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【駄作:ニュートラルになる】 #954


高校を卒業するまでは多分普通だったと思う
目立つタイプでは無い
イジメられるタイプでも無い
ただおとなしく穏やかに過ごしていたに

変わったニックネームもついた事はなくヤスシなのでずっとヤッちゃんと呼ばれていた


高校を卒業し大学に進学した
東京にある大学だったので一人暮らしになった
東京の大学って言っても皆んなが知ってるような大学では無い
東京の人ですら知らなかったりする
まだ新しい大学で高校の頃に読んだ本の作家がこの大学で教授をしていたので受験し合格した

東京と言っても郊外にあったので
下手したら自分の地元より田舎かもしれない


先にも書いたが目立つタイプでは無い
なのに彼は演劇部に入部した

演劇部と言ってもほぼサークルのようなノリだった
ヤスシはこの大学の3期生で部員も少なく
他の大学の演劇部にたまに混ぜてもらう事もあった

人数が少ないので基本的にはコントのような感じの作品が多く
そのせいで色んな役を演じた

その中で自分もハマったし周りから受けが良かったのが女性の役たった

中にはホントに女だったら良いのに
超好みのタイプって言ってくれた人も居た
悪い気はしない
飛躍するけど歌舞伎でも女方があるわけだから
自分もハマり役だなと思った

家でもメイクの練習したり
ファッションのコーディネートを色々やって楽しんだ

女装している時の方が楽しくなってきたし
安心感があった

なんて言うんだろう
もっと早くこれに気付いていれば良かったのにって思うくらい

腕や脇や脚は全部脱毛した
入浴も時間が倍以上になった
肌のケアもするようになった

最初はウイッグだった頭髪もスッカリ伸びて色んなヘアスタイルに挑戦している

普段の生活も女の子寄りの日か多くなり
周りの人はちゃんとヤスシを男だと分かっているんたけど
優しくなってきた
女の子扱い

下手したら女子部員より可愛いかもしれない
女子部員もほぼ同性として接してくるようになった

最初は外から始まった女装も続けていると自分が男なのか女なのか分からなくなってきて
今はむしろ女を演じている自分が一番しっくり来るし
女装している時の方が情熱的に振る舞える

性的思考はまだよく分からない
まだ童貞だし
キスは経験あるけど劇中の演技での話だし相手も男だった


ある時
演劇の交流会みたいな飲み会があって
色んな大学や小さな劇団の人たちが集まっての飲み会があった
恐らく50人以上は居たんじゃ無いだろうか

この日もヤスシは中性的なファッションで現れた
興味本位で男女関係なく話しかけられた

ひとつ年上の他所の大学生のお姉さんと仲良くなった

今日の飲み会は楽しく
参加する時点で自分の下宿先には終電無くして多分帰れないだろうと最初から泊まるつもりで居た

泊まるったってネットカフェだけとね


仲良くなったお姉さんたちと二次会はカラオケに行った
もの凄く盛り上がった
即席のカップルみたいにイチャイチャしてる人も数人

この時ヤスシはお姉さんに相当気に入られている空気を感じていた

そしたらやっぱり
「今夜ってどうするの?」

そう聞いてきたから
「終電は元々諦めてたんで
適当にネカフェに泊まろうかなと思ってます」

「ふぅ〜んそうなんだ
じゃあさぁこの後も少しだけ付き合ってよ」

「家帰んないんすか?」

「微妙なのよね距離が
タクシー代とコッチで泊まるのとそんな大して変わりないし
明日は休みだし」

「そーなんですね
僕らなんてタクシー代皆んなで割り勘しても多分コッチで泊まる料金の方が安いと思いますよ」

「遠いもんねぇ」



カラオケも解散となって
友達には後でネットカフェに合流するよと伝えて
お姉さんと闇に消えて行った

お姉さんにグイグイ手を引っ張られ円山町へ
コンビニに飲み物や食べ物を買い出しに行ってラブホに入った

ドキドキした

でも酔ってたのでところどころしか覚えておらず
何がどうなってたのかイマイチ理解出来なかった

その後もこのお姉さんとは時々エッチした
彼女では無い
仲良し

レズビアンみたいで興奮するんだって


ヤスシは益々自分の性別が分からなくなってきた
そうなると男の人と関係を持っても良いかなぁって思えるようになった

それと共に頭の中が混乱してきたのか
最近は情緒不安定になりだし
何でもない事で急に涙が止まらなかったり
黙り込んで何も喋らなくなったと思えば
無茶苦茶テンションが高い時もあった

周りの人はヤスシが壊れて行ってると心配されたが
ヤスシは大丈夫だと言った

ヤスシは自分で自分をホントに大丈夫だと思ってたけど
この頃からリスカも始まった

なぜそのような行為に及んだのか分からない
どうして精神が崩壊しているのか分からないし気が付かなかった

理由が理解できない不安感と意味の無い幸福感が交互に襲ってくる

家からあまり出たくなくなった
家賃も親が出してくれているし
お小遣いも貰っていたので何もしないでも過ごせた

心配して連絡してくる人も居た

どうしてこうなっちゃったんだろう


ヤスシは自分では今の自分が好きだし受け入れてたし
むしろ心は解放されていたと思っていた


元は男であるが
今は男であり女である
それが脳内の何処かで混乱をきたしてしまったのかもしれない

何も悩んでいないのに

半年ほど狂ったように病んでたが
何に納得できたのか
フッと軽くなった

その日以来ヤスシは自分の事をN(エヌ)と呼ぶようになった
服装もカジュアル系からモード系に変化し
頭も染めた

Nは今は出来るだけ何も余計な事は考えなくなった
人の目を気にしなくなったから楽になった
気を使わなくなったから人の顔色を気にする必要も無くなり楽になった


今は過去も未来も考えていない
現在の連続の中で生きている

男でも女でも大人でも子供でも無い





ほな!

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