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【バーテンダー競技大会】前代未聞の世界大会 代表決定戦

去年の秋のこと。「バーテンダーの技能競技大会をYouTube観戦したら、とてもおもしろかった!」という記事を書き、予想以上の反響があった。

あれから8ヵ月。さらに熱い戦いを、私は目にすることになった。

それは、国際バーテンダー協会主催 「World Cocktail Championships キューバ大会」世界大会代表選考会 である。

要するに、世界大会に出場する日本代表を決めようということ。別に普通じゃない?オリンピックと同じでしょ?と思いがちだが、実はこの選考会、前代未聞の出来事なのだ。

なぜ、選考会が前代未聞なのか

通常であれば、「全国バーテンダー技能競技大会」で総合優勝した選手は、自動的に翌年開催される世界大会に出場できる。

去年、私が熱を上げた2021年は兵庫県の森﨑和哉さんが優勝したので、従来であれば、そのまま今年のキューバ大会に行ける。

ところが。

コロナの影響で2020年、2021年の世界大会が中止になってしまった。日本の大会も2020年は中止になったので、2021年の世界大会がなくても影響はない。

けれど2019年の日本大会で優勝した選手(東京都の山﨑剛さん)は、2020年の世界大会がなくなったことで出場先がなく、宙ぶらりんになっているのだ。

じゃあ2022年の世界大会に、2人とも出場するのかな。

と思いますよね? 日本バーテンダー協会もそれを世界協会に要望したが、願いは聞き入れられなかったという。

たしかに、心情的には2人とも出場してほしい。
けれどいつもの2倍の選手が集まれば経費も2倍になるし、何よりコロナが完全に収まったわけではない状態で、通常より多くの人が集まるのが好ましくないことは、素人でも想像できる。

そこで、
2019年の日本一・山﨑剛さん(東京都)と
2021年の日本一・森﨑和哉さん(兵庫県)とで
代表選考の一騎打ち
がおこなわれることになったのだ。

ああああ・・・もう、聞いただけでしびれるし、泣ける。

いざ、決戦の6月19日

決定戦は、6月19日(日)に東京でおこなわれた。

バーテンダー協会が主催する大会は、山﨑さんや森﨑さんが優勝した「全国バーテンダー技能競技大会」(シニア部門)と、30歳未満のバーテンダーが対象の「エリートバーテンダー カクテルコンペティション」がある。

この日は若手の「エリート大会」の全国大会が開催され、その最後に決定戦が組まれた。

会場での観戦も復活したけれどYouTube生配信もしれてくれて、地方住まいで現地に行けない私は、テレビにYouTubeを映して、固唾をのんでゆくえを見守った。
(一定期間が過ぎると、削除される可能性大です)

決定戦は、この動画の「4時間8分55秒」あたりから始まる。
2016年に世界大会で優勝した坪倉健児さんの、世界大会での映像が流れて、「こんな華々しい大会、絶対に行きたいよなぁ・・・」と戦いに挑む2人の気持ちを想像した。

普段の大会同様、2人がそれぞれ創作カクテルを作るだけかと思っていたが、さすが世界大会の代表選考会は違った。

去年の大会観戦の記事には、カクテルに添えられたデコレーション(果物の皮などで作った花や鳥の飾り)が美しいと書いた。従来の大会では、デコレーションは事前に舞台裏で作って用意する。時間はいくらかけてもOK。

ことし6月に観戦した、全国大会の地方予選での作品たち。美しい!

しかし世界大会では、5つのグラスに飾るデコレーションを15分以内に舞台上で作り、それも審査対象になる。

だから今回の決定戦でも、デコレーションを舞台上で作る審査があったのだ!
それが決まったのも、本番2週間前だったそう・・・。とにかく前例がないため、バタバタしていたみたい。

(表紙画像と以下の画像は、日本バーテンダー協会のYouTube配信をスクリーンショットしたもの・画面を撮影したものです)

山﨑さん(日本バーテンダー協会YouTubeより)

技術的なことは、私にはわからない。けどとにかく、動画を見てください。15分でこれを作ってしまう、尋常じゃない包丁さばきと集中力!!!

