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1/31 元製薬企業研究者による再生医療講座~③再生医療が実現すると医療プロセスはどうなるの?~

こんにちは、イトーです。
またまた再生医療講座シリーズです。今回は、再生医療という新しい医療が出てくると、お薬や手術みたいな従来の方法を含めた医療全体が、どのように変わっていくのか?ということを、予測含めてご説明していきたいと思います。

既存の医療と再生医療の位置づけ

現在の医療は、主に手術、医療機器、医薬品、指導の4つの方法に分けられます。そして、主に以下のようなアウトプットを生み出すものとして使い分けられていると理解できます。

1. 手術
 悪さをしている部分を取り除いたり、本来離れているものを繋げたり、新しく造形したりして、身体の正常な機能をさまたげている病気の原因をとりのぞく、または身体の機能を少しでも正常な状態に近づける

2. 医療機器
 身体の機能を模倣するような機械やデバイスによって、身体の機能を補完し、正常な生命活動の維持を助ける。

3. 医薬品
 大きな侵襲(体を切ったり張ったりすること)なしに、病気の原因を取り除いたり、悪さをしている原因を抑制する。

4. 指導
 直接的な病気への介入なしに、患者の行動等を適正化することで、病気の原因となっている環境的要因を改善する。

そして、これらは1→4に行くにしたがって、介入度合いが強→弱という性質を持っていますので、介入度の弱い方法で治療できるなら、体の負担が減るのでそれに越したことはないです。なので、みなさん基本的に医療を受ける際は、「問診・検診を受ける」→「薬を処方してもらう」→それでも改善されないような重大な疾患やケガである場合は、「医療機器を使用する」か、「手術を選択する」、という順番でプロセスを進めていくことになります。

そして、勘の良い方はもうお察しだと思いますが、上にあげた4つはいずれも、病気の進行を止められるけれども、失われた体の機能を回復させることはできません(医療機器による臓器代替(人工臓器や義足など)は、あくまで代わりであって、再生ではない。)。

その為、病気やけがによって失われた身体の一部や機能を再び取り戻すことができる医療技術が切望されており、その答えの一つが本シリーズのテーマである再生医療なのです。

医療そのものの変化の方向性

さて、ここで再生医療から少し離れて、医療そのものがどのように変化していくかを考えてみましょう。

医療と聞くとみなさん思い浮かぶのは、上記トピックで書いたような、手術、医療機器、医薬品等だと思います。しかし、これらの医療手段で現在、主に実現できているのは "治療" 用途に限られます。

医療は、治療だけではありません。人々の健康を守る・調整する・取り戻すためのあらゆる手段を含んだ包括的な概念です。その為、医療を語る際には、医療プロセス単位でみていく必要があり、治療はあくまでそれらのプロセスのうちの一つにすぎません。

医療が必要となる時系列順に並べれば、ざつくりと以下のようにプロセスを分類する事ができます。

【予防】
最近、特に注目が高まっているプロセスです。いわゆる未病の分野で、病気になる前に、病気のもとを退治したり、そもそも体の機能が落ちないように運動や食事を見直し、体の調子を整え、健康であり続けるという医療の方向性です。
実現する方法としては、「指導による行動変容」が基本的な対応方法となりますが、そもそも予防医療が実現すれば病気にならない、体が悪くならない、ということがアウトプットになりますので、効果を実感しにくく、結果として予防的な行動が続かない事が、この医療の最大の課題でしょう。

【治療】
これはもうすでに述べました。病気の進行を止めたり、悪い個所を取り除いたりすることで、正常な状態に近づけることを目指す医療のことを、治療と呼びます。過去も現在も、医療の主流な方法であり続けています。

【予後・管理】
予防に似たような概念ですが、予防は病気になる前の未病段階で行う必要がある医療ですが、一方で、治療を受けた後に、再発しないように、病気になる前よりも低下した機能等を補い生活の質を上げるために行う医療のことを、予後・管理と分類します。
こちらも主には指導による行動変容が主な手段となりますが、加えて、生活の質を維持するためのバリアフリー住居や介護士の介入などが考えられます。いわゆるリハビリもこちらの分類かと思います。

さて、この項のメイントピックは医療の将来のあり方でした。では、今後医療はどのような方向性へ進展していくかというと、医療の提供プロセスと手段の選択肢が拡大していくといえます。

つまり、これまで医療機関や製薬会社が提供してきた医療のメインは、"治療" でした。それは、治療以外にアプローチする手段や評価の方法がなかったからです。

しかし、治療アプリや指導を組み合わせた保険など、提供可能な医療の幅が広がっており、医薬品の研究開発などの技術的な進展もあいまり、医療価値を届ける手段が、かつてより格段に広がりつつあります。

また医療の主役の一つである医薬品を提供してきた製薬会社は、これまで "治療" 目的に集中して開発を行ってきたために、競争過多におちいりつつあること、治療用医薬品の研究開発の難易度があがっていることを背景に、その収益性を落としていっています。

その為、新たな事業の方向性として、価値提供を治療以外の医療プロセスへ拡張していこうとしているのが、現在の医薬品に限らない医療関連業界のトレンドとなっているのが現状です。

すでに各医療プロセスの項目でご紹介したように、それぞれ医療提供の手段も、効果も、その評価の方法も大きく異なります。このように医療提供可能なプロセスが拡大していくと、従来のように病院へ行って、診察して、薬を受けとり、場合によっては手術する、というスタンダードな医療の提供体制は大きく様変わりしていくはずです。

もしかしたら、予防医療が完全に確立して、手術や薬が必要なくなる世界が来るかもしれません。しかし、その可能性は低いと思います。予防、治療、予後、それぞれで実現可能な病気、得意なことが異なりますので、これら3つが重層的に組み合わされて、それぞれの機能が最大化される領域に対して、個別最適な医療が提供されていくことになるでしょう。

つまり、将来の医療においては、それぞれの疾患に対して適した技術が定義され、組み合わされてソリューションが構築されていくことになりますので、医療の対象となるライフサイクルの範囲は広がり、医療技術の数も増加していきます。これによって、医療の選択肢が広がり、患者はニーズに従い自身が受けるべき/受けたい医療を選択していくことができます。

ですので、今はどちらかというと医療機関や製薬企業が、市場では優位で医療技術を提供していく立場ですが、将来的には医療における選択主体は患者本位となり、買い手の圧力が高まることで、おのずと医療コストの低減と医療技術の向上に対する競争が激しくなっていくことでしょう。

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さて、今回は再生医療シリーズではありますが、より広い将来の医療について推定してきました。本当にこのような世界が成立するかは、時間をおいて観察していく必要がありますが、現在のトレンドの延長においては、成立の蓋然性は高いのではないかと思います。

こちらのお話はもっとゆるい感じで、Podcastでも発信しています。次回アップロードは1/31月です!
https://t.co/3g5U7ZxdFJ?amp=1


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