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RIZIN45、勝敗予想

 大晦日は格闘技である。
 大晦日に開催されるRIZIN45のカードが出揃い、本日試合順が発表されたので、今回はその試合予想をしていく。あまり物書きの仕事で格闘技に触れることはないが、とても面白い一夜になるので、もしも僕の記事で興味が湧いた人は、大晦日に冒頭4試合だけ無料YouTube配信されるので、それだけでも見てほしい。それ以降は有料配信になる。フジテレビでの地上波がなくなったのは、なんだかんだで悲しい。興味がない友人たちも、かつてはチャンネルを回すだけで見てみることはできたので。(文中敬称略)

第1試合/YUSHI vs. 平本丈

YUSHI選手は、桜遊志という名前で、歌舞伎町にSENSE TOKYOというホスクラを経営している元一流ホストで、かつては現ROLANDこと東城誠とともに歌舞伎町ホストの神7とも呼ばれていた。そんな人がなぜ総合格闘技の総決算であるRIZIN大晦日の第一試合目にいるのかというと、色々な理由がある。

最近はRIZINの人気も定着してきたため、とりわけ大晦日のような大舞台ではあまり最近見る機会がなくなってきたが、RIZINでは第一試合前にオープニングファイトと呼ばれるニューカマーないし超若手のカードを組むのが恒例であった。しかし2020年末に女子ファイターのさくらと竹林エルの試合以来それはなくなってしまった。この流れにはさくらが計量に失敗し、その後のDEEP JEWELSでも二試合連続計量失敗からの何か色々やばい展開の集大成として引退を迎えてしまったことが尾を引いている気がする。

そんなこんなで2021年はオープニングファイトがなくなったが、実質的なオープニングファイトとして組まれたのが日本を代表するサッカー選手・キングカズこと三浦知良の息子・三浦孝太とこのYUSHIの試合であった。三浦孝太は今年も試合があるが、当時19歳の若者で、プロ格闘技経験はないが、榊原CEOの口説きもあり、大晦日での出陣が予告されていた。彼自身はいくつかのジムでの体験を経て、オリンピックレスラー出身のMMAファイターだった宮田和幸のBRAVEに所属し研鑽を積むことになった。当時はまだフジテレビの地上波生中継もあったため、カズの存在もあいまって三浦孝太はテレビ的にめちゃくちゃプッシュされていた。

さてとなると難しいのはマッチメイクである。デビューする選手にめちゃくちゃ実績のある相手を当てても単に支配されて終わるだけなので、どう面白い試合を演出できるかがキーポイントになる。そこで、発見されたのがYUSHIだった。どういう人伝かはわからないが、地下格闘技「宴」のキックボクシングで王者になっているという一定の実績があったことがちょうどよいと判断された気がします。ともにMMAデビュー戦ということもさることながら、重要なポイントは体重で、YUSHIはバンタム(61)なのに対し三浦はフェザー(66)だということです。普通にやったら絶対にフェザーの選手が勝つので、そこまで保険をかけていたと言えます。

結果としてはレスリングや寝技で優勢だった三浦が最後はYUSHIをサッカーボールキックでKOして、キングカズの再来ともいうべき劇的なフィニッシュを決めて最高度の盛り上がりで締めました。カズがリングサイドで観戦しているところもカメラに抜かれ、血まみれのYUSHIと真っ白なコートで感謝を込めて抱き合っているシーンも含めて非常に印象的な光景となりました。

さて、YUSHI選手も階級が上の相手に前線したところもありますが、それ以上に場を沸騰させたのは入場パフォーマンスで、まるでコナー・マクレガーかというほどの圧倒的なカリスマ性を見せつけており、以後、よくも悪くもYUSHIといえば入場パフォーマンスという印象がつきました。それを大晦日の一試合目という大舞台で決めたことにより、大晦日はYUSHIで始めれば景気づけになる、というイメージがついたことは(格闘技ファンは嫌がるところもありますが)あると思います。

そして2022年でも同じように入場を決めたものの、2023年はまともなRIZINでの活躍もなく、大晦日だけ出てくるのかよという逆風が吹いていました。

ですが、今回は平本蓮ファミリーが興行の軸となったことにより、急遽、白羽の矢が立ちました。今回の相手は、プロMMAが1戦1敗の平本丈です。

平本丈は平本蓮の弟です。弟というだけで強いということはないのですが、朝倉兄弟の成功(もしくはUFCにおけるディアス兄弟や、Bellatorにおけるピットブル・ブラザーズの存在)を考えると、兄弟で華のあるファイターを売り出すというのには興行的な投資戦略になります。

平本丈は兄のスパーリング・パートナーとして、今も剛毅會でしのぎを削っていますが、もともとはAbemaの格闘家オーディション企画である「格闘DREAMERS」出身と言えます。そこでは、平本蓮からの刺客として、LDHグループが擁する格闘技ジムEX FIGHTにプロ所属できるかどうかの査定戦に送り込まれていました。そしてそこで丈は僅差で敗北しています。その後、2023年にGRADIATORに参戦しKO負けを喫しています。公式戦と言えるような試合では二連敗という状態でここまで来ています。

つまり、今回の第1試合は、入場定番となったYUSHIと、RIZINの顔である平本蓮の弟であり、期待の新人でかつ強すぎない相手としての丈が見繕われた形です。と、こういうマッチメイクになると格闘技オタクは「なんてつまらないカードなんだ…」とため息をつきがちになると思うのですが、コンテクスト的に言えばたいへん華のあるカードだと言えます。

つまり、ライトファンからすれば、華はあるが入場一発芸男に見えるYUSHIが、「あの」平本蓮の弟にどれだけ食いつけるかということになりますし、丈側に立つと、パフォーマンスで目立とうという気持ちばかり見えるような感じがするYUSHIを平本がボコボコにしてくれ、という期待のもとに見るわけです。しかし、実力差がありすぎると試合がつまらなくなるーー(どちらかの勝ちを演出する「かませ犬」カードではない)というところで、絶妙なマッチメイクとなりました。実際、この両者はいわゆる「にわか」ファンがしっかり食いつくカードと言えます。

しかも、YUSHI選手はかなり真面目に練習をしているとの評判です。2022年大晦日は、Vシネマ俳優相手にフィニッシュできず、熱戦に見えたけどなんでこんな相手に手こずってるんだと批判を浴びたYUSHIですが、渡辺華奈(Bellator女子フライ級世界2位)を擁するFighter's Flowも含めて、コツコツと練習を積み重ねているようです。

こういう事情もあり、この試合はベット対象としてはだいぶ勝負論がある感じです。打撃では平本選手の方が明らかに有利だろうとされていますが、二年かけて組技を鍛えてきており、しかもRIZINで大晦日を含めて複数の試合経験を持つYUSHI選手が精神的に有利そうな雰囲気もなくはありません。

見どころは、三浦戦以降敗北のないYUSHI選手を平本選手が仕留められるかどうかですが、キックの実績があるわけではない丈選手の打撃ではYUSHI選手が倒れない可能性は高いです。そうなると組技でかなり体力を削られる展開になりそうですが、剛毅會空手はレスリングはやるようですが、寝技のオフェンスをしている様子がないため、疲れたところでスクランブルになるとYUSHI選手が優位になる可能性が高いです。そこで僕はYUSHI選手の判定勝ちを予想します。

第2試合/那須川龍心 vs. シン・ジョンミン

今回のRIZINでもっとも批判を呼んでいるカードですが、那須川天心の弟、龍心選手のMMAデビュー戦カードです。相手のシン選手はキックしか実績のないこれまたデビュー戦で、申し訳ないけれど典型的なかませ犬カードです。

このカードの成立経緯は、那須川天心が2016年にキックで勝利したあとに榊原CEOに直訴して、年末にMMA参戦をすることが決まったというあの神話に由来しています。そこから天心はRIZINに参加するようになり、MMAしかカードがなかったRIZINでキックの試合を成立させ、その後の栄華を築くことになりました。龍心の演出も完全にそれで、12月のRISEで勝利したところに榊原CEOにアピールして急に試合が決まりました。どこまでが台本だったのかが本当に気になりますが、武尊天心なきあとのキックボクシングスターを生み出すための投資活動であることは火を見るより明らかかなと思います。

