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廃屋の中から匂い 豆カレー

 現代川柳と400字雑文 その90

 橋本さんの高校時代の同級生であるUさんは「米が汚れているのが嫌」という理由でカレーライスを食べなかった。ふりかけもだめだったし、他人がおかずをほんの一瞬だけ白米の上に載せることすら嫌がっていたというから相当なものだ。変わったやつだと思いながら、これといって迷惑を被ることもなかったので、橋本さんは高校のあいだじゅうUさんと親しくしていた。大学進学を期に地元を離れたUさんとふたたび会ったのは、高校の通学路にあるファミレスだった。友人数人とたまたまその店を訪れた橋本さんが驚いたのは、数年ぶりに見たUさんがカレーライスを食べていたことと、スプーンを右手で持っていたことだだった。Uさんは左利きで、箸やスプーンも左手で使っていた記憶がある。なにか事情があって右手で持つようになったか。Uさんはひとりなのに妙にニヤニヤしていて、話しかけるのに躊躇してしまったが、その年の夏にUさんが海の事故で亡くなったと聞いたときは、あのとき話しかけておけばよかったと後悔したそうだ。

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