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バーテンダーの技能コンクールが熱すぎた

クラシックな内装で(蝶)ネクタイをしたバーテンダーのいるバーに行くのが好きだと、以前に書いた。

そんなバーテンダーたちが技能を競う、年に一度の「全国バーテンダー技能競技大会」が10月24日に開催された。スポーツでいう日本選手権みたいなもので、日本一が決まる。

昨年のコロナ中止を経て2019年以来、2年ぶり。各地方大会を勝ち抜いた21人のバーテンダーがしのぎを削った。

例年は会場で観戦できるけど、ことしはコロナ対策で一般客が入れないためYouTube配信。わざわざ現場に行くほどでもない、私のようなライトなバーファンにはありがたく、大会翌日に録画動画を見てみた。

【12月14日追記:ノーカット版動画の閲覧期限が切れましたので、ダイジェストバージョンに差し替えます】

いや~~~、めっちゃおもしろかった。
今まで、大会を観戦するおもしろさを舐めてました!

私がよく行くバーのマスターも過去に出場していたが、大会の観戦には入場料が必要で

「(マスター以外)知らないバーテンダーが同じようにシェイクするのを繰り返し見るためにお金を払うなら、そのお金をなじみのバーで飲むのに使いたい」

と思っていた。それも一つの考え方だけれど、今回見てみて、おもしろい発見がいっぱいあった。

この大会は以下の4部門があり、その合計点で総合順位を決める。
・学科部門
・フルーツカッティング部門
・課題カクテル部門
・創作カクテル部門

動画で見られるのは「課題カクテル部門」と「創作カクテル部門」。
とくに、1時間55分あたりから始まる「創作カクテル部門」がとっても楽しい。

各バーテンダーが、この大会のために考案したオリジナルカクテル。演技をするかたわら、そのレシピ(どんな素材を使っているか)と創作意図(ネーミングと、それに込められた思い)がアナウンスされる。

たとえばエントリーナンバー1の森﨑さんなら

作品名「Runway(ランウェイ)」
ブランデー「カミュVSOP」25ml、桜リキュール「奏」15ml、エルダーフラワーリキュール「サンジェルマン」15ml 、ライチシロップ「モナン」5ml、フレッシュライムジュース10ml

創作意図
「熱狂と歓喜に包まれる最高の舞台。それは華麗に彩るあなただけのランウェイ。新たな一歩は人生の軌跡を描き、美しい未来へつづく。輝く明日への希望を、この祝杯にこめて」

という具合だ。 

創作意図を聞いて、そのバーテンダーの目指す世界観がなんとなくわかるし、レシピを言ってくれるから、味の想像もできる。

素材の酒やシロップの瓶が演技台に並んでいるので、シェイクしたあとにグラスに注がれるカクテルを見て、この材料からこの色になるのか!という驚きは、マジックや理科の実験を見ているよう。

そして、何人ものバーテンダーの試技を見ていると

◆みんな、手が震えてる!
素材のお酒を計ってシェイカーに注いでいくのだが、酒の瓶やメジャーカップを持つバーテンダーの手が震えている。全国大会常連の選手も含め、ほぼ全員が。すごい緊張感なんだろうな・・・。今回はいなかったけど、カクテルをこぼしたり、グラスを倒したりすることもあるそう。

◆グラスの形が、一人ひとり違う!
カクテルを注ぐグラスは、条件を揃えるために全員が同じものを使うのかと思いきや、いくつものパターンが見られた。絵に描いたような三角形のカクテルグラス、少し縦長の三角形、丸みを帯びたもの、足に飾りがついたもの・・・。
フィギュアスケートの衣装のように、グラスの形状も含めて、そのカクテルの芸術性を表すという考え方なんだな。

◆白いカクテルをつくる勇気
21人のバーテンダーが出場するんだから、色とりどりのオリジナルカクテルが並ぶ。深い赤や、爽やかなブルー、夕焼け空のいろんな色を混ぜたような紫色、植物の息吹を思わせる緑、オレンジがかったコーラルピンク・・・。

そんななか、白色またはクリーム色(薄い黄色)のカクテルを作ったのが数人。「〇色が有利」というのはないが、審査員も人間、やはり鮮やかなものが印象に残りやすいのでは・・・と素人としては思ってしまう。

そこをあえて白色系でチャレンジするというのは、どんな心境なんだろう。素材となるお酒やネーミングに強い思い入れがあるのか・・・インタビューしてみたい。白色系のカクテルを作ったバーテンダーの勇気に乾杯!

◆飾りが超すてき
「デコレーション」と呼ばれる、グラスのふちに添える飾り。フルーツや野菜をカッティングし、花や鳥がかたどられることが多い。
審査でのウェイトは高くないかもしれないが、これが加わることでカクテルがぐわっと引き立つし、バーテンダーが表現したい世界観もわかる。豪華なもの、楚々としたもの、意外にも黒っぽいもの・・・と、思った以上に多様なのだ。

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(以前、お店で作ってもらった桜モチーフの飾り。大会ではもっともっと手間のかかる飾りが作られる。口では説明できないから動画見て!)

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(これも同じお店で作ってもらった、水仙イメージの飾り)

こんな発見をしながら出来上がるカクテルを見ていると・・・の、飲んでみたい!という欲望がむくむくと湧いてきた。21人ぶん全員、味わってみたい。これは「お酒を飲みたい」という欲ではなく、各バーテンダーが渾身の技術と思いをこめて考えた作品を味わいたいという好奇心に他ならない。

たしか、会場に足を運んで観戦すると、テイスティングもできるはず(数に限りがあるから、全員ぶんは無理だろうけど)。また一般の観戦が再開されたら、行ってみたいと強く思った。

結果は、関西本部(兵庫県)の森﨑和哉さんが総合優勝。全国大会の常連バーテンダーだが、これまで3位が続き「メダル止まり」だったので、喜びもひとしおだろう。優勝者あいさつのときに涙ぐんでいたのが印象的だった。

昨年はコロナで中止となり、森﨑さんに限らずすべてのバーテンダーが2年ぶんの思いをたずさえて臨んだ今大会。画面越しでも緊迫感や演技のすばらしさが伝わってきたのだから、きっと生で観戦したら、私ももっと震えるのだろう。

6月の地方大会、その前からカクテルを考えて練習して・・・とバーテンダー日本一が決まるまでの道のりは、スポーツの1シーズンにあたるほど長い。

出場したバーテンダーはもちろん、大会運営も協会員であるバーテンダーが行うので、みんな自分の店を営みながら(むしろ休業・時短させられたりしながら)この場を作るのは、毎年たいへんな労力だと思う。ようやくシーズンオフに入ったのかもしれない。

だから私は、シーズンオフを迎えてちょっとゆったりした空気が漂うバーに行き、来たる冬の寒さと相まってホクホクしようと思うのである。



*「全国バーテンダー技能競技大会」は「一般社団法人 日本バーテンダー協会」に所属するバーテンダーの大会です。
他団体(「 一般社団法人ホテルバーメンズ協会」など)に所属するバーテンダーや、どの団体にも所属しないバーテンダーもいます。

*追記(10月26日):兵庫県神戸市のバー「Andante(アンダンテ)」さんのFacebookページで、全選手のフルーツカッティング&デコレーション(グラスの飾り)の写真が上がっていました。(サムネイルがうまく埋め込めないのですが・・・)
https://www.facebook.com/100051782114598/posts/390673632668704/?d=n

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