キックボクサーとしての龍心は、勝ったり負けたりで天心ほど鮮やかではないのですが、巨大すぎる兄の重圧に負けじとキックでコツコツ実績を積み重ねていた様子にはみな注目していたと思います。ところが、ここで突然なんの文脈もないMMA挑戦、しかも大晦日となると、いったい何なのこれという感じが凄すぎるのは否めません。

シン選手も噂によると、キック戦績が4勝2敗くらいの選手のようで、めちゃくちゃ強いという感じもなく、写真を見るからにフィジカルもまったくMMA向きではなさそうです。キックではクリンチをすると一応離されますが、MMAでは続行になりますから、これはかなりの泥仕合が予想されます。

天心のキック引退試合となったTHE MATCHでは、兄の決戦に華を添える第1試合に出場するも、大久保琉唯に差を見せつけられて敗北しました。ただ、その後はフィジカル面も力をつけ、キックボクサーとしての実力を高めてきたように思います。そう考えれば、恐らくキックでは那須川が勝つでしょうから、この試合も那須川の勝利だと予想します。3RKOかな。ただ体重が54キロとかいう、MMAでは聞いたことのないめちゃくちゃな体重なのが気になります(ストローが52、フライが57)。体重をどちらかに揃えるという概念もないという試合なのでしょう。

第3試合/篠塚辰樹 vs. 冨澤大智

まさかのBREAKING DOWNからの冨澤大智選手の登場となりました。飯田将成の方が早いかと思われていた中でのこれは快挙と言えます。純然たるBD選手としてはこれが初です。ただし、キックルールです。

この試合の成立事情も、お互いの都合が噛み合った形だと思います。BDの人気にあやかりたいRIZINと、平本蓮ファミリーを出場させたい平本蓮の、双方の思惑です。とはいえ、知っている人が見るとこれはやばすぎるカードです。

冨澤選手はBDでは無双しており「闘神」とされていますが、基本的に素人喧嘩自慢を叩きのめしているせいで、雑魚狩りのような側面をよく指摘されています。RIZINファイター瀧澤謙太さんのFired Upで研鑽を積んでいますが、本人のプロ実績はKrush2戦判定2勝。一方の篠塚選手は、まさに先日のKrushで森坂陸相手にタイトルマッチを行い、勝利して王者戴冠したばかりです。

僕はRISEからK-1に移籍してからの試合しか見たことはないのですが、恐らくは剛毅會に合流してからでしょうか、非常にどっしりと構えて差し合いに強く、王座戦の前からかなりの実力を感じていました。森坂戦でもその印象は変わらず、全く動じないフィジカルに森坂がふわふわと回転するしかなくなり、攻撃をしてもヒットの反発で逆に自分の体が崩されているほどでした。

率直に言えば、冨澤選手のフィニッシュブローは膝蹴りですが、これがまともに入るとは全く思えず、それを実現するための崩しが全く篠塚には通じず、左フックが顔にあたったり、左ボディが決まってダウンする可能性が非常に高いように思えます。篠塚の2RKOを予想します。今回のRIZINでいちばん厳しいカードと言えるかもしれません。

第4試合/弥益ドミネーター聡志 vs. 新居すぐる


なんとこの試合までがオープニングマッチだそうです。第四試合なんですが、この次に入場セレモニーがあります。やばすぎます。なんでかというと、恐らくここまでが無料YouTube配信となるからで、RIZIN側としても一つは「本物」の「MMA」カードを組みたい、という一念があったのだと思います。

ドミネーター選手は筑波大学出身で某大手メーカーに務める知性派遣業ファイターですが、元DEEPフェザー級王者です。当時の王者だった芦田選手を二回退けて戴冠していますが、その後、元RIZINフェザー級王者でもあり、先日現役王座だったDEEPフェザー王座を、バンタムへの階級変更を見越して変換した牛久絢太郎に判定負けを喫して王座を失っています。つまり、RIZINにおいてもトップコンテンダーとしのぎを削ってきた人物で、RIZINファンにとっては、朝倉未来との大晦日の決闘や、結果的に平本蓮の評価を大きく上げることになった試合が印象深いと思います。

ドミネーター選手はRIZINではかなり苦しい戦いを強いられていますが、その理由は階級が安定しないというところで、朝倉未来戦も68キロで敗北。次の試合ではキック王者からのMMAデビューだったブラックパンサー・ベイノアとのまさかの73キロ契約にて辛勝。萩原京平との66キロマッチでは三角絞めでフィニッシュを決めるも、次の平本蓮戦では相手都合により70キロの試合となり、打撃で塩漬けにされて完敗を喫しました。規定のフェザーで試合をすることが本当に少ない状態で振り回されていた人ですが、今回は66キロで試合を迎えます。

一方の新居すぐる選手は、コンパ王子というリングネームでも知られる歴戦のファイターですが、正直RIZINファンにとっては、山本空良にワンパン35秒で沈められた印象が強いと思います。しかし、その後覚醒し、私生活を全て捧げて格闘技に打ち込み、亀井晨佑をフィニッシュして先日パンクラスフェザー級の正規王者につきました。凄いです。なおパンクラスのフェザーは群雄割拠で、絶対王者だったISAOがBellator挑戦に伴い王座返上したことに伴い、透暉鷹がトーナメントで亀井を下して戴冠するも、透暉鷹がバンタムに階級変更したため、新たに王座決定戦が行われ、そこで新居が勝利しました。ちなみに透暉鷹は昨日のパンクラスでバンタム級タイトルマッチに挑み、圧勝で戴冠しました。本当に強いです。そんなバンタム王座を持っていたのが、フェザーでISAOとも争っていた中島太一で、これまた絶対王者感があったのですが、RIZINに集中するために王座を返上したのでした。中島はフェザーで無理やりケラモフと対戦しても善戦し、その後元修斗王者の岡田遼に圧勝するなどかなりの実力を見せつけており、パンクラスもかなり層が厚くなってきました。

話を戻すと、新居はイケイケの現役王者なのですが、僕が注目するところはその直前のRIZINで、同郷の飯田健夫を仕留めているところです。飯田は修斗のフェザー級トップコンテンダーで、直前に現王者のSASUKEとタイトルマッチをしたばかりでした。RTUに敗退して帰ってきたSASUKEではありましたが、結果としてはバックナックルがヒットして飯田がフィニッシュされるなど、SASUKEが王者の貫禄を見せました。しかし、SASUKEの強さを知っていれば、飯田がかなり健闘していたこともわかります(SASUKEはRTUだとぱっとしないのですが、朝倉海とのスパーリング動画を見ていると、かなりの実力者であることが一発でわかります)。ダメージがあり弱っていたところがあるとはいえ、そんな飯田を新居は仕留めているので、山本戦のあっさりとした敗北は何だったのだというほどの実力をつけていると言えます。

さてそれを踏まえてこの試合を予想すると、人気的にはドミネーターを応援したいのですが、新居が有利ではないかと思わされます。変則的な打撃が評判のドミネーター選手ではありますが、近年の試合では打撃が光るところがなく、一方の新居は打撃でフィニッシュへの連携をしています。極めのないストライカーとの対決の場合、実は朝倉戦以降ドミネーターは全てのマッチメイクがそのような試合なのですが、打撃でKOされなければ、効いても寝技から逆転することができます。それをしなかったのがベイノアと平本蓮で、ドミネーターは実質的に両方とも敗北しています。一方で寝技に巻き込まれた萩原はサブミッションを極められています。しかし、この人たちは全く寝技をしない人たちです。新居の場合は、打撃で効かせたあとグラウンドで支配して、そこからアームロックを中心に、いくつものフィニッシュを狙うことができます。これはかなり不利だと言えます。ドミネーターからすれば、今成十段譲りの足関節が炸裂する可能性もないとはいえませんが、たぶん新居はしっかり対策してくるので極まるとは思えず、いずれ消耗したドミネーターが取られるイメージがかなり見えてきます。僕は2R新居がフィニッシュすると予想します。

第5試合/久保優太 vs. 安保瑠輝也

K-1チャンピオン同士の夢の対決が実現しました。ともに超有名ファイターですが、まさかのMMAマッチです。

安保は一撃の破壊力を持つキックボクサーで、非常に技巧派です。一方で、久保は本来はそれを超える超技巧派で、世界の強豪を御し切ってきました。近年はMMAでコロコロにされたり、シバターにまさかのダウンを奪われるたりなどで評判を落としていますが、体重差の問題もあるから仕方ないかなと思います。Glory王座を持っているなど、キックでは比較できる人を探す方が難しいほどの実績を持っています。

