「本当の頑張らない育児」が、たった一人の読者に届くまで。

もし、1年前のわたしに「この連載、書籍化するよ」と伝えたら、「いやいやほんと?」と喜びながらも半信半疑だろう。

いま、わたしの手元には1冊の「本」がある。
1年前に企画をスタートし、半年間編集担当として連載をした育児漫画だ。

はじまりは1年前。
突然インターネットメディアの部署に移動になり、見よう見まねで編集らしきことをはじめ、壊滅的に絵が下手なのに漫画の編集をすることになって1年がたった頃。

編集長から「さやかさんはフルスイングしてないよね」と言われてけっこうがんばってるつもりなのになぁともんもんとしてた時期でもある。

何本か提出する企画のうちの1つは、担当していたやまもとりえさんと一緒につくるものにしたいと思った。彼女だから描けること、彼女らしく描けること。彼女にとってなにか挑戦がある取り組みにしたい。

やまもとさんのブログを何度も読み直し、それまでのメールや電話で打ち合わせをするたびにストーカーのようにメモしていた彼女の発言を読み直し、整理する。

そして「頑張らない育児」という題材と、「子育てをする親側の多様性」というテーマを立てた。

企画会議でGOが出て、わたしのはじての企画、はじめてのフィクションのストーリー漫画の編集がはじまった。連載がはじまるまでは半年がかりだった。


この作品にはひとり具体的な想定読者がいる。その人は子どもを育てているあるお母さんだ。

とてもまじめでやさしい人で、一生懸命に子育てと家庭のことをやっていたけれど、だんなさんが仕事が忙しいこともあってひとりで抱え込んでとてもつらそうだった。

SNSを見ていると彼女はときどき、こんなに頑張っちゃつかれちゃうから手を抜かなくちゃと言っていて、だけどうまく手を抜けなかったり、手を抜いてもほんとにこれでいいんだっけと余計に落ち込んだりしているようだった。

子育てについては、たくさんの育児書が売られていて、テレビでもネットでも「子どもを~に育てる何か条」とか「こんな親が子どもをだめにする」みたいな理想論やべき論が溢れている。

子どもが生まれるまでのわたしは、そんな情報もふむふむと読んだり、この作品の主人公のように自分ならうまく子育てができるんじゃないかと思っていた時期もあったのだけど、実際に子どもが生まれてみると子育てはとても心細いものだった。

わたしは母親としてこれでいいんだろうか。
子どもはちゃんと育つんだろうか。

そんな不安から子育てに関する情報を集めては、そこで言われていることと自分の状況の大きなギャップに余計に不安になった。

「赤ちゃんは母乳で育てたほうがいい」「3歳までは母親と一緒に過ごすほうがいい」それがエビデンスもない神話だとわかっていても、様々な情報に振り回されて、心は揺れる。

「手抜き育児」や「頑張らない育児」でいいという風潮がうまれて手を抜くことに言い訳ができるようになったけれど、意識高い系と同じように子育てを頑張ることが揶揄されるようなこともおきる。

がんばることも、手抜きも、どちらにせよ結局のところ「周り」に合わせているうちは子育てしんどいから、抜け出せないのだと思う。

だからこそ、そのひとりの想定読者であるお母さんに「あなたらしい子育てのカタチでいい」と伝えたかった。

この作品を読むお母さん、お父さん、そうでない人たちにも「子育てのカタチはひとそれぞれだ」と伝えたかった。

同じ人がひとりとしていないように、子育てのカタチもそれぞれだから。

自分のスタイルがあっていい。だけど同時に、それを他の人に押し付けることはちがう。

『人はちがう、それでいい、そこからはじまる』そんなメッセージをこめた。


そして、連載がはじまり、本になった。

連載中そのお母さんとこの作品について話をすることはなかったのだけど、本になったときその人がSNSで感想を書いてくれているのを見つけた。

「わたしらしく子育てをしていきたい」

そんなことを書いてくれていた。

たったひとつの感想だけど、それはわたしにとって宝物のように大切な感想だ。

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