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詩の授業「風景 -純銀もざいく-」

らいこうは元中学国語教師。
たまには授業の様子を紹介します。
ポイントは「鑑賞」と「解釈」の違いです。


はい、今日は「風景 -純銀もざいく-」という山村暮鳥さんが作った詩を読んでみましょう。

風景 -純銀もざいく-

山村暮鳥


いちめんのなのはな
いちめんのなのはな
いちめんのなのはな
いちめんのなのはな
いちめんのなのはな
いちめんのなのはな
いちめんのなのはな
かすかなるむぎぶえ
いちめんのなのはな

いちめんのなのはな
いちめんのなのはな
いちめんのなのはな
いちめんのなのはな
いちめんのなのはな
いちめんのなのはな
いちめんのなのはな
ひばりのおしやべり
いちめんのなのはな

いちめんのなのはな
いちめんのなのはな
いちめんのなのはな
いちめんのなのはな
いちめんのなのはな
いちめんのなのはな
いちめんのなのはな
やめるはひるのつき
いちめんのなのはな


読んでみて、どのような情景をイメージしましたか?
詩の情景や作者の心情を想像して書いてみましょう。

それでは発表してください。
「菜の花がたくさん咲いている」
「一面まっ黄色!」
「さわやかな春の景色」
「きれいな花に囲まれて幸せ」
「友達と一緒に見に来て楽しんでいる」


そうですね、こんな感じの美しい菜の花畑が思い浮かびます。
きれいな景色で嬉しくなりますね。

ところで、この菜の花畑はどのくらいの大きさでしょう?
「めっちゃ広い!」
「見渡す限り?」
どうしてそう思いましたか?
「いちめんのなのはなをすごく繰り返しているから」
繰り返している。いいところに気がつきましたね。
他に、この詩の詩形、詩の書き表し方で気づいたことはありますか?
「ぜんぶおんなじ文字数でそろっている」
「平仮名しか使っていない」
「1行だけ違う言葉が入っている」
「3つの連が全部同じ形(構成)になっている」

そう、すごく特徴的な書き方をしています。
すべてひらがなで、1行の文字数が全部そろっています。
こういう詩の形式を「定型詩」といいます。
文字数や音数が定まった形でそろっている詩形のことです。
対して、文字数や音数がそろっていない詩は「自由詩」といいます。
この詩形の名前と違いを覚えておきましょう。

では、今日はこの詩に込められた作者の思いを読み取ってみましょう。
(学習問題提示)

さっきみんなに詩の情景を書いてもらいました。
その予想があっているか、これから詩をじっくりと読み深めて確かめていきましょう。
さっき、詩形で気づいたことの中に、「1行だけ違う言葉が入っている」というのがありました。
ずっと同じ「いちめんのなのはな」を繰り返している中、この違う言葉が入っているのには、何か意味がありそうです。

この「1行だけ違う言葉」に着目して、情景を読み深めてみましょう。
(学習課題=追究の見通しの設定)

まず第1連は「かすかなるむぎぶえ」です。
むぎぶえって知っていますか?

麦の茎には空洞があって、短く折って吹くと、音が鳴るんです。
そのむぎぶえの音が「かすかなる」というのは、どういう状況でしょう?
ちょっと近くの人と相談してみてください。

「かすかだから、音は小さいのかな?」
「吹いている人は遠くにいる?」
「子供がむぎぶえ吹いて遊んでいる?」

なるほど、音は小さくて、吹いている人は近くにはいなそうですね。

では、第2連の「ひばりのおしゃべり」はどうでしょう?
ひばりという鳥は知っていますか?

これがひばりです。小さい鳥ですが、このひばりにはほかの鳥と違う、ある習性があります。
それは、地面に巣を作るというものです。
他の鳥は木の上に巣を作りますが、ひばりは地表(主に草の根元)に窪みを掘り植物の葉や根を組み合わせて巣を作ります。

この詩の場合だと、ひばりはどこでおしゃべりしているでしょう?
「空を飛んでいる?」
「巣が地面なら、菜の花の根本とか?」
ひばりの鳴き声の大きさはどうでしょう?
「足もとでピーピー鳴いているのかな?」
「小さいんじゃない?」
「遠くにいる?」

先ほどのむぎぶえと合わせて考えてみましょう。
音の大きさ、作者との位置関係、二つを合わせてもう一度詩の中の情景を近くの人と相談してみましょう。

「むぎぶえ吹いている人もひばりも、作者からは離れている?」
「作者からはどっちも見えてはいないのかな?」
「そんな小さな音が聞こえるって、周りはよっぽど静かなのかな?」

いいところに気がついたね。
はい、みんなちょっと注目!いまの気づき、みんなにも発表してくれる?

