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矛盾しない矛盾した言葉の強み。「現代レトリック事典」通読の旅 2週目

 趣味でキャッチコピーを書いている筆者。先日、宣伝会議賞という大きな公募で賞をいただいた。ここで使ったレトリックは、反対の言葉を通るように1文に盛り込む、というもの。今週読んだページには、これに類似する内容が記されていた。しかも、2つ。

 今週紹介したいのは、
・謎掛けとあるなしクイズの、似てる点・違う点
・「生ける屍」が想像をかきたてるのはなぜか?

の2点。

 キャッチコピーに注目していると、出会う回数が多いかもしれないこの2つ。今日の記事を読むと、cmで流れるようなコピーでちょっとテンションが上がるように、なったらいいな。

ここで一旦cmです。(企画説明)


謎掛けとあるなしクイズの、似てる点・違う点

 今週1個目に紹介したいレトリック技法は、「くびき法」である。この説明を読んでいった際に、筆者が頭に思い浮かべたのが「謎掛け」そして「あるなしクイズ」である。しかし、くびき法が実際に成り立つのは、どちらか一方だけと思われる。これはいったい、どういうことだろう。

 事典における定義はこうだ。

ひとり二役。ひとつの言語形式Cが二つの意味($${c_1}$$・$${c_2}$$)をもち、これを対となる一組の言語形式A・B(の意味a・b)と結びつける表現法。

現代レトリック事典 P86
くびき法

 言語についての記述なのに、数学的な内容が来てしまった。実例を示したほうが良いだろう。事典内で例として標語があがっていた。

「服装の乱れは心の乱れ」

 事典での解説を引用する。

服装は外観がだらしなくて整っていない様子、心は精神的に規律が欠けている状態で、ほんらいはこの両者に因果関係はない。ところがくびき法によってひとつにくくられると、服装の様子と心の状態とが対応するものとして理解されます。

現代レトリック事典 P88
くびき法

 「乱れ」という共通の単語が出てくるこの1文だが、前半で表しているのは物理的な項目、後半で表しているのは心情的な項目。違う意味合いの同じ単語。これを使って一文にまとまられると、不思議なことに服装と心に対応関係があるように感じられる。

 謎掛けも、一部でこの手法が用いられている。謎掛けを分類したことがなかったが、同音異義語を使うパターンもあれば、今回のように同じ単語で違う意味を表すものをうまく活用するパターンもある。
 事典には例として、ねずっちさんの謎掛けもひとつ収録されている。たまにショート動画で流れてくるのを視聴しているので、どっちのパターンのものが多く用いられているか見てみたいと思う。

 上記の標語を数式にバラしてみよう。

A(服装)C(乱れ) + B(心)C(乱れ)

 このように、くびき法の表現方法は数式のように示すことができる。
 事典にはコラムとして、ひとひねりしたくびきも紹介されている。

・$${AC+B\bar{C}}$$
・$${AC+BD}$$

 この2種類である。さきほどの標語を改造して、例を作ってみよう。

・$${AC+B\bar{C}}$$
服装は乱れているが、心は乱れていない。

・$${AC+BD}$$
服装は乱れているが、心は整っている。

$${\bar{C}}$$とは「C以外全て」という状態を表している。文字上では「~で無い」となるだろう。この$${\bar{C}}$$をCの対義語Dに置き換えたものが、$${AC+BD}$$タイプである。内容としては似たようなことを言っているが、微妙にニュアンスが変わる気がするのは筆者だけだろうか。

 ちなみに、筆者が宣伝会議賞で受賞したコピーは、

変わるあなたを、変わらず支える。

第60回宣伝会議賞 協賛企業賞(商工組合中央金庫)

というものだ。形は少し違うが、内容としては$${AC+B\bar{C}}$$になりそうだなと思いつつ、事典を読み進めた。


 どうだろう。AではあるがBではない。あるなしクイズの形式に見えないだろうか。謎掛けとあるなしクイズの共通点として、くびき法的な見た目をしている、という点をあげたいと筆者は考える。

 しかし残念ながら、あるなしクイズはくびき法ではなさそうだ。くびき法には、なしの方にも重要な意味がある。「ある」だけを見れば答えにたどりつくあるなしクイズとは、見た目以外の共通点は無いのではなかろうか。なんの考察かよくわからなくなってしまったが、どこかでこの考察が役に立つことを祈る。


 メモ キャッチコピー制作にいかすには
 
対句的なコピーって、結構数があると思う。対照的な言葉が入るコピーは対句になりやすいと思うが、構図としてAC+BDを意識できると練度が増しそうだ。第61回の宣伝会議賞グランプリは、この数式だと$${AC+A\bar{C}}$$という構図だったんだと分かった。型を持っていれば、崩すことも出来るようになるかと考える。課題に対して思いついた項目Cについて$${\bar{C}}$$や対義語Dを考えてみるということも重要か。


「生ける屍」が想像をかきたてるのはなぜか。

 生きているのに、死んでいる。矛盾があると、その矛盾を解消したくなりません? この場合は、肉体は生きているが精神が死んでいるような状況をさすと思われる。

 この手法、「撞着法」と言うのだそう。

相反する意味の反発力を利用して新しい解釈をうながす表現法。

現代レトリック事典 P88
撞着法

 くびき法を用いた反対言葉の活用では、主に動詞をひっくり返したが、撞着法はその限りではない。

ありがた迷惑
小さな大冒険
ノンアルコールビール

などが事典では例として出てくる。定義にも書かれているが、ここには新しい解釈が伴う。個人的には、もともとの単語の意味以上に情報を持っている状態が狙えるなと感じる。矛盾解消のため、相反する2つの間に架け橋を作るような解釈が作られるのだ。

 この組み合わせでできた新語は、インパクトがあるように思われる。しかし新語といっても、もともとは知ってる単語と知ってる単語だ。組み合わせた時に新しい解釈を生み出せるよう、筆者も精進したい。

 実際事典の解説の中にも、世に出た広告コピーが例として上げられている。昔からよく使われる手法であることに間違いはないだろう。新しいものが必要とされる世の中だが、基礎固めも必要だろう。まずは古くからある手法による新しい言葉を生み出せるよう努力あるのみだ。



 メモ キャッチコピー制作にいかすには
 単語同士が反対の意味であればいいので、対句的でなくてよいのが良いところか。短くスパッと表現できれば、その分インパクトは強くなりそうだ。くびき法を用いるのと比べ短さに挑戦でき得るので、良い反対成分を見つけた際は撞着法のことも思い出せるようにしたい。訓練法としてはくびき法のメモでも書いた$${\bar{C}}$$や対義語Dを考えてみる方法が使えるかと思う。



後記

 今週読んだのは、この6つ。 

・婉曲法
・くびき法
・共感覚法
・撞着法
・トートロジー
・誇張法

 今回は取り上げなかったが、トートロジーの意味を今週の読書で初めて知った。ピノキオピーさんの楽曲「ラヴィット」に出てくる単語として聞き覚えがあったので、ひとつ歌詞で言っていることを理解できたなと感じる。ちなみに、トートロジーを日本語に訳すと「同語反復」だそう。事典通読に向けて現状ではちょっとサボりつつも楽しく読めているので、今後も頑張ることを頑張りたい。

 来週は、
緩叙法・曲言法・類語法・掛詞・造語法・ルビ法
の6つを読む予定。

 来週も、よろしくお願いします。


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