とはいえ、久保もMMAの試合を頑張っているとはいえ、基本的にはキック主体の選手であって、テイクダウンディフェンスはあっても、寝技での攻めがあるとは思えません。となると、そもそも寝技組技の攻めがない安保との対決は基本的に立ち技の対決になります。

そこで考慮すべきは、K-1キックとは何が違うかというところです。大きな違いは、オープンフィンガーグローブだということと、組技があるため肘や首相撲が無制限になるということ。つまりムエタイに近くなります。

オープンフィンガーグローブでの立ち技では、キックのようなブロッキングが効果的ではなくなります。したがって距離で外すことが重要になっていますが、その手腕は恐らく久保の方が上です。久保がもともとそういう選手だったのに加えて、MMAの距離感をわかっているからです。MMAの距離感というのは上述の通り、寝技をしないにしても、無限にクリンチができてしまうような距離感がある、ということです。久保は安保を寝かし切ることはできないと思うのですが、寝かすことが肯定されるMMAにおいては、困ったらとにかく組み付かれて、何度も寝かされるという展開はかなり想像できます。そうすると、立ち上がることはできても、その繰り返しによってかなり体力を削られてしまいます。

一発があるのは安保だと思いますが、体力が削られたところにOFGでヒットが入ると、さすがに効いてしまいます。ですので、この試合は序盤に久保がどういう攻めをするかでかなり変わってきます。

この試合の参考になるのは、何と言っても2020年の平本蓮VS萩原京平です。鳴り物いりの登場した平本に、圧倒的なストライキング能力で名声を轟かせつつあった萩原がぶつかるということで、どうなるかと思われた試合でしたが、序盤から萩原がテイクダウンを狙い、結果的に萩原が寝かしてからの打撃を執拗に行って、そのままパウンドアウトで勝利することになりました。萩原は、その後に朝倉未来に寝かされてけちょんけちょんにされたことからもわかるとおり、しばらくの間全く寝技の力がありませんでした(後に名レスラーであるカイル・アグォンに判定勝利するという大金星を上げ、大きく評価を上げました)。そんな萩原にすら平本はけちょんけちょんにされたわけですから、ちょっとテイクダウンディフェンスを練習したくらいではミルコ・クロコップにはなれないということは明らかです。大丈夫なパターンは、ドミネーターとベイノアのように2階級くらいのフィジカルさがある場合だけです。

僕の見る限り、当時時点においては、平本にはフィジカルがあるが、萩原にはフィジカルがない、という状況でした。にもかかわらず萩原は平本を寝かしきったので、この程度の差は問題にならないと言えます。もちろん、萩原ほど久保が執拗に攻撃できるかといわれればそこは謎なのですが、久保がパウンドを打てないことはない、と思っています。また、直前の試合で有望株の木下カラテに競り勝っているというのも重要で、ストライカー系のMMAファイターとの試合経験があるのは大切です。恐らくは組んだときの対応はだいぶやりやすいと思います。

一番微妙なのは久保がスタンドメインを選択した場合で、中間の距離を取られて蹴りで組み立てられると安保が一気に有利になります。蹴りを掴んでテイクダウンは久保にはできない気がするので、そうすると削られるのは久保になります。かといって、インファイトも安保の方が有利だと思いますので、近寄ったら組むしかありません。本当に立ち上がりで勝負の展開が占われます。

…こうしてみますと、もしかしたら、萩原戦の反省を徹底的に分析した対策を平本が安保に授けている可能性があり、それで上手く安保を寝かせられなかったら、著しく久保が不利になるので、僕は安保の勝利を予想することとします。ただ、クリンチなどでフィニッシュを避けることができるので、KOはないと考え、安保判定勝ちです。

第6試合/新井丈 vs. ヒロヤ

修斗の歴史初の二階級同時王者、新井丈と、朝倉未来一年チャレンジ出身のヒロヤの対決です。

キャリア差飛び級対決が目白押しの今回RIZINの中でも屈指のカードです。もちろん左の赤コーナー側にいる新井選手が格上なのですが、この人は9連敗のあと11連勝にて、修斗ストロー級とフライ級を同時制覇した凄い人物で、和術慧舟會HEARTSに所属している大沢ケンジismを体現した人物です。打倒極を体現したまさに修斗王者という感じのファイターですが、特筆すべきは小さな体格を感じさせない圧倒的なボクシングテクニックそしてパンチ力です。打撃ベースのファイトには試合の華があり、中でも先日のフライ級タイトルマッチでは、階級を一個上げての王者挑戦となり、体格に勝る山内渉に当初はかなり打撃で押されていたものの、ブロッキングで耐え抜いて一瞬のチャンスをものにして逆転KO。恐らく今年の修斗ベストバウトといえるものでした。

一方のヒロヤ選手は、最近はBD出身というブランディングもしていますが、実際には朝倉未来一年チャレンジというオーディション企画からキャリアをスタートしたバリバリのMMAファイター。現在はそこから4年となり、DEEPを主戦場に努力を続けてきました。当初はバンタムで参戦していましたが、体格差に苦戦して負け星先行していたこともあり、昨年からフライに階級変更して再チャレンジをしていました。ヒロヤ選手は実は、常に自分よりちょっと強い、結構名前のあるファイターとマッチアップすることが多く、たいへん苦労しています。CAVE勢との連戦も厳しいし、RIZIN女子Sアトム級絶対王者・伊澤星花の弟である風我も厳しいものがありました。が、フライに転向してからは勝ち星を取り戻したものの、RIZIN査定試合となったDEEP113で、DEEPフライ級グランプリにも参戦していた安谷屋智弘に全体的に上回られて、少しだけど明確な差を見せつけられて敗北。スターダムへ足踏みという状況がありました。しかし、盟友・西谷大成が一足早くRIZINに参戦するも、怪物くんとの試合で飛び膝にカウンターを合わせられ秒殺、たいへんな屈辱を味わったことに奮起をして朝倉未来に直談判、次の超RIZINに参戦が決定し、より大舞台でのRIZINデビューを果たします。

ところがその相手は伊藤裕樹です。伊藤は朝倉兄弟を輩出したTHE OUTSIDERの55-60kg級王者で、圧倒的に華のあるストライキングでRIZINで存在感を示し、まさにプリンスといった面持ちで活躍していました。UFCファイター・平良達郎も現れ、堀口恭司らの階級変更も伴ったことで、日本で最激戦区となったことを踏まえると、トップ層からは一段下がるところに落ち着いていますが、DEEPフライ級ではトップレベルの実力を有し、トーナメントでも準決勝まで進出している実力者です。優勝した福田に負けているとはいえ、フライ級グランプリで二回戦敗退しているのが安谷屋であり、その安谷屋を伊藤はなんとリアネイキッドチョークで極めていて、それからヒロヤが3-0で敗北した関原翔を伊藤は再起不能にして引退に追い込んでいるほどの実績差があります。

この流れだけ見るとヒロヤ選手にはどう考えても勝ち目はないのですが、超RIZINで驚くほどの健闘を見せ、1-2で敗北したにもかかわらず、圧倒的な評価を得ます。それは積極的に前進しレスリングで支配していくスタイルです。気合のジャーマン・スープレックスも極め、大会で最大級の歓声を浴びていました。ただ、3Rに伊藤が打撃でまとめるシーンがあり、アグレッシブを取られての判定負け。ニアフィニッシュ力の差が出ました。

この試合を評価され、次のRIZINではRIZINフライ級の古株であり、那須川天心とも試合経験のある中村優作とのマッチが組まれました。中村は実力者であり、たとえば朝倉海とも激闘を行ったトップノイ・タイガームエタイに勝利をしています。最近はRIZINトップ層のフライ級ファイターである神龍誠・竿本樹生・伊藤裕樹に三連敗を喫していましたが、フライ級のもう一人のプリンスである征矢貴にまさかの勝利を収め、大きく評価を回復させたところでした。

