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もちもちのマルチタスクになっていく
現代川柳と400字雑文 その96
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十年ほど前、あるウェブサイトを作る際に付き合いのあった大橋さんから聞いた話。当時大橋さんは料理が趣味だった。自他ともに認めるのんびりした穏やかな性格だが、料理をするときはてきぱきと動き、一度に3、4品を並行して作ってしまう。「別人の自分になれるというか、まるで、自分を自分で操縦しているような、なんていうか、ふだんの自分とはちがう感覚になるんです」そしてそれが一種の達成感、快感へとつながり、ストレス解消になるのだという。別人の自分。その感覚は料理のどの段階を境に発生するのだろう。たとえば、メニューを考えているときにはもうすでに発生しているのだろうか? あるいは買い出しのときに? そしてその感覚はどのタイミングで消えるのだろう。作った料理を食べ終わったら消える? あるいはお皿を洗い終えたときに? 思いつくままいくつかの質問を投げかけると、大橋さんは「いやー、なんとなくの話ですからねえ、詳しくはわからないな〜」と答えをにごした。もしや嘘か?とも思ったが、もしそこで明晰に整理された説明がすらすら出てきていたら、それはそれで怖かったかもしれない。詐欺師的な怖さだったり、あるいは「自分でない自分をすらすら説明する人」の怖さだったりしただろう。以上、やはり怪談でもなんでもないが、たまたま大橋さんと作ったウェブサイトのドメイン更新期限のおしらせが来ていたので思い出した話だ。
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