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古い木枠の天文スライド|写真×エッセイ

教室に広がるガラスの宇宙

1900年、イギリスの田舎町にある小さな学校で、科学教師は天文スライドを箱から取り出した。
職人が手で、硝子に星や彗星の絵を描き、木枠にはめたものだ。
少年たちは暗い教室の中で、幻燈機から発せられる光に頬を輝かせながら、壁に現れた十二星座を見つめる。
痩身の科学教師は淡々と教科書を読み上げる。”Aries, Taurus, Gemini, Cancer, Leo, Virgo…”

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120年後の今、天文スライドは私の部屋にある。
古いものには、造形の魅力とは別に、強く心惹かれる要素がある。
ただ、とても刹那的で朧げなので言葉で言い表すことが難しく、そのものを探し当てるのに苦労している。
一つはっきりしていることは、そのおかげで、忙しかろうが他の何かを考えていようが、この天文スライドを目にした途端に、心がしんと静まるということだ。

もしかしたら、気付かないほどに微かな過去との出会いの感覚なのかもしれない。もしくは、宇宙と星への憧れが変化したものかもしれない。それはとても小さな電磁波で、触れたのか気のせいなのか迷うほどの、微少な感覚だけれど。
その感覚は、ふうと肺の奥からため息を吐かせ、しばらくの間無心にさせてくれる。

他にも、アルコオルランプ、フラスコ、天秤、鉱物標本、天体図、薬瓶・・・。
科学準備室に並んでいるものばかりなのだなあ。
結局私は文学と芸術的視点から見た、宇宙物理と、天文学と、科学と、鉱物が好きなのだ。それらにひたすら憧れとトキメキを感じるのだ。
銀河鉄道の夜症候群。稲垣足穂の理屈くさい空想宇宙論。長野まゆみの煌めく星と磨り硝子の向こう側の曖昧な風景。

私たちは古い木枠の天文スライドに、星祭りの夜を見ている。

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幻燈機とガラススライド

幻燈機(幻灯機 Magic lantern)は、18世紀ごろに流行った映写機で、ガラスに描かれた絵を光で投射するもの。

私が手に入れたのは、イギリスの会社Franklin&Co(Manchester)作 1800年後半〜1900年初頭にイギリスの学校で教材として使用されていたと思われる「ガラスの天文スライド」。

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地球の公転、十二星座、彗星、よくわからない彗星の軌道のイラストが、29〜32までナンバリングされている。どんな授業の内容なのかさっぱり検討がつかない。

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(映写機で映し出すので、鏡文字になっている。)

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(手描きのイラスト。とてもかわいい。)

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(絵は、ガラス用絵の具と削りで描いてある。)

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(これは何を表現しているのか?白い転々は色褪せではなく埃。)

幻灯機用のガラススライド(Glass Magic lantern slid)の存在を初めて知ったのは、この天文スライドを購入した「ホウキボシ商會」。月や彗星が描かれたガラススライドに一瞬で心を奪われ、しかしすでに売り切れだったので一年ほど待ってようやくこの天文スライドを手に入れることができた。

幻灯機のガラススライドがたくさん掲載されたオランダのサイトを見つけた→ de luikerwaal
このようなサイトを見ると、動くスライドがたくさんあって、18世紀ごろのいかがわしい雰囲気を垣間見れて楽しい。 

次回の「写真×エッセイ」

雑貨、アートのエッセイや書評を毎週日、水に投稿します。

次回は七夕と文学がテーマ。

ではまた。

2021年7月4日 雨星立夏 あまほしりっか




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