読書感想:『中国遊侠史』
note公式で #読書感想文 という企画が立ち上がったそうなので、てんぐもやってみることにしました。本の感想を乗っけるマガジンも作りたいと思ってたし、色々ちょうど良かったかな。
どの本の感想を挙げるかだいぶ迷ったけど選んだのはこちら、青土社から2004年に出版された『中国遊侠史』です。
近年は日本でも、『陳情令』や『長安二十四時』、『絶代双驕』、『月に咲く花の如く』などなど冒険活劇型の中華時代劇を視聴できる環境が整ってきています。
そして、その中華時代劇において主人公となるのが、定住民の世間の外側、「江湖」と称される領域に生きてきた人々、すなわち「遊侠」です。
動乱の時代に群雄のもとに集う戦士、権力者に顧みられない怒りを抱く民を束ねる指導者、国法や世間のしきたりを意にも介さぬ自由気ままな風来坊、恩義と情義へ己の身命を賭して報いる武芸者、そして新時代を求めて散っていく革命家。
遊侠たちは、あらゆる時代に生まれた多くの物語において、ロマンと共に語られてきました。
『中国遊侠史』では、こういった人々の起源、歴史、変遷、そして実態について、史料をもとに様々な事例を挙げて解説されています。
そして、その解説を読み進めていくうちに、皇帝権力を頂点とした官僚制による専制政治、または動乱の時代に割拠する群雄の興亡といった、従来の史観からは少し違った中国史の姿が見えてきます。
例えば、唐の大詩人である李白は、若き日は剣法を学んで天下を放浪したという逸話は有名です。そして、李白のような「漂泊する文人」タイプの遊侠は、他の時代でも珍しい存在ではなかったそうです。つまり、遊侠の歴史においては、物語の世界と史実の世界がほとんど乖離していなかった、というのが窺えてくるのが大変刺激的でした。
少し結論ありきで書いていて、遊侠の定義をどう捉えているのか、やや無原則になっている点は否定しきれません。しかし、遊侠という、なかなか学術的な研究対象とはなりにくい存在を本題としてまとめ上げてくれる専門書はありません。その点で、この『中国遊侠史』は大変貴重な一冊でした。
実際、てんぐもこの記事を書く上で最大の参考資料といたしました。
もし今後、中国史または中華風世界を舞台にした作品を書こうと考えている人がいたら、多少値が張っていてもこの本を一読することを強く推薦いたします。
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