悠々閑々たる実家からの帰洛

年始から程なくした1月4日。
世間はもうすっかり平日ムード。
私も明日、下宿先の京都に帰る。

私は京都での一人暮らしを気に入っていた。
友人と夜遅くまで鴨川で飲んでも、家のコピー機を壊しそうになっても、誰にも何も言われない。そんな自由が許され、自分のやりたいことをたくさんやれる環境が好きだった。

だけど、好きだったはずの京都に帰る前日の夜、私の顔に違和感が生じた。

ぶくぶくと複数箇所に蚊に刺されたような膨らみが生じる。そしてとても痒い。

ここ数年でよく生じた、ストレス性の湿疹だった。

『ああ、私今めっちゃストレス感じてる。』

思い返してみれば、この頃下宿先では何かと忙しく、休む暇などなかった。特に、これから始まる就活への不安が、鉛のように重たく私の心に居座り続けていた。

時々刻々と変わる内の思いを必死にパソコンに打ち込んでみたり、特に興味のない企業からのオファーを引き受けてみたり。

受験前に遊ぶと罪悪感を覚えるのと同様に、実家に帰るまでは寛ぐのに抵抗があった。

だが実家に帰ると、そんな抵抗感が嘘のように消えていって、お正月は本当に何もしなかった。

いや、やろうと思ったが、昼にぐうたらぬくぬくと幸せそうに寝ている両親の顔を見て、やる気が失せたのだ。

何を焦っているのだろう、と自分がバカバカしくなった。

そして私もぐうたらしはじめた。東野圭吾の『秘密』を読み、少し感動した。父と一緒にお笑いを見て、同じタイミングで笑いあった。兄や親戚の叔父に初めて麻雀を挑み、惨敗しながらも、最後にツモで勝利する喜ばしさを味わった。

本当に楽しく、ゆったりとした日々だった。
これから、パソコンと毎日睨めっこをしあうばかりの日々に戻ることを考えると、かなりストレスなのかもしれない。

ゆったりとした時間を共有できるパートナーが欲しいと、心底思った。だがそんなことの出来る余裕はない。

とりあえず今は、最後の実家の穏やかな時の流れをただら噛み締めていよう。

これから始まる、孤独な戦いに向けて。









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