現代の感性で読む近代文学: 『にごりえ』(後編)
「夏目漱石」「太宰治」「芥川龍之介」……
名前はよく知る、あの文豪たち。でも教科書以外で読んだことはない。
しかし、「名作」と言われるからには、それだけの理由があるはず。
そこで、令和を生きる25歳の私が、近代文学の名作を読んで感じたところを記しました。
前編に引き続き、樋口一葉『にごりえ』について見ていきます。
■前編はこちら↓
現代の感性で読む近代文学: 『にごりえ』(前編)
5.『にごりえ』を読んで
以下では『にごりえ』を読んだ感想について、下記(1)〜(4)について記そうと思います。ネタバレを含みます。
(1) お力の内面の振り返り
(2) 当時のお力はどうすれば救われたのか
(3) ”現代のお力”ならどう救われるか
(4) 解決を諦めたところ
(1) お力の内面の振り返り
酌婦の中では圧倒的人気を誇るお力ですが、そんなお力は自分の生活を肯定的には捉えていません。むしろ酌婦としての生活は虚しく、破滅願望さえもあることがうかがえます。
そんなお力の内面は、得意客である結城との会話を通じて徐々に展開されてゆくのですが、六章ではとうとうその鬱屈の正体が判明します。
(先代から続く人生の不遇を打ち明けた後)私は其様な貧乏人の娘、気違ひは親ゆづりで折ふし起るのでござります、今夜も此様な分らぬ事いひ出して嘸貴君御迷惑で御座んしてよ、もう話しはやめまする、……
じゃあ「先代から続く人生の不遇」とは何かというと、以下のように説明しています。
三代伝はつての出来そこね、親父が一生もかなしい事でござんしたとてほろりとするに、(中略)親父は職人、祖父は四角な字をば読んだ人でござんす、つまりは私のような気違ひで、世に益のない反古紙をこしらへしに、版をばお上から止められたとやら、ゆるされぬとかにて断食して死んださうに御座んす、(中略)私の父といふは三つの歳に椽から落て片足あやしき風になりたれば人中に立まじるも嫌やとて居職に飾の金物をこしらへましたれど、気位たかくて人愛のなければ贔屓にしてくれる人もなく、……
つまり、お力の祖父は政府と対立し、最後はハンガーストライキが原因で死んだ漢文学者、父は幼少期の怪我により片足が不随となり、その不遇がきっかけで人との接触を拒みながら暮らした金物職人であったことが分かります。また、お力も幼少期はみじめな思い出が多かったようです。
(2) 当時のお力はどうすれば救われたのか
結論から言うと、いろいろ考えましたが、私には答えが見つかりませんでした。
と言ってしまうと、何の役にも立たない感想になってしまうので、この記事の趣旨を踏まえて、「”現代のお力”ならどう救われるか」について書こうと思います。
(3) ”現代のお力”ならどう救われるか
私の答えとしては、別のコミュニティで生きる友人を見つけることが、お力が救われる鍵となると考えます。そしてこれを可能とするのが、現代の学校教育であるように感じます。
上記について、まずお力の不運なところを考えたとき、「周りに心を許せる友人がいない」ことが一つにあると思います。一章冒頭では同じ店で働く"お高"との会話の描写がありますが、同じ店とはいえ、ある種のライバルです。さらに若くて、客からの人気も高く、きっと稼ぎもお力が一番。自分の人生を覆う苦しさを吐き出せる相手はいなかったのではないでしょうか。
さらに、当時はまだ女性の就学率は低く、お力もおそらく学校に通ってはいなかったものと考えられます。これでは、地域というコミュニティぐらいでしか友人を作るきっかけは無かったのではないかと考えられます。
一方、現代なら学校生活により、多くの人はそこで信頼できる友人ができます。もちろん大人になっても皆学生時代の友人と交流があるわけではないとは思いますが、仕事や家庭など、生活の多くを占める時間を辛く感じる人でも、友人がそれを緩和する一助になった可能性があります。
以上より、私は「現代のお力なら、学生時代の友達の存在により救われる(可能性がある)」と考えます。
(4) 解決を諦めたところ
(3)では「学生時代の友達」をお力の救世主に仕立て上げましたが(?)、そこに至るにあたっては、特に解決方法が思い付かず諦めたポイントが下記の3点あります。
①世代間のハンディの連鎖
お力の独白の通り、お力はかなりハンディをもって人生をスタートしているように見えます。現代であれば、ある程度努力でその後の人生を変えることはできると思いますが、「人生もっと頑張れば酌婦以外の道があった」というのは身も蓋もないので、この点は諦めました。
②ポジティブ思考への転換
お力は酌婦としてはかなり成功しています。さらにきっと稼ぎもいい。これが私だったら、「まあ昔はいろいろあったけど、勝ち組になれたしバンザイ!」となると思うので、従ってお力には「まあ今幸せなら、それだけ考えれば?」と言いたいですが、人それぞれ幸せとは相殺できない深刻な悩みはあると思うので、この点も解決を断念しています。
③源七と結ばれる展開
特にここまで触れては来なかったですが、お力は昔の得意客であった源七と心中してエンドを迎えます。なお源七は、貧しくなってしまったことによりお力の店に通えなくなってしまった、布団屋の主人です。妻とまだ小さな子供がいますが、日々お力のことを想い、生活に身も入らず、妻から日々叱咤されています。
源七と結ばれたら、お力と源七は幸せになるかもしれませんが、源七の妻"お初"や子供の"太吉"は路頭に迷ってしまうので、これも無しとしました。
6.おわりに
いかがでしたでしょうか。『にごりえ』はなかなか救いようのない話ですね。ただ、ここまで書いたように、現代のお力なら友達の存在により救われたような気もします。
以上を踏まえて、最後に私のぺらっぺらな感想を一言で述べると、「現代に生まれてよかったなあ」というところでしょうか。
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