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【我々と私たち】 #848


問題のない私たちは
とても穏やかな暮らしをしていました
贅沢をせず質素に細やかに
真面目に思いやりをもって
支え合い家庭を育んでいました


問題なんてある訳ない
そう思っている我々は
有り余る金と有り余る不動産
経営する会社も役所とズブズブの関係
議員でもあるから言いたい放題
金を育んで金を産む素晴らしいじゃないか



私たちの息子と街の権力者の息子さんとは同い年で同じ高校に通っていた
2人は大変仲が良く
いつも一緒に過ごしていた

そんな2人が災難に巻き込まれてしまった
2人が遊びに出かける途中
乗り合わせたバスが事故を起こし
崖から転落してしまった

2人とも即死だった

葬儀は合同でという声もあったのですけど
あちら様のご提案で別々に行う事になった

私たちは公民館を借りて細やかな葬儀を行った
それに対してあちら様は自分たちが経営している街一番の大ホールで盛大に葬儀を行われた


葬儀後数週間して聞こえてきたウワサでは私たちの息子が遊びに誘ったから我々の息子は巻き込まれてしまった
元凶はあの親子にある

どちらが誘ったかなんて今となっては分からない
それなのにどうしてそんなウワサを流さないといけないの


そのウワサは独り歩きし真実のようになっていった
私たちの周りから人が1人ずつ去って行った

夫も何となく仕事を辞めるよう促され
住まいの大家さんからも
ここを出て行ってほしいと言われた


だから私たちは話し合いをして
先ずは夫が別の土地で仕事を探し就職して様子を見て大丈夫そうであれば
私たちの新しく生きる場所にする事にした

年齢が年齢だけになかなか県外で新しい仕事を見つけるのは難しかった

何とか町工場での仕事にありつけられた
そこでの生活を半年続けてみた
大丈夫だろうという事になり
私たちは新しい場所で
新しい生活を始めた


もう余計な事を言う人は居ない
息子を亡くした悲しみを2人で慰め合い
息子の分まで生き抜こうと思った



私たちはまた穏やかな生活を取り戻した

ある日テレビを見ていたら
大規模な汚職事件であの男が逮捕されていた
しかも殺人事件も絡んでおり
かなり事態は深刻であった

その後
男の会社は連鎖的に倒産し
逮捕という事もあって
議員も辞職
大量の負債が生まれ
持っていた大半の土地をも手放さないといけなくなった

あの男のお父さんが築き上げた物を二代目が見事にぶっ壊してしまったカタチになった


数日後
古い友人から連絡があった
久しぶりにこっちに帰って来ないかと


私たちは
「ありがとう
帰る時には伝えるよ」

そう答えて二度とあの街へは帰る事は無かった





ほな!

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