で、これまたヒロヤ選手1-2のスプリット負け。レスリングで徹底的に食いつくも、一瞬だけ打撃でいいシーンを作られ、とりわけ打撃の攻撃を優先するRIZINルールの妙もあり、伊藤戦と同じような結果となりました。しかし今回もヒロヤの勝利を期待する観衆の大声援大反響が会場を包み、今度こそ勝ったのではないかと思わされるほど肉薄していました。中村と古い付き合いのMMAプラネットの記者が、試合後会見で「試合を支配していたのはヒロヤ選手だったのでは」とかいう前代未聞のコメントを残していき、それを中村選手も認めるものだから、これで格闘技ファン界隈がざわつく程度の反響がありました。とはいえ、RIZINルールはユニファイドではないので、1Rと2Rのポイントを取っているように見えても勝ちではありません。もしかしたらヒロヤ選手は北米ルールの方が実力を発揮できるかもしれないですね。

そんなこんなで惜敗とは言えRIZIN二連敗MMA三連敗だというのにまさかの大晦日に修斗二階級同時王者との試合が巡ってきました。いくらなんでもやばすぎます。勝っている自分が大晦日に出れないため、事前宣伝番組で伊藤が「ヒロヤ選手勝ったんでしたっけ」と発言して場を凍りつかせるほどでしたが、そうも言いたくなるのはわかります。

日本人フライ級の群雄割拠ぶりについて解説しますと、まず元々UFCフライ級で王座挑戦までしている堀口恭司がフライに戻しましたから、これが日本最強兼世界最強の可能性が高いところです。さらにそれを追って扇久保博正がフライに落としまして、これは去年の大晦日に堀口と戦って圧倒的にやられて格付けが済んでいます。済んでいますが、扇久保はもともと修斗フライ級王者だったのにRIZINバンタム級トーナメントを優勝しているほどの猛者ですから(特に井上直樹・石渡伸太郎に競り勝っていることの価値がありすぎます)、ほぼ日本二位の実力だと思います。この下に、新世代若手ローカル三王者がいます。もっとも頭角を現しているのが前修斗フライ級王者である平良達郎で、王座戦ではめちゃくちゃ強いはずの福田龍彌をサクッと極めて戴冠。やばすぎますが、VTJの試合もはさみつつそのまま奇跡のUFC契約。全日本人から応援される存在となり、このたび晴れて無敗(そしてキャリアでも)の5連勝を極めて、数年ぶりとなるUFCランカー(15位ノミネート)となりました。堀口が圧倒的に抜けていますが、平良と扇久保のどちらが強いかは現状でもなおわかりません。落ち着いてほしいのですが、昔の話であるとはいえ、扇久保はTUFの準決勝で、現UFCフライ級王者であるパントージャに勝っています。どういうことなの、という感じが凄い状況ですね。まあ経験も加えれば恐らく平良は日本人三位くらいの実力じゃないかと思います。

それを追いかけるのが今回も後に登場する神龍誠で、彼はDEEPのフライ級王者です。平良が倒した福田が、修斗から移籍して王座挑戦してきたのですが、それを3-0の判定で下しています。ここだけ見ると平良の方が強そうですが、福田をしっかり下しているのは見事です。昔の話になりますが、神龍はちょうど昨日パンクラスのフライ級暫定王者に輝いた元ZST王者の伊藤盛一郎もきっちりチョークで極めており、逆にめちゃくちゃ若いときにこれですから力の強さが窺い知れます。

そんなパンクラスのフライ級現正規王者を務めているのが、MMAの名門パラエストラ千葉ネットワークの総帥・鶴屋浩の息子、鶴屋怜です。MMAの申し子たる存在で、当初はDEEPからプロキャリアを始めましたが、最短で王者になるべくパンクラスに移籍、そのまま圧倒的な強さで3戦全勝で戴冠し、RTU(ROAD TO UFC)に挑戦、二連勝で決勝に到達しました。下馬評ではほぼ優勝は間違いなく、二人目の現役UFCフライ級ファイターになることでしょう。平良がUFCランカーになり、神龍がCFFCで王者になってからの堀口とのフライ級世界タイトルマッチ(Bellatorでも組まれていたので本当に世界最強決定戦レベル)に挑むところと比較すると、鶴屋はルートの問題で少し後塵を配していますが、実力的にはそこまでの差がないのではないかと思われます。

この若手三人衆を含む世界レベルの超トップ層5名を外したところで、現実的に日本のトップにいるのが恐らくはDEEPの福田龍彌です。トップ層に跳ね除けられているという点ではバンタムの元谷友貴を彷彿とさせるのですが、めちゃくちゃ強くて、打撃のセンスが抜群で、本当に凄い選手です。実際、修斗など外部選手も参加して行われたDEEPフライ級グランプリを見事に優勝しています。が、今月のNaizaFCで海外タイトルマッチに挑むも、ディアス・エレンガイボフの圧倒的フィジカルに支配され、ユナニマスで敗北しています。CFFC王座戦をしっかり取り切り、ドラゴンニンジャチョークで一躍世界の話題をかっさらった神龍との、分厚い紙一重が感じられます。が、福田は伊藤に勝った本田や、伊藤を支配しきった復活の山本KIDのDNA、山本アーセンにも競り勝っており、それから修斗フライ級の次のプリンスと目されていた宇田悠斗にも勝っていますから、やはりめちゃくちゃな実力を感じます。

ちなみに福田と双肩をなすもう一人の実力者は恐らくは竿本樹生で、先日・UFC王者レベルの刺客、ジョン・ドッドソンに敗北するまで、全てのスプリットを取り切り、脅威の14連勝を決めていた現ZST王者です。とにかく負けない人で、まるで相手に合わせて実力が変動するのではないかと思われるほどで、宇田との試合などを見るとトップというほどではないのでは……と思わされますが、ドッドソンとの試合を見るとここまでの実力があったのか、と驚かされます。中村優作や伊藤盛一郎にも勝っており、福田との実力は拮抗しているのではないかと思われます。

ここまでよくもまあ長々と他の人たちというかフライ級の現状を説明してくれたなと読者は思うと思いますが、ここにきてようやく新井の位置づけがわかります。ストロー級王者がフライ級でも王者になったのは凄いことだが、今の修斗フライ級はどれほどのものなの、ということです。山内選手も強い選手で、清水清隆や内藤頌貴を下していますが、やはり階級が下の新井に負けているところは気になります。

これは新井が凄いと褒めるべきところかもしれませんが、格闘技における階級差は本当に巨大な差を生みますから、これで勝つ・負けるというのはただごとではありません。たとえばUFCミドル級では絶対王者だったイズラエル・アデサニヤも、ライトヘビーに階級を上げたところ、後に王座を失ってしまうヤン・ブラホビッチのレスリングで制圧され、UFCキャリア初の敗北をしてしまうほどです。PFPトップを突っ走っていたUFCフェザー級王者のヴォルカノフスキーも、ライト級王者のマカチェフとの一戦では惜敗(しかしその試合が実質負けていなかったのでPFP一位を維持)、しかしその後のりマッチでは1RKOで負けるという差を見せつけられています。UFCライトヘビー級絶対王者だったジョン・ジョーンズがヘビー級にあげてシリル・ガーヌをまさかの1Rフィニッシュで極めて戴冠していますが、ジョーンズもそこに行くまで3年くらいの準備期間を設けています。

こう考えるとフライ級なのにずっとバンタムでトップを走っていた堀口恭司(と扇久保博正)は化け物です。そりゃ絶対に堀口が勝つわという話になります。特に堀口はフライ級では世界の絶対王者であるデメトリアス・ジョンソンにしか負けていないのではないでしょうか。そりゃあフライ級世界一だろと誰でも思います。まあBellatorバンタム級前王者のセルジオ・ペティスがUFCフライ級からの変更だったので、それを考えればフライ級ファイターに負けていたとも言えますが、あのBellatorタイトルマッチはほぼ堀口が勝っていたとみんな思っていることでしょう(結果は逆転KO負けですが)。

上位階級で勝つというのはそれくらい異常なことなので、山内がまだそこまででなかったか、新井が異常に強いかの二択になりますが、修斗王座戦はベストバウトではあったものの、階級上のファイターになんとか食らいついていった結果であり、そこまで新井の圧倒的な実力を感じられたわけではありません。たとえば新井と伊藤裕樹が戦ったらどうなるのかなどを考えると、僕はアウトボクシングで伊藤が制してしまうのではないか、と思えてしまいます。そんな伊藤をDEEPグランプリで制したのが本田良介ですが、本田は典型的なレスリングスタイルで、見事に伊藤を泥沼に沈めました。実は、ヒロヤは本田と同じタイプの選手だと言えます。それゆえに現段階では本田とであれば本田が上位互換だと思うのですが、重要なのはフィジカルで、本田は明らかに伊藤よりフィジカルがあり、伊藤のボクシングテクニックをくぐり抜けてレスリングで制圧しました。しかし、表面上のフィジカルはそこまででもなさそうに見えるストライカーの福田が本田を制したのは、まさに福田の総合的テクニックが光ったものと言えます。本田がヒロヤの上位互換なら、福田は伊藤の上位互換です。

