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染みついた瘦身願望と果てのない過食

最近メイクを落とせないし、歯を磨けないし、風呂に入れない。この3コンボを外出して帰宅するたび繰り返して、今も絶賛ビンゴ中。歯医者に行かなくなって10か月くらい経った。ウルフカットのレイヤーが伸びて崩れているから早く美容院に行きたいが、担当さんに「次来るときは就活終えてブリーチですね!」みたいなことを言ってしまったため行けない。全然就活は終わってない。髪を染めたいしピアスを開けたいし痩せたいし服が欲しい。

4月の始めは食べ物嫌悪フェーズに入っていたおかげで痩せた。小説を書いていて過去をなぞっていたからか抑うつ傾向が強まった。鬱になると食の優先順位が下がる。空腹の感覚が消えて、丸一日食べなくて吐き気を催してから気づくようになる。「そういえば今日は何も食べてなかった」が頻発する。今になるとありえなさ過ぎて羨ましい。

「お腹が空かないときは食べない」がモットーなので、外出前だろうが12時だろうが夜だろうが、食べなくてよさそうなら食べない。私の崩壊した生活リズムに慣れている家族は、夕食の時間に食卓にいなくても何も言わない。そうして1日1~2食で作られたのが今の私の体なので、1日3食食べると必然的に太る(絶望)
健康的な生活を送ると太る。太ると病む。鬱になると体型で悩まなくて済むという皮肉。中学で鬱になって自然と食べなくなってそのままだから、痩身が馴染みすぎて太ることへの嫌悪感が強い。ウエストは横から掴めるのが普通だし、仲良しで集まって自分が一番細いことは当たり前だ。たぶん無意識にアイデンティティ化されていて、そうじゃなくなると猛烈に焦る。同年代とすれ違って自分より細いと、劣等感というか自尊心が傷ついてその子を直視できない。店の前を通るたびショーウィンドウを見て、反射して映る自分の足の細さを確認する。「え、そんな太ってないよね?」と「もっと痩せなきゃな」と思う。

1週間ちょっと1日1~2食で過ごして、ちょうどブッキングした健康診断は高校時代と同じ体重をマークした。運動なんか何もしてないし、基本出るものが出きって腹が凹むだけだけど、きもち足が細くなった気がする。久々に安心して足を晒して出歩いた。「痩せた~~??」と言われて嬉しかった。
高校時代の友達と飲む約束をして、ミニスカにニーハイを履いて行った。そこでも「相変わらずほっそいね~~」と言われた。予約された店はチーズフォンデュの飲み食べ放題で、提案された瞬間から嫌だった。だってチーズフォンデュなんかバカ高カロリーで絶対太る。匂いとかそれが体に入っていく感覚とか、想像するだけで身の毛がよだつが、友達には会いたかったから酒だけ飲んでればいいやと思ってオッケーした。

バイト終わりで向かう予定のそのシフトで、レジ誤差を出してその尻ぬぐいに時間を食われた。店長からのガン詰めLINEに、帰宅後もう一度店に戻るというアクシデントまで起きて、解放された頃には集合時間だった。ミスへの罪悪感と店長への殺意と大遅刻確定と今から行っても払い損、の四重苦にだいぶ生気を失いながら向かう。そして店は”駅から徒歩5分”のはずが使った路線の改札からだとめっちゃ遠いことが発覚し、その後も開発途中でいたるところが封鎖されている迷路みたいな駅周辺に四苦八苦して、結局半ギレ&半泣きになりながら電話をかけて、もう飲み食いしている友達を店の外まで迎えに来させるという最悪な自己中を発揮した。しかも席に着いて開口一番、謝罪でも感謝でもなくて「死にたい」だった。おわってた。

サワーを頼んで、一口チーズフォンデュを食べて、その後は分かりやすく酒にあたった。割物の酒の配分が濃すぎて、めっちゃ不味いけどやけくそに飲んだ。食べ放題のこともあって、何も食べて行かなかった。2杯目のサワーでギアが入って、半分手をつけられた残りの料理を端から平らげていった。シーザーサラダ、マヨネーズとケチャップのかかったポテトフライ、サーモンのカルパッチョ、ローストビーフ、マカロニのトマト煮、etc. 残っていたものは全部食べた。
酒が入ると食欲がバグるのは分かっていたけれど、もう自暴自棄だった。結局チーズフォンデュをおかわりして、酒はサワーを4杯とサングリアを4杯飲んだ。あの店は割物と酒の配分が逆だったと思う。外国人しか店員のいない店はだいたい酒が濃い(ド偏見)

