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【ベストマン】 #592


作家
リチャード・ペック
インスパイア作品

と言っても
内容は全く違います

シカゴに住んでいたアーチャーが
生まれ変わって
日本でベストマンとして
活躍する物語のほんの1ページ


彼の名前はベストマン

スーパーなマンでも無く
ウルトラなマンでも無く
ベストなマンである

ベストマンの活躍規模は小さく
大阪の一部地域のみで活躍するマンである

スーパーやウルトラは宇宙人だが
ベストは関西人である

スーパーの場合は服を脱ぐとコスチュームが現れ
顔出しで活躍する

ウルトラの場合は完全に見た目も大きさも変わるし光線などの飛び道具も内蔵している

ベストの場合はTPOに合わせて着ているモノは変わるが被り物で変身というか身元をやや隠している
幼少の頃より空手や柔道教室に通い
高校からはボクシングのジムに通って身体をベストな状態に保った



「大変だ田中くんと山田くんがケンカしてるぞ
どうしよー」

「そんなんやったら
ベストマンに電話したらええやん」

「せやけど今仕事中やろ
あの人平日は夕方からしかアカンで」

「ダメ元で連絡してみぃな
安本さんこの前電話したら
なんや仕事早退して来てくれたって
言うてたで」

「ホンマにぃ?」

「ホンマやって
それよか早よ電話せえへんと
休み時間終わってまうで」

「せやな
電話かけてみるわ」


電話をかけてみたが
コール音の後
留守番電話になった

「ベストマンさん
あの山小のヤスシですが
助けてくれませんか
田中くんと山田くんがケンカしてて
で」

そこで留守番電話は終わった
だいたいは伝えたけど
大丈夫かなぁ

チャイムが鳴り
4時間目の授業が始まった

先生が来たから
田中くんと山田くんは
一旦ケンカは止めて席に着いた

授業中に携帯電話を使っちゃダメなので
マナーモードにしてある

4時間目が終わり
給食の時間になった

携帯電話を見ると
ベストマンから
折り返しの電話がかかっていたが
僕のには留守番電話サービスに入っていなくて
着信歴のみだった

もう一度ベストマンに電話をしてみた

今度は出てくれた

「はいベストマンです」

「あっ
さっき電話したヤスシです」

「ああヤスシくんやったね
田中くんと山田くんがケンカしてたって言うてたよね」

「そうなんです
ベストマンさん
田中くんと山田くんを助けてくれませんか」

「なるほど
ヤスシくんは今日は何時間目まであるだい」

「今日は5時間目までしか無いから
2時半には終わるよ」

「そうか
分かった
山小だね
何年何組かなぁ」

「6年1組です」

「そうか
分かったよ
では後ほど」

そう言って電話を切った

程なくして
山小にベストマンから電話があった
担任の先生とお話をして
承諾をもらい

5時間目を頂く形になった

ベストマンは急ぎ
社長に連絡をし
これから山小へ行きたいので
早退をお願いした

社長はとても彼の活動に理解のある方でしたので
早退をさせてもらえた

急ぎ家に帰り
仮面を被り
山小へと向かった

先ずは職員室へ向かったのだが
昼休憩で
子供たちはグラウンドで遊びまくっていたので
たちまちベストマンは囲まれた

「職員室まで行きたいんだけど
案内してくれる子は居るかな?」

子供たちは皆んな元気良く
反応し皆んなで案内してくれた

「ありがとう子供たち」

そう言って職員室の中へ入って行った

「竹野先生はいらっしゃりますか?」

「あっベストマンさん
わざわざありがとうございます

さっこちらへ」

「こちらこそ急にすいません」

案内されたのは校長室で
竹野先生と共に今回の経緯を話した

校長先生は喜んで下さり
無事に5時間目を頂けた

5時間目のチャイムと共に
竹野先生と6年1組の教室に入った

その瞬間
教室はワーワーキャーキャーとどよめいた
竹野先生は静かにするよう声をかけ
多少静かになった

「こんにちはぁー
ベストマンです

おっ
良いお返事ありがとう

今日はね
ヤスシくんから電話があって
参上したんだ

ヤスシくん
ちょっと立って
どの子かな

おっ君か
勇気ある連絡ありがとう

じゃあ
座って良いよ
うん
ありがとう

ヤスシくんから
こういう電話があったんだ

田中くんと山田くんがケンカをしているから助けてって

これはどういう意味か分かる人いるかな?