ということで、打撃を制するのがレスリングであり、レスリングにフィジカルが大事ということになると、俄然ヒロヤの優位が際立ってきます。DEEPで試合をしていた頃は伸び悩みがありましたが、RIZINの舞台に立ってからの成長には著しいものがあり、最後まで組みに行く気合のスタイルは本当に称賛すべきものです。実は、伊藤を下して復活した山本アーセンがまさにこのスタイルであり、朝倉未来は当初は大晦日のカードにヒロヤとアーセンを考えていたようです。ただ、このカードであれば完全にアーセンに分があったでしょう。レスリング競争になれば、レスリングのテクニックがものを言います。

さて、単純な実力だけでなく、この競争をするとなると重大な意味を持つのが階級差です。実質ストロー級である新井に対し、ヒロヤは一応はバンタムから落としてきた人間です。同階級でもフィジカル差が出てくることを考えれば、この試合には絶対的なフィジカル差があると言えます。となると、それに対応するためには福田的な総合テクニックが必要になると言えます。新井選手には総合テクニックがあると思いますが、そこに階級差による大きなマイナスが乗ってきます。ヒロヤ選手の基本的実力に不明なところがあるため、お互いを平等な物差しで分析することが難しい、極めて勝負論のあるマッチメイクになったと感じます。強いていうなら、関口祐冬がヒロヤと同じくらいの力の可能性があり、それを踏まえれば新井有利かとも思いますが、RIZINの舞台、それも大晦日の舞台には特別なものがあり、しかもヒロヤには絶対的な人気があります。人気がある方が勝つということはありませんが、厳しい試合になったときに精神を支えてくれる要素に大声援があることは否めず、その微妙な差が勝敗に関わってくる可能性も十分にあります。

そこで新井関口の試合を再確認してみましたが、山内戦でも同様なのですが、実はこれらのフライ級対戦相手、ぜんぜん新井と組みで勝負していません。これは新井が上手く防御しているというのもありますが、それぞれの選手が打撃を選び、また体格差に基づくリーチ差を利用して戦おうとしたためのように思われました。しかしヒロヤ選手は打撃で極めようとは思わないでしょうから、おそらくこれらの選手の10倍はタックルトライすることでしょう。そこでキーになるのは新井のカーフキックですが、ヒロヤ選手もそこを対策してくる可能性はあり、打撃でフィニッシュされたことがないことを考えるとかなり厳しい戦いになりそうです。山内選手も無敗で新井戦に臨みましたが、彼は打撃主体で戦ったためリスクが大きかったと思います。

どちらを応援するかという観点でも実に甲乙つけがたいマッチメイクですが、伊藤・アーセン戦の再来があると見越し、ここはヒロヤ選手の判定勝ちを予想します。三度目(四度目)の正直ですね。

第7試合/イゴール・タナベ vs. 安西信昌

日本最強の柔術家としてMMAキャリアを積み始めたイゴールと、ベラトール・ジャパンでのMVP戦以来となる安西選手の一戦です。これはまあイゴールが固いと思います。中量級をご覧の方には、ボンサイ柔術みたいな感じだと考えてもらえればわかりやすいでしょう。あまりにも極めが強すぎるので、減量が上手く行っていればイゴールの圧勝だと思います。逆にその様子は前日までわからないので、それ次第というところもあります。

安西選手の最終戦であるMVP戦は、MVPが異常すぎて全く参考になりません。が、基本的に打撃に長けるMVPに組技での挑戦を行っていました。これがイゴールとは相性最悪で、イゴールを寝かせたら多分逆に極められてしまうでしょう。そうなると打撃で圧をかけるしかないのですが、イゴールが階級下の選手ではあるとはいえ、名ストライカーである阿部大治を極めているところがポイントです。階級差があるので安西の打撃にも重さがあるとは思いますが、一撃で倒さないとイゴールは危険です。もちろんサトシとジョニー・ケースのときのような一撃による戦意喪失もありえなくはないですが、若いイゴールの方が打撃に耐えれてしまうのではないかとも思います。

そうなるとやはり総合的に見てイゴール有利は揺るがないのではないでしょうか。1Rイゴールの一本勝ちを予想します。

第8試合/三浦孝太 vs. 皇治

話題性マッチメイクです。三浦は前戦でYA-MANにKOされていますが、YA-MANの打撃力が高すぎて参考になりません。三浦はYUSHI、外国人ファイターからのYA-MAN戦で洗礼を受けました。ところで、皇治選手はバリバリのキックボクサーですが、打たれ強さには定評があるものの、打撃はそこまでではないというのがもっぱらの評判です。ただ、梅野源治がダウンを取られていることを考えると、タイミングが良ければ当たってしまうのというのと、OFGによる打撃が思いの外痛く、三浦が戦意喪失する可能性も十分にあります。

皇治はMMAデビュー戦で、青木真也やカルペディウムの竹浦正起と寝技の修行を積んでいることが知られています。でも寝技は一年では絶対に強くならないため、柔術の練習はほぼ参考になりません。これは三浦孝太の方が分があります。となるとTDを切ることが重要になってきますが、皇治選手の腰が重そうな感じは全然ありません。唯一気になるのが体重で、三浦がフェザーなのに対して皇治はバンタムですから、また階級差マッチになっています。マジでこれでバランスを取っているんですよね。

体重差が打撃面でも影響があるのは確かですが、多分三浦の打撃では皇治が倒れたり効いたりということはないでしょう。ということは打撃は全てTDのための散らしということになりますが、恐らくこれはわかっていても取られてしまうのではないかと思います。ここにこそ体重差が効いてきます。そうは言ってもBRAVEで三年の修行をしている三浦ですから、寝かされたら皇治選手は立てないと思うので、だいぶ皇治が不利です。しかし、意外とスタンドでの皇治の打撃がヒットして三浦が弱る可能性もあり、しかし皇治のまとめ力では三浦も仕留められないと思うので(危険になったら組み付いて逃れることができる)、一番濃厚なのは2Rで決着せずに判定で皇治勝利かな、というところです。つまり、五分五分で試合は進行するが、打撃で攻めざるを得ない分、結果的に皇治有利かな、というところです。そもそもなんで5分2Rやねん、とは思います。だったらオープニングマッチに回せや、と全格闘技ファンが思うことでしょう。

第9試合/太田忍 vs. 芦澤竜誠

そろそろ本番かと思いきや、まだチャレンジマッチが続きます。太田忍はリオ五輪に銀メダリストレスラー。近年はパラエストラ千葉で研鑽を積み、もうすぐタイトル挑戦圏かというところで、ONE帰りの猛者・元修斗世界王者の佐藤将光にスプリット判定で負けて後退しています。

対する芦澤は皇治同様のK-1出身のキックボクサーで、前回はキックで皇治に勝利していますが、今回はMMAデビュー戦です。かつては朝倉未来とも舌戦を繰り広げていたことで有名ですが、超一流のキャラクターであるとともに要所要所で勝つものですから、K-1の顔としても認識されていたような人物です。

この試合は太田忍が100%勝つと思います。理由は、キック上がりだった久保優太と、一つ上のフェザーで対戦し、その打撃をかいくぐって3R支配し続けて勝ったからです。階級が下がれば打撃力も下がりますから、芦澤の打撃では太田は沈まないでしょう。太田も純粋なストライカーにはほぼ負けておらず、負けてるのは寝技師かトータルファイターばかりです。

実は久保戦でも、確か、立ち上がりのかちあいで太田は前蹴りのカウンターを食らっていますが、そこから立て直し、全体で支配をしました。ということは、一発食らったくらいでは倒れないということです。

それを考えれば、芦澤の一発でKOされる可能性は極めて低く、寝かして支配する形は極めて高い。ただ、どこでフィニッシュできるかは謎なので、今回は太田の3Rフィニッシュを予想します。

