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おれたちを絵に描いてから言いなさい

シリーズ・現代川柳と短文 121
(写真でラジオポトフ川柳209)

 虎はみずからを李徴と名乗った。もとは人間だったという。貧しさにあえいでいるだろう妻子をなんとかしてやってくれ、と、虎は頼んできた。え、虎の妻子を? 怖いよ。噛むだろ。わたしがそう言うと、虎は、いや、おれもとは人間だから、妻子も人間だよあたりまえだろ、と、あきれたような口ぶりで言った。こういうところが虎の、いや、李徴の嫌われる部分だ。無視して先へ進もうとすると、こんどは虎は「おれたちを絵に描いてから行きなさい」と言ってきた。おれたち、というのは、虎と妻子のことらしい。わたしは無視して家に帰った。半月後くらいにふと思い出し、よし、李徴と妻子の絵を描いてやろう、このさい妻子も虎の姿で描こう、と思い立ち、いまそれを描いている。

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