無謀な海外一人旅その3

トラブルによる運命の出会いを果たした数週間後、私は再び韓国を訪れていた。

これまでの失敗を踏まえ今回の旅は順調に進・・まないのが私である。

予約をした宿が駅から目と鼻の先だった為、迷うはずもないだろうと地図を印刷しなかったのだ。性懲りもなく。超がつく程方向音痴な私は迷いに迷い、やっと宿に辿り着いた頃には、観劇予定のミュージカルに間に合うかギリギリの時間になってしまった。宿から会場までの道のりもまた迷い、またもや旅の出足で躓く。

しかし、今回の旅が今までと違ったのは、友達が一緒だという事。ネットを通じて仲良くなったファンの子と宿で合流し、行動を共にする。友達が一緒だという事は、こんなにも心強いのだなぁと会場に駆け足で向かう中で感じていた。

なんとか開演に間に合い、無事にミュージカルを鑑賞する事ができた。終演後には演者の方達と写真を撮って頂いたり、他のファンの子と合流し打ち上げを楽しんだりした。

行きたかったお店や場所にも行く事ができて、今回の旅は自分比で、だいぶ順調だなぁ等と思っていた。

だが、これですんなり終わるはずもなく。

この後、血の気が引くような出来事が待っていようとは・・

私は友達と別れ、空港へ向かおうとしていた。搭乗する便が予定よりかなり遅延する事になったのだが、「早めに行くに越したことは無いな」と珍しく早めに動いた。この判断が後に自分をギリギリの所で救う事になる。

空港行きのバス乗り場に到着すると、そこにはすぐにも出発しそうなバスが停まっていた。「空港行きのバスはこんな外観だったっけ?」と少し違和感を感じたのだが、「乗るのかい?」と運転手がドアを開けてくれたので、私はすぐさま飛び乗った。

乗車すると、中は今迄の空港行きのバスとは違い、こじんまりとしていて、市バスのような造りだった。「空港行きのバスにもこういうタイプがあるのかな」と自分を納得させ、しばらくバスに揺られていた。

バスは頻繁に停車し、その度に地元の学生や御老人達が乗り降りする。「空港行きのバスってこんなにバス停に停まったっけ?地元の人達しか乗っていないような・・」

違和感が段々不安へと変わっていく。

何度か乗客に尋ねようかと思ったが、立ち憚る言葉の壁とコミュ障から、窓の外を眺めている事しかできなかった。こういう時は〈コミュ障の強い味方!ネットで検索だ!〉と思い立つも、携帯の充電が残りわずか。更にモバイルバッテリーの充電も底をつきそうな気配。

実は、わりと早い段階でこのバスは空港行きのバスでは無いのかもしれないな、と感じていた。だが、上記のような理由から、違和感には目を瞑り見ないふりをしていた。

〈この小さな違和感は気のせいで、市バスだったとしても遠回りしながら空港に向かっているはず〉

と、偽りの希望で不安を抑えこんでいた。だが何より、途中下車してしまったらそこが何処かもわからないし、空港への戻り方もわからない。読めない看板だらけの異国の地で、充電の切れそうな携帯を持って彷徨うなんて恐怖でしかなかったからだ。

そうこうしているうちに、バスは街中を離れどんどん山手の方へ向かっていた。乗客も一人、二人、と降りて行き、車内には私を含め数人しかいない状態に。迫りくる山々、減っていく乗客。もう不安と恐怖しかなかった。

私以外の乗客が全て降りた時、私の不安は爆発した。

運転中にも関わらず席を立ち、運転手に「仁川エアポート?」と尋ねた。空港に行きたいという意思は伝わったようだが、運転手が何を言っているのか全くわからない。泣きそうになりながら必死に「仁川エアポート」と繰り返すだけの私に、とりあえず座りなさいというようなジェスチャーをする運転手。

とりあえず席に着き震えていると、多数のバスが停車している場所に着いた。そこはバスの倉庫のようだった。もう終点だったのだ。

運転手は、私を別のバスの運転手に預け、何か話していた。イルボン(日本人)という単語だけ聴きとる事が出来た。多分、「日本人の子がバスを乗り間違えたようだからそっちのバスに乗せてやってくれ」というような事を言ってくれたのだろう。

私はお礼を言い、逆方向に戻るであろうバスに乗せてもらった。この時ほど韓国の人の優しさが身に染みた時は無かった。

今通ってきた道を戻っていくバス。なんとか戻れる、と安堵したが、搭乗時間は刻一刻と迫っていた。1時間半もバスに乗っていたので、戻るにも同じ時間がかかる。空港行きのバスが丁度良く来ているとは限らないので、間に合うか本当に賭けだった。

祈りながら自己嫌悪していたが、天は私に味方してくれたようだった。初めのバス停にようやく戻れた時に丁度空港行きのバスが停まっていたのだ!お礼を言ってバスを降り、空港行きのバスに飛び乗った。

本来乗るはずだったバスにようやく乗る事が出来、後は時間との闘い。空港に到着し、航空会社のカウンターに駆け込んだのはなんと搭乗締切5分前だった。

間に合った!!

一気に緊張の糸が切れ、安堵する私。

私の人生いつもこんなかんじだな・・

飛行機が遅延していなかったら・・早めに空港に向かっていなかったら・・本当に間に合わなかったかもしれない。危機一髪の所で最悪の事態を免れた事に感謝した。

その後は無事に搭乗し日本に帰国する事が出来た。

前回のトラブルは結果的に素敵な出逢いに繋がったけれど、今回の様なトラブルは二度と経験したくないと思った。

しかし、最大のトラブルが待ち構えているとはこの時の私は知る由もなかった。

<つづく>


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