過去一酔った。絶対に駅まで歩けないし、座ってる体勢もキツイ気がした。酔いすぎて快不快すら曖昧で、ただ漠然と絶不調で、酒を飲んだことから始まって生まれてきたことまで後悔した。死にたいというより塵になって消えたかった。
お冷のピッチャーを3杯おかわりして、ラッシーを飲んでも全然気持ち悪い。そのうち水分で腹が膨れて重くて、それに気持ち悪くなり始める始末。吐くと毎回胃の内容物が鼻まで上ってきて激痛で、胃液でえずくまで止められないから、嘔吐が怖くてここ数年吐いてなかった。でももう耐えられないくらい気持ち悪くて、友達に吐き方を聞くと「喉に指突っ込んだら酔ってると自然に出る」と言うので、酔った思考力の低下も手伝ってフラフラとトイレに向かった。

便器に両手をついてしゃがむ。流石に思考が鈍っていても肝は冷えたが、もうこの吐き気から救われたいの一心で、そのまま人差し指を咥内へ入れた。下の付け根をぐっと押さなきゃかなとか、のどちんこに触るくらい奥まで突っ込まなきゃかなとか思うとひよって、やっぱ無理で指を抜いた。やっぱり吐けない自分の根性のなさにため息をつき、この吐き気と酔いを引きずったまま帰るのか、と呆然と便器を覗いていると、”胃がむかむか”してくる。よく吐ける人の言うあれか?と思っていると、吐き気が倍増して波が襲ってくるみたいに胃からせり上がってくる気がした。その波に乗るサーファーのように息を合わせて口を開くと、マーライオンのようにとめどなく口から吐瀉物が流れ出た。一度の呼気で第一フェーズが終わり、一度息を吸うともう一度息を吐くのと同時に吐いた。そうして吐き切るとスンと真顔になった。飛び散りもせず口も汚れなかった。酸っぱい臭いと、恐らくポテトフライの上にかかっていたパセリだろう、緑の欠片が浮いていたことは覚えている。トイレを流して、洗面所で口をゆすいで、席に戻って「吐けたわ」と伝えた。

この一連の行為をもう一度やったら、だいぶ酔いが収まった。酔っぱらっている友人たちと腕を組んで店を出た。「もう帰りたくないわ。家行っていい?」と言って、皆で一番近い子の家に転がり込んだ。それまでの帰路でドンキで水とチャミスル、コンビニでおにぎりとカップ麵を買った。懲りずに飲んで食って、家主が風呂に入っている間に残りの子ともう一度コンビニへ行った。歯ブラシとジュースとおにぎりを買った。結局チャミスル1本、ジュース1本、おにぎり3つ、カップ麺1個、諸々のお菓子を食べた。
化粧だけ落として部屋着を借りて床で寝た。酔いが醒めたのか夜が更けたのか、寒すぎて眠れなかった。ずっとオフラインにダウンロードしておいたアイドルのステージを見続けて、朝方になって眠った。「もう出勤なんだけど」と家主に揺さぶられて起きた。吐いたせいなのか何故か、翌朝の方が喉がガラガラだったし食道がヒリヒリした。
すっぴんにめかし込んだ服、という明らかに朝帰りの格好で通勤ラッシュの電車に乗った。途中コンビニで抹茶ブラウニーを買った。突き刺さる朝日が痛かった。家に着いて服を着替えて、ブラウニーとイチゴとカップ麺を食べた。それが先週。その日から胃袋が戻らなくて過食が止まらない。

今日も食べ過ぎた。朝一に妹のバレンタインの余りのチョコレートとパイシートでチョコパイを作って6個食べた。イチゴも食べた。一昨日の夕食のカレーも食べて、昨日の夕食の豚肉の炒め物も食べた。ごま油風味のチーズを5個食べて、今冷凍のパスタとスーパーのお弁当を食べている。おしまい。

これを書いていて気付いたけど、自分がいつ何をどれくらい食べたか明確に覚えているんだよね。食べないことに執着しすぎて、減点法みたいに食事を記憶しているんだとしたら、怖いね。

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