生堂社長)の努力もあって、今のような銀座の形が出来上がってきたようです。それにしても、資生堂のメディアである「花椿」は、創刊が1937年。満州事変が1931年、連盟脱退が33年ですが、まだまだこの頃は満州事変後の景気もあり意外とのんびり(東京宝塚劇場オープンが1934年)していたはずですが、1937年ともなると日中戦争が勃発し、1938年には国家総動員法ですからかなりきな臭い雰囲気になっていたはずです。そんな中、今も続く「花椿」を刊行した資生堂の懐の広さというか、胆力には驚くばかりです。
金春湯向かいの「久兵衛」
ところで、銀座八丁目から昭和通りを挟んで「銀座ときめき橋」という歩道橋を発見しました。平成5年の「花椿通り」の開通に合わせて出雲市からも出雲椿が贈られ、「銀座ときめき橋」という新橋花柳界にも触れたネーミングも決まったとのこと。出雲の方もなかなか粋なことをするもんですね。
銀座ときめき橋
伝馬町
伝馬町の処刑場跡地は、またどこかで触れることになるでしょう。今日は写真まで。
なお、鼠小僧次郎吉の墓は両国の回向院にあります。なかなか捕まらなかったことから、どんな難関もスルリと抜けられるように、受験や金運のご利益があるそうです(削り石が置いてあるので、石を削って持ち帰る。)。
鼠小僧の墓(手前が「お前立ち(代わりの削り石)」)
マップ
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