2001年宇宙の旅 感想・現代っ子向け解説

今更ながら1968年公開の映画、2001年宇宙の旅を観た。若輩ながら良かったところと悪かったところを上げたあとに好き勝手感想を述べて、「現代っ子向けの解説」というものをしてみようと思う。後年の様々な作品に大きな影響を与えているということの例を出してみる。
もう半世紀も前の作品だが、無料部分では重要なネタバレはしない。

良し・悪し

公開当時に観た方はこの章を読んでいろいろ突っ込みたくなると思うが、どうか次の感想の章までは辛抱してほしい。

まずは良かったところから。

圧倒的な映像美

初めの変に長い暗闇パートを耐え抜いてみてほしい。なんだかんだ暇だとすぐにスマホをいじってしまう癖を抑えて。
月と地球の向こうから顔を出す太陽の描写に声が出る。正直、現代におけるどんなCGによるデジタルアートも、この特撮フィルムの足元にも及ばない。こんな美しい風景が全編にわたって繰り広げられている。
この映画を観るまで、あらゆる特撮映像はCGが取って代わることができると思っていた。

未来の示唆に富みすぎている

・AIに人間がチェスで負けた
木星までのミッションをともにする、HALというAIが登場する。HALが持っているディスプレイを使ってボーマン船長がHALとチェスで遊び、HALに詰みを指摘される。
コンピュータにチェスで負ける展開はすでに現代人は現実で経験しているので、今このシーンを目にしても感動はない。しかしこれがすごいのは、AIにチェスで負けるという事実が生まれる前にこのシーンを作ったということだけではない。このシーンで行われたのがチェスという完全情報ゲームだったことだ。ある局面からどのような手が出されるかを全て論理で導けるので、コンピュータの得意分野なのだが、集積回路が世界で初めて開発されてから10年ばかりの時代に、まずゲームにおいて人間がコンピュータに負けるであろうジャンルは完全情報ゲームだということを思いつき、この短いカットで見せてしまった。
まだこの時代でいうコンピュータは、ただの計算器の域を逸していない。コンピュータにまつわる思想や哲学は半導体製造技術の発展に沿って進められるののだが、この時代に、現代と変わらないコンピュータの利用方法が描かれていた。
HALがチェスを現在用いられるアルゴリズムで行ったのか、それともニューロンの再現により行ったのかは描写されていない。

・AIを人格としてもシステムとしても扱う
木星行きの船の船長はとりあえずHALのことを六人目のクルーと表現した。一方で、HALが疲れを知らないと思って、船全体のシステム管理をHALに一任している。人として扱っておきながら、単なる船の制御システムの一部として酷使もする。「我々同様に喋れるので同じ人間だと考えています」としているが、直後のインタビュアーによる「HALには本物の感情がありますか?」との問いには「話しやすいように設計されている」「誰にも真実はわかりません」とする。
この言葉に矛盾はない。「考えています」との言葉が表しているのは、「誰にも真実はわからないので、同じ人間として過不足ない振る舞いを見せるならば、実際に感情があるかどうかに関わらず、感情があると考えて接したほうがうまくいく」ということだ。

描写が正確

衛星は円柱状で、それを回転させることで重力を再現している。そうでないところでは地面となるところに向かって加速度が発生しないので、底がマジックテープのようになっているソールで地面と足をくっつけてぺたぺた歩いていく。撮影自体はばっちり重力のあるところで行っているが、重力がないと想定してぺたぺた歩くその演技がとてつもなくリアルで、滑稽で面白かった。

木星へ向かう途中などで機体がスラスターを起動していないのもいい。重力の強いところを飛んでいるわけではないので、加速度を変更するとき以外は推進機構を使わなくていいはずだが、それを正確に描いている映画は思ったほど多くない。

衛星からのビデオ通話では遅延を感じず円滑に会話できるのに対し、木星への航行中のインタビューでは7分の遅延があることもよい。

(無重力下で万年筆って使えるのだろうか…?)

悪かったところ

""無駄に""長い

タイトルが出る前に3分間、拍のない音楽が暗闇で流れ続ける。できた宇宙が冷えて太陽系が完成するまでの時間を表しているものと解釈している。それはじっとしていられない」「すぐにスマホを触ってしまう」「忙しい」現代の若者ながら、じっと観(聴い)ていられた。
それは自分の中で解釈ができたからだ。解釈があれば、どうしてこのシーンが必要なのかがわかる。納得して鑑賞できる。
しかし宇宙パートではかなり冗長な部分が、あまりに多い。1分飛ばしても意味が全てわかってしまうくらい表現の空白が大きい。余裕で寝られる。
木星に到着する頃には疲れ切っている。冷凍睡眠せずHALと航行に付き合った二人のクルーの疲れを疑似体験できる。

感想

昔と今で感じるものが大きく違う映画だと思う。当時観たらその美しさに気圧されて最後まで満足だっただろう。現代人としては、これ以降の様々な作品(映画、小説、ゲームなど多岐にわたる)によるオマージュの数々に気づいて、とても楽しかった。(最悪の例えになるが、真夏の夜の淫夢を観て、出演俳優に対してこいつ語録ばっかり喋ってんなと思うようなものだ。)
未来予想については多くのことを的中させていて、心底驚いた。実際の2001年と比べてどうかということは意味がない。だいたいでいい。2001年というのは、人類史の1000年の区切りから更に一歩先という意味で使われている年だからだ。

ここからは課金ゾーンとする。ネタバレありの感想・詳解と、この映画の表現をオマージュした後世の作品についての解説を行う。
本当は全文を無料公開して、オマージュを発見する楽しさをみんなと分かち合いたいのだが、作品紹介・解説の記事を有料マガジンにすると決めてしまった。
実は音声での解説ならツイキャスでどんどん無料公開しているので、音声でよければぜひ聴いていってほしい。
ただ、音声よりも文字で読んだほうが(もっと言えば電子でなく本として読んだほうが)、より記憶に残り、深く理解できる人が多いという。ここまで読んでくれた人ならばこの現代で文章にそこそこの適応がある貴重な人間ということになると思うので、できれば文章で読んでほしい。

この記事はマガジン「ファスト教養講座」のひとつです。詳細はリンク先に書いています。

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