第10試合/元谷友貴 vs. ヴィンス・モラレス

ようやく第10試合……。実力者の元谷、またも海外強豪との一人対抗戦です。モラレスは朝倉海がスパーリングパートナーとして招聘した人物で、たぶんシンジケート出身です。戦績はUFC3勝5敗、その後別団体で2勝していて、最新では夜叉坊選手をフィニッシュしています。

モラレスはあまり試合を見れなかったので実力がわかりませんが、UFCで3勝しているだけで、日本のローカル団体の王者よりもだいぶ強い可能性が高いです。たとえばパンクラスの絶対王者だったISAOは、以前にも2回、そして最近にも1回Bellatorに挑戦していますが、全敗しています。UFCはその一回り上なので、UFC3勝はやはり凄いと言えます。

元谷選手はトップ層ではあるのですが、トップ層の門番が完全に板についてしまって、堀口時代ではバンタム級四天王と呼ばれ、石渡、扇久保、憂流迦と轡を並べていました。現在の新上位層は朝倉海、井上直樹などですが、ここには綺麗にフィニッシュされています。ところが、それ以外の下からの突き上げを綺麗に跳ね返しているというのが面倒なところで、元UFCファイターのボントリンにも勝利しています。今後は佐藤将光や中島太一との試合が期待されますが、今回も門番的試合です。

モラレスをボントリンと同レベルだと考えると、重要なのはコンディションですが、モラレスは朝倉海のサポーターとして長期の日本キャンプを行っており、生活面のサポートばばっちりで、しかも同階級のトップファイターと組んでいますから、コンディションが悪いことはなさそうです。そう考えると、では地力はどうなるかを考えることになります。

モラレスは見る限りは殴って倒して極めるという、典型的なトータルファイターです。北米風だとは思いますが、しっかりサブミッションも持っており、油断ができません。基本的にはスタンドで優位を取り、寝技もしっかり上を取ってきそうです。対する元谷もトータルファイターで、寝技のファンタジスタという感じがする一方で、打撃力も高く、岡田遼戦などでは完全に打撃で圧倒していました。レスリング力も高く、穴がない選手と言えます。逆にいえば、どこかに秀でている人には弱く、堀口は当然ですが、レスリングで上回る扇久保、極めで上回る井上、打撃で上回る朝倉に敗れてきたという印象です。

モラレス戦は恐らくトータルな争いになると思いますが、こうなるとかなり予想が難しいです。とてもレベルが高いものが見れると思います。意外と似たようなマッチアップがなく、似てるのは強いて言えばヒロ・ヤマニハ戦かなと思いますが、僕はあの試合はヤマニハが勝つと思っていました。そのことを反省すると、元谷が有利かもしれません。

朝倉海戦の印象が強いですが、元谷はあまり打撃で負けませんし、基本的にかなりガードが高いです。なのでボディ、特に膝が入るとつらいのですが、それを決められるのは朝倉海だけな気がします。そうなるとスタンドが膠着する可能性があり、モラレスは下がりながらボクシングをする癖がありそうなので、元谷が圧をかけていくと不利なポジションにつく流れになります。夜叉坊戦ではモラレスは打撃をヒットさせてからのニンジャ・チョークだったと思いますので、何もないところから井上のようにセットする可能性は低い気がします。そうなると、圧力をかけていく見込みが高い元谷に分があると思います。元谷の判定勝ちを予想します。

第11試合/扇久保博正 vs. ジョン・ドッドソン

本物すぎる試合が来てしまいました……。事実上のフライ級世界王者挑戦者決定戦ですが、扇久保は堀口に完敗している……。

さて、ドッドソンはDJと二回UFCタイトルマッチを行っている本当の本物で、全くパフォーマンスが落ちている雰囲気がありません。こんな試合が日本で見れるのか…。とにかく打撃力がやばく、さらにフィジカルが強すぎて崩そうにも崩せず、レスリングでもふつうの人は勝ち目がなさそうです。扇久保の対戦相手でもっともそれっぽいのは、堀口か、パンタムですがアーチュレッタやキム・スーチョルな気がします。打撃の爆発力は堀口級で、フィジカルだけなら堀口以上だとも思います。

打撃だけで評価するなら朝倉海戦も参考になりますが、万全だった一戦目は打撃でやられて敗北し、朝倉が拳を負傷していた二戦目では、にもかかわらずグラウンドで支配しきれていなかったという印象があります。井上直樹は万全のところで倒していますが、井上は恐らくフィジカルが強いタイプではなく、テクニックで寝技をするタイプです。それでも実質一つ上の相手を倒しているところは素晴らしいのですが、ここが切断線という感じで、フェザーでも闘うことができるアーチュレッタやスーチョルにやられているのはまさにフィジカルという感じがします。準備期間の問題ももちろんあります。

ということで、上の階級の経験を踏まえれば、ドッドソンの打撃に初めての驚きを覚えることはギリギリないと思いますが、わかっていても対処できない可能性が高いです。特に、一回か二回倒せたとして、そこから起き上がられたらお終いという感じがあります。

ドッドソンはどうやって攻略したらいいか。恐らく、レスリングで対抗するのが難しいというのが僕の見立てであり、その意味で扇久保は相性が悪いです。カウンターを取ろうにも、かなりの打撃センスが必要です。一方、寝技で対応しようにも、フィジカルにめちゃくちゃな強さがあり、若手三人衆が立ち上がったとしても、全て打撃で圧倒されてしまうのではないかという恐怖が拭えません。絶対に対抗できるのは堀口で、全領域で勝負できる上に、寝技が堀口の方が優れている。かわりに、堀口は一発でダウンする可能性がある、というシーソーゲームになっています。

ということで、この試合はドッドソンの2RKOを予想します。1Rは、扇久保が死んでも生き残ると信じています。

第12試合/スダリオ剛 vs. 上田幹雄

 元重量力士のスダリオと、極真空手無差別世界王者の上田により、日本人ヘビー級頂上決戦です。これはとても面白いカードです。

 スダリオは後にUFCに行ったジュニア・タファに打撃で押し負けてKOされていますが、その後ロッキー・マルティネスに完勝するなど、前UFCヘビー級王者であるフランシス・ガヌーを思わせる、トータルMMAファイターになりつつあります。

 一方の上田幹雄は極真上がりの打撃力が期待ですが、デビュー戦ではレジェンド高阪剛にカウンターの顔面パンチを食らってフィニッシュされています。これは世界のTKが凄いという話でしかなく、会場で見ていてこのフィニッシュに客席総立ちになった記憶があります。

 しかしその後は打撃で圧倒してシュレックなどをKOしており、また途中参戦したK-1でも圧倒的な打撃力でKOしています。

 打撃速度だけで言えば上田の回転力にはものすごいものがあり、ジュニア・タファに匹敵するか、それ以上のものがあると思います。MMAに適応しているというよりは、MMAを超えた打撃を打ってくるという印象すらあります。一方のスダリオは、テイクダウンを混ぜた攻防ができるところに強みがあり、それをされたら上田はかなり厳しいことになると思います。そうなると体力勝負になってきますが、上田はキックの破壊力に対してパンチは数で攻めているところがあり、長引けば長引くほど不利になっていくと思います。

 とはいえ、そもそもヘビー級の試合は構造的に一発があり、上田もスダリオも一発頭に当たればそれで試合を終わらせることができてしまうでしょう。そうなると全く油断できません。

 また、不安要素といえばスダリオが階級下のドンファンに前戦でいい試合をしてしまった点です。1Rは押していたのに、仕留めきれなかったら疲れてしまって、盛り返されてしまったという点にはかなり体力や精神力のやつれを感じます。とはいえ、上田も短期決戦の試合しかしたことがなく、もつれたら泥仕合になるのは明白でしょう。

 そこで重要なのは戦略ということになりますが、打撃戦に終始すれば有利なのは上田だと思います。というのも上田はコンビネーションで打てるので、最初の二発を交わしたところに三発目が当たるというのは十分に考えられます。一方、スダリオは伸びるジャブが非常に効果的で、これを使いながら間合いをコントロールし、テイクダウンやタックルフェイントを織り交ぜていけば上田はかなり消耗することになります。キャリアが長い方が有利だと一般に言われるのはこういう事情によります。

 本当に戦略がわからないのですが、スダリオにはカーフキックという選択肢もあり、先手を取ってジャブとカーフ、そしてタックルという形で組み立てられると、上田はかなり不利だと思われます。ただ、正直確信が持てないところもあり、打撃は上田が上回っているとも思うのですが、ここまでの論理を前提に考えて、スダリオの判定勝ちを予想します。

