見出し画像

これも「読み」ですか? 3

 現代川柳の「読み」シリーズ第3弾です。

 第1弾はこちら
 第2弾はこちら

 今回取り上げる句は、(勝手に)おなじみ海馬さんが「診断メーカー」でこしらえた「アサッテの川柳」を利用して選びました(海馬さん、おすすめいただいた西脇祥貴さんに感謝!)

 その「アサッテの川柳」は、入力した名前に応じてランダムで川柳を返すおみくじ遊び的サイト。ちなみに今回(2022年10月2日)入力した名前は、たまたま手の届くところにあった、水木しげる著『カラー版 妖怪談義』の妖怪の名前から選びました。そう、以下のように………

 では、やっていきます。一気に8句いきます。

【1】

冷凍魚アッと叫んだままの顔
/岩田三和

■瞬間を写真のようにぴたりと収めた句。「よくある光景」を切り取って収めた、というより「読者がこれから目にする未来の光景」を先回りして川柳に収めたような味。アッと叫んだまま冷凍され、さらに575にまでされてしまった魚。カッチカチ。

(入力妖怪:一つ目小僧)


【2】

六面体の梅雨の一面だけが声
/飯島章友

■雨ならば「音」では? と調べると「雨声」という表現があるらしい。あぶね〜。真っ赤な顔で六面体を転がすと、サササ………と雨声が聴こえる面を上に止まった。その「雨音」は「うせい」と読む。わたしは知っている。調べたから。サササ………

(入力妖怪:首かじり)


【3】

江の島を落とし穴から見ていたよ
/我妻俊樹
■江の島《の》ではなく《を》。たしかに助詞ひとつで川柳は変わるが、この句の場合、句意をどうこうするつもりで助詞を選んだのではなく、「句意どうこうとは異なる次元の理由から助詞が決定された句」をねらったのだと思う。
■江《の》島に注目する。この地名に助詞《の》を付けると、《の》が続いてやや不格好だ。だからこそ《を》にしたんですよ、と、その選択理由をたどれるように意図的に痕跡まで書きこんだ句に感じられた。そこまで見越したうえで落とし穴に落ち、江の島を見ていた人だ。当然すごくえらい。

(入力妖怪:キジムナー)


【4】

シナリオや静かに飛んでゆくスプーン
/都築裕孝
■シナリオ、つまり脚本のト書きに「音もなく飛ぶ食器」とあるのだろうか。たしかにこの世界が一本の長大な脚本に沿った映像作品だとしたら、大半の出来事は脚本上ではト書きで記されている。が、脚本はそのままですでに作品でもあるはずだ。

(入力妖怪:がしゃどくろ)


【5】

ジャイアンに退化するのはのび太たち
/川合大祐
《ジャイアンに退化するのは》に続くのが《のび太》という同じ世界の言葉であることに妙にはっとした。無数に存在する言葉のなかで奇跡的に同じ世界の言葉が再会するのを目撃したような。(進化ではなく)退化、という言葉選びはのび太側の視点。

(入力妖怪:縊鬼くびれおに)


【6】

屈託のないしおりひも あの さびしい
/橋爪志保
■しおりひもにとっての《屈託のない》をページとページに挟まれていない宙ぶらりんな状態とするなら、さびしさもむべなるかな。一字空けはしおりを挟むための空間の視覚化か、または、一字空けに挟まれた《あの》がしおりそのものなのか。

(入力妖怪:鳴釜なりかま)


【7】

二人乗りの舟ってふつうにこわいね
/八上桐子
■水面を走る舟のごとく、一見なんでもないようにすーっと書いてあるが、その書き方自体が「ふつうにこわい」を体現している。なにかが起きる前の静けさ。「二人」はある種かなり安定した人数・状態だが、だからこそ「ふつうにこわい」のでは。

(入力妖怪:ぬらりひょん)


【8】

食卓の高さで続くころしあい
/畑美樹
■森田芳光の映画『家族ゲーム』のクライマックスと、その発想元となった絵画『最後の晩餐』を想った。映画と食で言えば、中華料理店の円卓での大立ち回りもいいが、真の殺し合いは「ころしあい」というおだやかな姿で、すでに家の食卓にあった。

(入力妖怪:ニューギニアの森の霊)


おわりです。各句の作者のみなさんと、なんの脈絡もなく名前だけ呼び出された妖怪のみなさんに、ありがとうございましたの11文字をお送りします。

ありがとうございました

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?