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【難民申請】 #676


「どうか日本へ強制送還するのだけはやめて下さい」

「お気持ちは分かりますが本国の規定では難民申請は3回までとなっています」

「しかし今日本に帰ったら自衛軍に捕まり収容所に入れられるか
もしかしたら殺されてしまうかも知れません
お願いですなんとか特別措置をお願いします」

「仰ってる事は分かります
しかし本国の規定に従わざるを得ないんです
私は一介の職員でしか無いんで
どうにも出来ません」

「そこを何とかお願いしますよ
今更帰ったところで
ウチには18歳の息子と15歳の娘がいますが全く日本語なんて話せません
もし日本へ強制送還されて家族が散り散りになったとしたら子供たちはどうやって生きていけば良いのですか」

「だから言ってるじゃないですか
私には権限が無いと」

「アナタには子供は居ないのか?
もし同じような目にあったらどうする」

「気持ちは分かってますよ
出来る事なら何とかしてあげたいですよ
でも4回目は無いんです
最初此処に来られた時に説明したでしょ
で書類にサインしたでしょ」

「あの時はそうでもしないと命の危険があったからです
3回目迄に何とかなる
そう思ってたんですよ
しかし今の日本と来たら
とても平和に住める環境じゃありません
お願いです
お願いします」

「困ったなぁ…
そう言えばアナタの職業は何でしたっけ?」

「私はエンジニアです」

「エンジニアですか…
ちょっと待って下さいよ」

そう言って難民申請の係員はパソコンの画面を見ている
その後どこかへ電話して確認をしている
2、3分話して電話を切った

「山田ヤスシさん
アナタ難民申請では無くて
本国に帰化する気持ちは無いですか」

「と言いますと?」

「4回目の難民申請は先程言ったように絶対に無理です
しかしエンジニアをされているという事なので帰化に関する要項欄を確認してみたらエンジニアが含まれていました
ですので4回目の難民申請に来ているエンジニアの日本人でも帰化申請は可能なのか確認しました
答えはできるとの事です
この国に残る可能性と言えばもうその方法しか無いですね
どうされますか」

「帰化します
是非お願いします
調べてくれてありがとうございます」

「承知しました
そしたらねこの申請書はお返ししておきます
この部屋を出られたら一階上の407の帰化申請の手続きをする部屋へ行って下さい」

「ありがとうございます」


その後帰化申請をしてヤスシは帰化出来て子供たちも帰化の申請が通ったが
何故か妻だけは通らなかった
このままでは妻だけ強制送還の可能性が出てきた
また管理局に行かないといけない

妻だけ日本へ帰らすわけにはいかない

相談したところ
とてもあっさりした対応をされた
自分が帰化申請している間に一度離婚し帰化出来た段階でもう一度婚姻届を出す
そうしたら配偶者の国の人間になる事ができる

簡単じゃ無いか

と思ったもののとても面倒な時間のかかる事になった
日本の領事館に離婚の申請を行い
日本の本籍地から離婚届の書類が届き
それをまた領事館に持って行き領事館から日本の本籍地へと離婚届が回される
期間としては2週間ほどかかるそうで無事に申請されたかどうかは毎日領事館に行くか電話での確認が必要であった
妻の強制送還の期日が4週間後なのでギリギリ間に合う筈である
1週間後領事館から電話があり書類に不備があったのでもう一度離婚届を出し直して下さいと連絡があった
どのような不備だったのか確認したところ本籍地の住所の番地が9どするところを7と書いていた為通せなかったらしい
ヤスシは思った7と9の違いならそっちでちょっと書き足して9にしてくれれば良いものを役所関係はとても面倒な連中だ
領事館に余りの離婚届が数枚あったのでそれを貰ってきて今度はちゃんと9と書いて離婚届を領事館に提出した
領事館の担当者の方が急いでくれたのか1週間と少しで離婚届は受理されたと連絡があった
このやり取りをしている間にヤスシや子供たちは帰化申請が下りていた
ヤスシは急いで妻との婚姻届を提出した

これで何とかひとつの家族は救われた

難民は下等生物では無い
ちゃんとした人間である
政治的な理由で弾圧を受けているに過ぎない





ほな!

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