第13試合/伊澤星花 vs. 山本美憂

夏に予定されていた試合が負傷延期により大晦日になりました。RIZIN女子格の功労者である、山本美憂の引退試合です。基本的には勝負論はなくて、レスリングが強みである山本が、圧倒的な極めを持つ伊澤にフィニッシュされるだろうということはまあ、目に見えています。伊澤もある程度レスリングができますし、打撃のセンスも高いです。勝つパターンがあるとすればパク・シウの戦略で、打撃で上を取ってレスリングで圧倒し、とにかくパウンドで圧倒する。恐らく女子で彼女より寝技ができる人は世界にもいないので、取れる選択肢はこれしかありません。

そうなるとパウンドの切れ味が重要になっていきますが、人を殴るのがいやでボクシング嫌いだった山本美憂にそれを強いるのも酷というもの。沖縄でのRENA戦も、タックルに膝を合わされてKOとなりました。山本の課題は寝かせたあとの追撃がないところで、伊澤はほとんど天敵といってもいい存在です。1R伊澤の一本勝ちを予想します。

それにしても、今回はこの特別な引退試合をのぞくと女子格の試合がありません。一巡してしまったという事情もありますが、伊澤が強すぎて本当に相手がいないんでしょう。浜崎朱加やRENAといったプレイヤーもいますが、ここは同門で試合を組めないし、RENAは骨折で長期離脱。RIZIN女子戦線は停滞しています。

第14試合/平本蓮 vs. YA-MAN

ここからメインカード。裏メインというか、最注目カードとなった平本蓮とYA-MANの一戦です。

平本蓮は言わずと知れたK-1の申し子で、天才ストライカーです。朝倉兄弟に憧れてMMAに志願したことを今回の記者会見で明かしました。いまでこそK-1からのRIZIN参加は珍しくないですが、その流れを一番始めに作った人物であり、何よりもMMA転向です。MMAファイターに転身してからは、朝倉未来に到達するために悪童キャラへと変貌。めちゃくちゃな毒舌で場を持り上げ、いまや朝倉未来に次ぐ存在感と人気を得るに至りました。一人で興行を成立させることができるのは、朝倉未来か平本蓮だけでしょう。

MMAバウト的にはかなりの苦労人で、初戦はストライカーの萩原に寝技でけちょんけちょんにされ、次は現フェザー級王者であるキック二刀流の鈴木千裕にも寝技でやられました。そのときに放った「負けたけど負けてない」という名台詞は語り草になっています。その後、純キックボクサーの怪物くんこと鈴木博昭を立ち技で圧倒し、さらにまさかの元DEEP王者の弥益ドミネーター聡志を打撃で完封。その圧倒的な成長に業界が震撼しました。そして次の試合ではまさかの飛び級で元王者である斎藤裕との一戦。タックルを中心に組み立てる斎藤に苦戦するも、向上したレスリング能力を見せつけ、時にはバックを取ってパウンドを打つシーンすらも作りましたが、結果は1-2のスプリット負け。朝倉未来戦へは一歩後退となり、レコードも2勝3敗と厳しいものなりましたが、この短期間で斎藤と切り結べるだけの成長を見せたことはむしろ称賛すべきものであり、次の試合が期待されていました。

一方のYA-MANはRISEのキックボクサーでしたが、通常のルールでは鳴かず飛ばずだったところに、OPGキックという新競技が誕生。そこから見るみる頭角を現しました。特に、中村寛との試合は語り草で、実況席で「ヤーマン!ヤーマン!!」と絶叫する那須川天心の様子とともに、彼の存在感を前線に送り込みました。その後はRIZINで人気選手の皇治選手を破るも、キックの方ではランキング一位の白鳥に完敗し、なかなか上に行けない中で、OFGでのタイトルが新設。これで勝利戴冠して一定の実績を獲得するとともに、昨年からはMMAに挑戦。キャリアが少ない中で三浦孝太との試合に望むと、レスリングを制してスタンドの打撃で撲殺。そのストライキングの力を証明しました。MMAファイターとしてはまだまともな実戦経験がない中で、Abemaが産んだ新たなOFGによるキック興行「FIGHT CLUB」の主催となり、朝倉未来の招聘に成功。メインカードで対戦をすると、極端に狭いリングの中で逃げ道を失った朝倉を撲殺に成功。誰もが見たくなかった瞬殺のリンチを実行しました。しかし、勝利の栄光どころか、勝ってしまったことによる批判や、朝倉に注目が集まる一方でYA-MANに全く光が当たらないという不毛を極めた事態に突入。那須川天心からも批判を受け、不自然な興行で朝倉未来を消耗させたことに対する避難を全方位から受けることになり、勝利したにもかかわらず鬱をわずらうまでになってしまいました。

そしてこれに怒り心頭なのが平本蓮で、キックの対戦相手としては格下で眼中になかったにもかかわらず、横入りで朝倉と試合を組み、しかもめちゃくちゃな勝利によってここまでのストーリーや蓄積を粉砕してしまった。キックのキャリアを捨て、朝倉に至るために努力を積み重ねてきた平本にはそれが許せません。朝倉の敗北が決まった瞬間に会場を後にした平本蓮の悲しそうな様子には、膨大なファンが共感をしたことでしょう。

そういうことで平本としては怒り心頭ながら、対戦相手としては全く眼中になかったYA-MANと最終的に組むことになったのは、平本が今回ブラックローズというチームを組んでRIZINに臨んだ事情があるでしょう。噂によると平本にオファーされていたのは世界的な格闘家とのエキシビションだったようですが、それがなくなり、しかし自分の仲間をRIZINに送り込むことで対抗戦的な演出ができることを狙った平本は、その大将戦として自分とYA-MANの試合を位置づけたのだと思います。

この試合にはいくつかの意味があって、まずMMAです。これは、YA-MANが朝倉に「次はMMAで」などと口走ったことへの意趣返しと見えます。朝倉の実績を考えたらありえませんが、キックでKOしたからまるでその権利を獲たかに見えます。しかしそれは、MMAファイターである平本からしたら絶対に許せないことであり、まして自分でやるなんてとんでもないというところでしたでしょうが、いくつかの事情を総合的に判断した結果「よし」となったのだと思います。

次の事情は、YA-MANの興行が「FIGHT CLUB」だったことですが、これは映画「FightClub」を愛し、自分のジムにもこの名前をつけていた平本からしたら絶対にありえないことだったでしょう。Xでも俺たちが真のFightClubだと投稿していました。

朝倉未来の意趣返し、FightClubの奪還、ブラックローズのお披露目……。これらの要素が組み合わさったことによって、この試合は成立したと言えます。

さて注目の試合展開ですが、恐らくはかつての平本萩原戦が参考になるでしょう。TRIBEやJTTで修行をしているとはいえ、YA-MANの寝技が飛躍的に向上することはありえませんから、三年にわたってやっている平本がグラウンドで支配する可能性は十分にあります。特に、実は鈴木千裕戦でも終盤は上を取ってパウンドを打ち込んでおり、上からの攻撃にはかなり安定感を感じます。

また、RIZINのリングは十分に広いので、距離を取ってカウンター待ちをする戦略が十分に可能ですので、平本はアウトボクシングでYA-MANを狙い撃ちにできます。これは白鳥戦にも似たような要素があり、中に入られたらもちろん非常に危険ですが、その際はレスリングの攻防をすることが可能です(三浦孝太もいきなり打撃で圧倒されたわけではない)。そして恐らくレスリングも斎藤戦を見る限り平本の方が上です。

これを考えれば平本が優勢の状況ですが、一発の破壊力はYA-MANにあり、油断したところからたたまれる可能性も十分にあります。ただし、平本はKO負けをしたことがない選手であり、若さからいっても、彼をKOすることは難しいと想定できます。また、レスリングで戦えば、例えば手を壊した鈴木千裕が平本を組みで圧倒したように、キックボクサーを制圧することも全然できないことではありません。

勝負は何が有るかわからないという点では本当に予断を許しませんが、総合的に見て平本蓮の勝利を予想します。ただ、手負いのドミネーターや鈴木博昭を仕留めきれなかったことを踏まえ、判定勝ちとします。