スポーツであり茶道であり、武士道だなと思う。

山﨑さんは豪華な鳥や太陽、森﨑さんはシンプルな大きい一輪の花。

鳥には、キューバの国旗の星が★(日本バーテンダー協会YouTubeより)
大きな一輪の花は、キューバの国花をかたどったそう(日本バーテンダー協会YouTubeより)

見ているこっちも(しかも現地にいない画面越しなのに)、息をするのを忘れてしまいそう。

キューバへ行くためのカクテル

そして、いよいよキューバへ行くためのカクテルメイキング。

開催国は毎年持ち回りだが、やはりキューバだと、とりわけテンションが上がるだろう。2人とも、キューバを思わせる明るいイメージのカクテルになった。
(中止になった2020年大会は、ロシアでの開催が予定されていた)

山﨑さん
「ボラール(飛び立つ)」・・・ラム、ヨーグルトリキュール、バナナリキュール、ライム果汁、アマレットシロップ、オレンジ果汁

キューバ産のラムを使用して、トロピカルで明るい「キューバらしさ」を表現している。ブルーキュラソーでコーラルスタイル(塩や砂糖を使ってグラスの縁を飾る演出)をしたのも、カリブ海を思わせる。おいしそう!飲みたい!

(日本バーテンダー協会YouTubeより)

森﨑さん
「エンドレスジャーニー(終わりなき旅)」・・・ウイスキー、ベルガモットリキュール、アーモンドリキュール、レッドグレープフルーツシロップ、ライム果汁、トニックウォーター

こちらは、シンプルイズベストで王道な感じだ。ベースのウイスキーは世界の5大ウイスキーをブレンドした「碧」なので、世界に行くぞ!という意味なのだろう。

森﨑さん(日本バーテンダー協会YouTubeより)
(日本バーテンダー協会YouTubeより)

順調にカクテルを作っていた2人だが、最後。
カクテルにデコレーションをつけるときに、森﨑さんがデコレーションを落としてしまった!(5時間00分50秒あたり)

こうしたリスクに備え、普通は審査用カクテル5杯につき、デコレーションは6つ用意しておく。しかし今回はデコレーション作り自体に制限時間があったため、森﨑さんは、ちょうど5つしか作っていなかったのだ・・・。

世界への切符を手にしたのは、果たして

私はどちらも応援しつつも、しいて言うなら、森﨑さん寄りだった。山﨑さんは銀座のお店のオーナー。地方住まいの私はつい「東京には負けないぞ」と思ってしまう。あと、去年YouTubeで見た大会で勝ったのが、森﨑さんだったというのもある。

でも正直、今回は山﨑さんかなと思った。
もちろん技術的なことはわからないが、飾りは豪華だったし(手間がいっぱいかかってそう)、カクテルも「キューバっぽい」感じは、山﨑さんかなと。
それに森﨑さん、デコレーションを落としちゃったし。

そして、結果発表!!(動画では6時間1分40秒~)
バーテンダー協会の会長が、勝者の名前が書かれた封筒を開ける・・・(ドラフト会議みたい!)

「森﨑和哉選手!」

えええー!!!

いやあ、予想外の結果にびっくりした。審査については、もちろん私が言うことは何もない。きっと素人から見える部分以外のところで、森﨑さんがわずかに勝っていたのだろう。

(日本バーテンダー協会YouTubeより)

こんな酷な戦い、ありますか

森﨑さん、本当におめでとうございます。
山﨑さん、お疲れさまでした。わくわくするカクテルでした。

最初はどちらかというと森﨑さん寄りだったのに、やはり日本人の判官びいきか、敗れた山﨑さんのことが気になって仕方なかった。

森﨑さんの優勝は、コロナ発生後の2021年。そのため山﨑さんが宙ぶらりんになっていることはわかっていたので、こうした決定戦の可能性を踏まえて2021年の大会に臨めた。だから全国大会で優勝しても「もう一つある」と思えたはずだ。

けれど山﨑さんの優勝は、2019年のコロナ前。日本一になった時点で、世界大会に行けることを疑わなかったのだから。山﨑さんやご家族、彼を応援していたお店のお客さんは、今どんな気持ちなんだろう・・・。

こうした決定戦がおこなわれると、必ず勝者と敗者が生まれる。
今回は森﨑さんが勝ち、山﨑さんは負けた。

でも紛れもなく、2人とも日本一なのだ。

こんな酷な戦い、あるだろうか。
いや、コロナで総体がなくなった学生たちをはじめ、そんな悔しさがたくさんあるのが、現実なのだ。

7月に東京に行く用事がある。そのときぜひ、山﨑さんの店に寄ってカクテル「ボラール」を飲んでみよう。

そして森﨑さん、日本のバーテンディングを世界に披露してきてください!

さて私は地元のバーで、キューバのラムを使った夏のカクテル「モヒート」を飲もうか。

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