「姿が見えないような小さな音が聞こえるってことは、作者の周りはすごく静かなんじゃないかと思いました」

みんなどうかな?小さな音が聞こえるってことは、静かじゃないと聞こえないよね。
ということは、作者は・・・?
「一人でいる?」

そうだね。
家族とか、友達とか、誰かと一緒に来ていたら、きれいな菜の花を見て話したり笑ったりして、遠くの小さな音は聞こえないだろうね。

「なんか寂しそう・・・」

そこで最後の1行、「やめるはひるのつき」を考えてみましょう。
これ、漢字にしてみると「昼の月」はいいですよね。
「やめる」はどんな漢字になると思いますか?

「止める?」
「昼の月が止まるってなに?」
「辞めるもちがうよね?」

この「やめる」は「病める」と書きます。
病気の「病」で、「具合が悪い」という意味になります。


ちょっと小さくてわかりにくいけど月が出ています


こんな感じですね。
一面に広がるきれな菜の花に青空。
その空に白い月がうっすらと出ている。

さあ、最初の印象とだいぶ変わってきたと思うので、あらためてこの詩の情景や作者の心情を書いてみましょう。
考えがまとまらない人は、近くの人と相談してもいいですよ。


では、○○さん、発表してください。
「一面に広がる菜の花畑。まるで黄色いじゅうたんのように広がっている。そらは青空で、春らしいとてもきれいな景色。
そこに作者は一人でいる。友達も家族もいなくて、一人で静かにながめているから、遠くのむぎぶえやひばりの鳴き声が聞こえてくる。
明るくて楽しい景色のはずなのに、自分だけ独りぼっちでさびしい。
青空に浮かんでいる白い月みたいに、自分はこの風景に似合わないと感じているのではないか

はい、ありがとう。
何か付け足しや違う読み取りをした人はいますか?
だいたい近い感じで書けているかな?

作者の山村暮鳥は、結核という病気で40歳で亡くなっています。
結核になる前は、キリスト教の伝道師をしていたのですが、詩の内容などがキリスト教の教えに反すると批判されたり、異端扱いされたりしていたそうです。
この風景という詩は、そのころ作られた詩なので、暮鳥の孤独や寂しさが表れているのかもしれませんね。

今日は詩の中の「1行だけ違う言葉」に着目して読み深めてみました。
最初の華やかで楽しげな印象から、真逆の孤独で寂しい印象に変わりましたね。
でも、じっくり読み解くと、作者の孤独な状況や寂しさは、みんなが納得する内容だったと思います。

最初に読んでみんなが感じた印象を「鑑賞」といいます。
「鑑賞」は文学作品を読んだ人が、それぞれ感じたり読み取ったりしたことです。
だから、読んだ人ごとに、その内容は違っていてもかまいません

ですが、それだとテストには出せませんよね?
人によって答えが違うような問題は採点できないからです。
だから、テストに出せるのは、「誰が聞いても納得できる理由がある読み取り」でなければなりません。
これを「解釈」といいます。

今回の授業で言うと、最初に書いたのが「鑑賞」
読み深めて最後に書いたのが「解釈」です。

物語や詩歌を個人で楽しむときは「鑑賞」しましょう。
でも、国語の授業では言葉、描写を根拠に「解釈」を探っていきましょう。
そうすることで国語の力がついていきます。

では、最後に今日の授業で学んだこと、できるようになったことを、振り返り用紙に書いてみましょう・・・



いかがだったでしょうか?
こんな感じで授業をしていました。

追究の途中である子の
「そんな小さな音が聞こえるって、周りはよっぽど静かなのかな?」
という気づきをクラス全体にひろげました。

これは「今日から楽笑!」④で紹介した「ひろげる」の、授業での具体的な活用例となります。

こちらもよろしければご覧ください。



ところで、名作とよばれ、長く現代でも読み継がれている詩歌などには、この「風景」のように、悲しさや寂しさといったネガティブな思いが込められた作品が多いように感じます。

あんまり「明るい!楽しい!嬉しい!」っていう作品ってないと思うのですが・・・
みなさんいかがですか?



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