土砂降り
「外出れないじゃん!」
そう叫ぶ彼女の開けたカーテンからは、重力を無視したように降る大粒の雨
時折聞こえて来る地鳴りのような音は家からそとへ出る気力を一気にかき消していく。
気力を削ぎ落とされた彼女は、ソファーにうなだれるように腰掛け今日の予定の終わりを憂いていた。
今日の二人の有休は全て自宅で消化されることになりそうだ。
僕はいつも自宅で消化しているけれど。
窓ガラスを眺めては百面相をしていた彼女は諦めがついたのか、本棚を漁り始めた。
一つ手にとってはペラペラと読み、戻しては新しい本を手に取る。
時折僕の顔を覗き込んでは、「できた?」と催促をしてくる。
新しいおもちゃが待ち遠しいのだろう。
雷鳴と雨音にかき消されるキーボードの音がまた新しいイメージを膨らませてくれる。
進んでは戻る文章が少しづつ密度を増して世界を作る。
こんな日は、何か書くに限る。晴耕雨読とはよく言ったものだ。
物語はふとしたことで舞い降りて来るものだ。
さっきまで、じっくりと話をしていたのだが、僕がキーボードを叩き始めて彼女はつまらなくなってきてないだろうか。
さっきまで本棚の前にいたはずの彼女はスケッチブック片手に冷めたコーヒーを啜っている。
早くこれを仕上げて見せてあげなくては。
「できたよ」
新しいおもちゃを手に入れた彼女はどんな顔をするのだろうか?
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