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企業とアカデミア~産学連携、それとも水と油?~

こんにちは、イトーです。
過去のNoteにも書いたのですが、ぼくはアカデミア(いわゆる大学や研究機関など公的な性格の強い学術機関)と製薬企業や経営コンサルタントなど産業側の経験の両方をもっています。

アカデミアと企業の目的や働き方の違いについて気になっている方のいるかと思うので、今回はこういった点についてお話していきたいと思います!

アカデミアで研究をするということ

アカデミアでの研究は、一言で言ってしまえば「自由」です。

研究室の教授や研究室全体の研究領域・方針といった部分に一定の縛りはあるものの、研究領域・テーマ、方法、働き方は全て自分一人で考えるスタンスが基本です。なので、これをやりたい!と明確に意志を持っている方にとっては、自分のやりたいことをやりたいようにやれる天国のような世界です。

その一方で、全て自己責任の世界でもあります。
全てを一人で決め実行する必要がありますし、研究を進めるうえでの資金も研究費・補助金・企業からの共同研究費等を獲得する必要があります。裁量労働制で、労務管理もあってないようなものなので、成果を出すために長時間労働が常態化してしまうような状況もあります。

多くの場合は期間雇用で、2-3年で更新の決定がなされるか、次の研究機関へ移動する事になりますので、成果を出し続けなければ職を維持し続けるのは難しいです(実際には、スタッフレベルだと実力なくでも生きていけるのですが。)。完全実力主義なので、プレッシャーに押しつぶされて精神を病んでしまう方も多いです。

また自由とは言いましたが、実際には研究室によって異なります。研究者・スタッフを単なる労働力とみなし、教授のためにひたすら働き続けるような超ブラックなラボも多いです。というのも、自由主義・個人の裁量に任せるという建前のもと、企業のように労務管理やその他のルールもがちがちに管理されているわけでは無かったりするからです。

あと給料は結構良いです。ぼくが知る限りでは、多くのポジションが平均年収を優に超えています。ただ福利厚生は皆無で、退職金も無く、期間雇用なので社会的信用性は低いので、そういったリスクを加味してちょっと給料が多いのでしょう。

まとめると、アカデミアの特徴は、自由と実力主義に集約されると言えます。

アカデミアを離れる決断

ぼくは、アカデミアでの研究者の期間が10年以上ありました。
全て自分の裁量でやれる自由と実力主義の世界は自分に合っていると思っていました。特に研究者の天国といわれる某超有名独立行政法人にいたときは、すごく楽しかったです。

その反面、実力主義の観点から、周囲には非常に優秀な人材がそろっており、彼らと競争していく生活は、無意識に大きなプレッシャーを生んでいたと思います。

結果的に、ぼくはアカデミアから離れる選択を取りました。
周囲の優秀な人を見ていると、自分がこの世界でトップに立てると思えなくなってきていたことに加えて、基礎研究は本当に世の中の役にたっているのか感じにくいという特性から、自分が世界から隔絶されている感情として、徐々に不満としてたまっていました。

一方で、日本のサイエンス業界は、産学連携に大きな課題があると思っていました。アカデミアは企業の研究者を見下し、企業との共同研究もお金ありきの関係になってしまっている側面も大きいです。

このようなことから、産学の関係性はギクシャクとしたものとなり、基礎研究を産業化につなげるプロセスも非常に非効率です(今は、少しずつ改善されてきているようには思います)。

本来は、基礎研究が産業化することで市場を広げ、活性化し、収益を生み出すことで、それが基礎研究に還元され、さらに研究が進むエコシステムが理想です。この適正なプロセスが、日本ではうまく働いていない

ぼくはこの課題に対して少しでも貢献していきたいと考え、アカデミアから離れ企業へと転職しました。

アカデミアから企業へ移動してどうなった?

日本のアカデミアに蔓延している「企業への就職は逃げだ」、「企業の研究レベルは低い」という先入観にぼくも毒されていたので、転職はかなり勇気のいる事でした。

でも、結果的にその考えは、結局先入観でしか無くて、研究レベルも高く、裁量ももって研究を進めることができました。また研究資金も豊富で、むしろアカデミアよりも研究を進める環境は整っていましたし、プロセスが確立されており、人材採用も選考が厳格な為、人材の質も高いうえに、チームで事に当たれるので研究は効率的で高速です。

きちんとインセンティブも設計されているので、頑張れば、それがボーナスという形できちんと還元されるのも、モチベーション管理の点で非常に良いです。

ただし、ある程度「企業の戦略や事業領域が定まっている事」、「社会に(ある程度の時間軸で)還元されることが必定である事」から、研究テーマの選定が完全に自由というわけでは無いですが、これはアカデミアの研究者でも同じことです。

結局アカデミアと企業どっちが良いの?

ぼくは、結果的に産業側へ移って良かったです。
成果を生み出すという観点において、アカデミアは企業の生産性にかないません。

アカデミアの場合は、個人の裁量と完全実力主義の世界なので、一人の優秀な研究者がいれば圧倒的成果を出すことができますが、そうでない人にとっては生きずらい世界です。その為、質に大きなばらつきが出ます。

一方で企業は組織・チームで一つの目的・目標に向かって突き進みます。人材も採用の部分で厳選されているので、成果の質が一定担保されています。この役割分担によって、マネージャーや経営者立てた戦略や計画を確実に実行可能な体制が構築されています。福利厚生、社会的信用度という観点からも、心理的安全性が保たれています。

したがって、教科書にのったり、ノーベル賞を取って、研究者として研究で大きな名を残したければアカデミア製品やサービスという形で、即社会に研究が還元される形を望むのであれば、企業くらいの違いしかありません。

また研究者の場合は、いくら優秀な研究者であっても、個人主義に基づき一生のうち残せる成果に限度はあります。一方で、企業の場合はチームを動かして、一人でやるよりも、より多くの成果を残すことができるのではないかと思います。

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以上、アカデミアと企業の違いをお話してきましたが、これはあくまで個人的な見解でしかありません。どちらを選ぶかは、正直個人の好みが大きいとは思います。

この話はPodcastでも配信しています。次回は3/28月 配信予定です!
https://t.co/3g5U7ZxdFJ?amp=1

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