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彼女は時々寝言を言う。
はっきりと、けれど支離滅裂な単語の羅列を寝言で言うのだ。
彼女は夢を見ているのだろうか。
彼女はどんな夢を見ていたのだろうか。
彼女のみていた夢を見てみたい。

朝彼女にふと聞いてみた。
「今日の夢はどんな夢だった?」
彼女は言う。
「今日の夢はいい夢だった」
彼女は続ける。
「私は子供で、迷子になってた」
迷子とはあまりいい夢ではないだろう。
「迷子の時はまるで誰もいない世界に取り残されたようで、私は不安でずっと泣いてた」
「けれど、お巡りさんが見つけてくれて、一生懸命私に話しかけてくれて、帰り道を思い出させてくれた」
「お巡りさんが、道を思い出させてくれると、真っ暗な道に一個づつ街灯がついていくの」
「私はお巡りさんと一緒に灯された道をゆっくりと歩いてた」
「気がつくと私は泣いていなかった」
「街頭が私の道を照らしていって少しずつ色を取り戻していったんだ。その道をお巡りさんと一緒に進んでいくの」
「ゆっくり進んで行った先は自分の家が待っててくれた」
「家に入ると暖かいスープと、あったかいお布団」
「あったかい布団に入るとそのまま寝ちゃったの」

迷子の夢は僕もみたことがある。
世界に取り残された感覚も少しわかる。
でも僕に誰も助けに来てくれなかった。
少し羨ましかった。僕にはお巡りさんはいなかったから。

「でもね、そのお巡りさんお家に着いたらいなくなっちゃって、ちょっと寂しかったんだ」
「私を照らしてくれるお巡りさんだったのに」
「また会いたいなと思ってその夢の中でお布団に入ったんだ」
「でも目が覚めたらすごくいい夢だったって思えたんだ」
「朝、目が覚めたらそのお巡りさん私の横でいびきをかいているんだもの」
「今日はどんなみちを照らしてくれるのかな?お巡りさん」

僕は彼女のみている夢をいつかみてみたい。
まだ始まっていない夢を一緒にみてみたい。

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