第15試合/クレベル・コイケ vs. 斎藤裕

世が世ならタイトルマッチです。前RIZIN王者同士の、成立しなかった因縁の試合です。斎藤は牛久に王座陥落も挟んで二連敗、さらに少しショートノーティスで朝倉未来と再戦しこれまた完敗し、長い休暇に入りました。その復帰戦で平本蓮をなんとか御し切ります。

一方のクレベルは実質的なフェザー級王者です。鈴木千裕とのタイトルマッチでまさかの体重超過をして王座剥奪されましたが、鈴木を見事にフィニッシュしています。ところがその後の鈴木がパトリシオ・ピットブルとケラモフをKOして王座戴冠するものですから、めちゃくちゃわけのわからないことになっています。一方のクレベルも、その後うまく調整ができない中で金原正徳と対戦し、まさかのグラウンドで圧倒され0-3の完敗をしています。この実績を考えると現在フェザー級の最強は金原の可能性がありますが、トップ層で混迷しているというよりも、超トップ層で混迷しているというのが現在のフェザー級の様子です。

斎藤は先の状況から超トップ層だとわかりにくいので、鈴木・金原のラインをトップ層だとしますと、ケラモフとクレベルはまだそこに食らいついている段階で、元チャンプやタイトル挑戦者の斎藤、牛久、朝倉は、現在はそこから一段階落ちているという状態です。ですが、斎藤がクレベルに勝つことがあれば斎藤は次次回のタイトル挑戦者になる可能性が高いです。そして一方のクレベルも斎藤に勝てば、やはり鈴木金原の勝者と試合をする可能性が高いでしょう。一方、もしクレベルが斎藤に負けたら、おそらくケラモフと試合をする可能性が高く、そこで勝ってもタイトル挑戦者に復帰する可能性が高いです。それくらいクレベルの実績は図抜けています。

で、肝心の試合展開です。斎藤は何もなくても組技で勝負すると思っていましたが、金原の勝利はそれに追い風になるでしょう。金原がクレベル攻略法を発見したという言説が出たあとに、でもそれは金原だからできたことだという言説が上乗せになりました。確かに金原と同じことは斎藤にはできませんが、とても重要なことがあります。それは、あまりにもクレベルが下から三角絞めを決めるものだから、グラウンドになること自体が危険だと思われていたことです。しかし、金原戦を見て学べるのは、クレベルであろうともトップを取られてコントロールされることは望ましいわけではない、ということです。もっとも、トップを取ってコントロールすることの第一人者ともいえる摩嶋一整がクレベルにやられていることを考えると、上を取るだけではダメなんですよね。重要なのは打撃で主導権を握った上でグラウンドに行くということです。他のストライカーは打撃を効かせても詰めきれず気づいたら準備したクレベルの仕掛けにやられていました。けれど金原はボディを打ってからグラウンドの展開にいっていました。斎藤が狙うのも恐らくはこの展開です。落ち着いてから引き込まれたらクレベルの展開ですが、俺はしっかり殴っていくぞ、と思っていると思います。そして斎藤としては、クレベルの打撃ではやられないぞ、と思っていると思います。とはいえ、コーナーに詰められて肘打ちをされると斎藤も厳しいでしょう。

この試合は斎藤が恐らくキャリアの中ではもっとも時間をかけて準備をしてきたもので、一昨年と比べればかなりコンディションがいいと思います。そしてまたATTで準備をしているクレベルもかなり気合を入れて調整をしてきます。コンディションは五分だと思います。そこでどういう試合になるか。やはり有利なのはクレベルだと思いますが、金原戦も踏まえて、斎藤は全ラウンドかけて削ってやる、という覚悟で臨んでくると思います。ストライカーはなんだかんだで打撃でとどめをさすしかなく、クレベル戦の教科書であるガムロ戦はレスリングで圧倒していた面があり参考になりません。が、金原を経由してガムロを見てみると、気持ちが作れる面が出てくると思います。そういえば全く寝技に付き合わずに勝ったパトリシオ・フレイレという男もいましたね……。

正直応援したいのは斎藤です。また立ち上がれるところを見たい。でも、ここまでの予想の流れでは、一発がある方が強いというところがあり、クレベルの寝技はまさに代表的一発です。これを分析するために最近の試合を確認してみたのですが、けっこうわからないことが多いです。

クレベルは結構痛い蹴りを打ってきますが、たぶん痛いだけで耐えられます。斎藤は平本のインローを受けていたので、ちょっとやそっとでは崩れないと思います。問題はスクランブルになったときで、打撃で対抗できないと不利ですが、打撃で斎藤を上回っていた牛久がやられていたのが気になります。ただ、金原も打撃でクレベルを牽制していました。それからクレベルは下になってもいいという考えで首投げによるジュードー・テイクダウンをけっこうしてきます。あれはリスクがあるかわりにほぼグラウンドに持ち込めます。斎藤がそこで恐れなければ勝機があると思います。

それからもっとも重要な技術として、斎藤が金原のやっていたことを一部だけでも再現できるかは大切で、そのうちの一つがトライポッドです。見た目は簡単ですが、トップから頭を地面につけてディフェンスするのですが、あれがあるかないかでかなりクレベルの下からの攻めの成功率が変わってくると思います。恐らく三角よりはチョークの方が解除しやすいです。また、三角にしても何回もトライされるから極まるのであって、朝倉未来も二回は解除していました。極まったのは2Rで肘打ちを食らったからであって、やはり打撃で先手を取るのは必須に思われます。そして打撃で先手を取るためには組みで先手を取る必要がありますが、斎藤は組で先手を取ることはできると思います。

うーん、正直これはどちらが勝つかわかりません。かつて牛久が対戦したときは、牛久のフィジカルならクレベルの寝技を外せるのではないかと思っていました。しかしそれができなかったということは、斎藤のフィジカルがいくら強いとしても、そこまで突出したものではないと思うので(例えばケラモフと比較したらケラモフの方が強そう)、……。応援は斎藤裕ですが、勝敗はクレベルの2R三角絞めとしたいと思います。

第16試合/バンタム級タイトルマッチ フアン・アーチュレッタ vs. 朝倉海

これは朝倉海が勝ちます。アーチュレッタが直線的に振りながらタックルに来るのを後ろに避けながらいなし、何回目かのスタンドで左ジャブからのワンツースリーを当ててアーチュレッタがよろめいたところに、追撃の飛び膝蹴りか右回し蹴りが当たります。朝倉海の1RKOを予想します。何より今回は大晦日のメインイベントじゃないので、朝倉海が勝ちます。

第17試合 /フライ級タイトルマッチ 堀口恭司 vs. 神龍誠

にゃんこ大戦争がスポンサーについたこともあり、堀口恭司の一戦がメインイベントになりました。

堀口恭司は日本MMA界の宝ですので、試合が見れるだけで至福です。さて、試合展開で怖いのはカウンターのパンチが当たって、堀口が自分の威力でやられてしまうことです。マネル・ケイプ戦や朝倉海戦からの反省ですごく気をつけていると思いますが、それでも金太郎に一回ダウンさせられてしまいますから、本当に回避しようとしたら打撃を打たないしかありません。しかし、相手、この場合は神龍ですが、こちらからしたら打撃をかわしながらあてなければならないので、かなり高レベルな打撃スキルが必要です。金太郎はそれだけに全振りしたから実現できましたが、しかし仕留めることはできませんでした。これが出来たのは朝倉海だけであり、だからこそリターンマッチでは堀口は打撃では距離を詰めず遠距離からのカーフキックだけで組み立てるという戦略を取りました。EASY FIGHTとは言われていますしそう見えるかもしれませんが、そんな極端な戦略を堀口に取らせたのは朝倉海だけです。

僕の考えでは、堀口の打撃で神龍がダウンするか、そこを避けてレスリング勝負にきたところで、世界最高のレスリングを味わい、テイクダウンされてしまうと思います。相手が消耗するなら、堀口は打撃で攻めても寝技で攻めてもいいのです。

神龍は実力者ですが、CFFCの対戦相手と堀口では格が違います。全領域で上回られて、打撃でボコボコにされると思います。今のフライ級日本人で堀口に対抗できる人はいないでしょう。扇久保もKOされなかっただけでめちゃくちゃボコボコでした。堀口がリスクを避けた結果、寝技で展開して判定勝ちということはあるかもしれません。しかし、ここは2R、堀口の打撃によるパウンドアウトを予想します。



ということで、まさかの28000字を超える予想を書きました。RIZINを知っている人も知らない人も、何か面白く読んでもらえたら幸いです。

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