おっ皆んな凄いねぇ

じゃあこの列の前から3番目の君
教えてくれるかな?」


「はい
僕がその田中です」

「あっ
そうだったんだ」

「はい
多分ヤスシくんは
ただケンカを止めるだけじゃなくて
えっと
ええーっと
なんて言ったらええやろ

あの
仲直りのね
なんか
そういうのんだと思います」


「ありがとう田中くん

自らお話してくれるなんて
とっても勇気ある行動だよ
素晴らしいねぇ

田中くんが言ってくれたように
ケンカって絶対にキッカケってあるよね
でももしかすると
そのキッカケの更にその前もあるかもしれないよ

前って何?
例えば
前からちょこちょこからかわれていた
とか
前に腹が立った事をまた言われた
とか

キッカケの前の原因っていうのが
あると思うんだよ

それを解決しないと
単にケンカを止めるだけでは
意味が無い

そう言う事を田中くんも
言おうとしてくれていたんだね

ありがとう
素晴らしいよ

じゃあ
田中くんはどの子か分かったから
山田くんもどの子か教えてくれないかな」

「はい僕が山田です」

「ありがとう山田くん

では
田中くんと山田くんが分かったので
話を進めさせてもらうね

田中くんと山田くんは前から
よくケンカしてたの?
知ってる人はいるかな?


はい
ありがとう皆んな
では
この列の後ろから2番目の女の子
教えてくれるかな」

「はい
田中くんと山田くんは
ホントは仲が良いんです
でも
最近はあまり仲が良くないです」

「ほぉー
それはどうしてかな」

「それはぁ
ええっとぉ…」

「そこは分からないんだね
ありがとう教えてくれて

そしたら
田中くんと山田くんが
仲が悪くなったのを知ってる人は居るかな?


よし
では今手を上げた君
教えてくれるかな」

「はい
僕も田中くんと山田くんと同じグループで
あっ
ヤスシくんもそうです
4人は仲良しだったんですが

山田くんの家でゲームをやっていた時
田中くんが全然順番を守ってくれなくて
自分ばっかりゲームしてたんです

そしたら
山田くんが怒り出して

オマエの家
貧乏だからゲーム無いんやろって
言ったら
田中くんは
貧乏じゃ無いしゲーム機だってあるって
田中くんも怒り出したんです

その時は僕たちも止めに入って
何とか仲直りしたんですが

それから数日して
山田くんが僕にある事を言ってきたんです」

「何を?」

「はい…
そのぉ
山田くんのゲームソフトが無くなったって
田中くんが盗んだって

僕は分からないから
そのまんま分からないって言うたんです

山田くんはヤスシくんにも
同じ事言うてたみたいで

さっき
それが田中くんにバレて
田中くんと山田くんがケンカになったんです

だからヤスシくんに
ベストマン呼ぼうって言ったんです」


「そうかありがとう
君はなんていうお名前かな?」


「僕は春田です」

「そうか春田くん
ありがとう」

「だいたい話は分かったよ
ありがとう

ベストマンとしては
一番良い解決をしたいと思うんだ

一番大切な事は
友情に親や家は関係無いと思うけど
どうだろう?

サラリーマンの子供と
魚屋の子供はお友達になっちゃいけないのかな?


そうだね
別にお父さんがサラリーマンであろうが魚屋であろうが
それは親の職業

お友達とは関係無い
そんな風に分けるなら
サラリーマンの子供だけの学校
魚屋の子供だけの学校に分けてしまえば良い

でも
そんなのおかしいよね

家がお金持ちとか貧乏とかも
関係無いとベストマンは思うよ

お金持ちの子が偉いわけでもないし
勝っているわけでもない
貧乏の子が劣っているわけでもないし
負けているわけでもない

そんな事より
相手の事を思う気持ちが
大切なんじゃないかな

山田くんは
自分ばかりゲームするのじゃなくて
皆んな仲良くゲームする方が
ずっと楽しかった筈だよ

田中くんは
山田くんを貧乏だなんて
悲しい事を言ってるより
もし
本当に山田くんの家が貧乏で
ゲーム機が無いとしたら
今度は別の機会に
2人でゲームをして遊べば良い
その方が
ずっと楽しかった筈だよ

ゲームソフトが無くなったのは
残念だけど
それは田中くんのせいでも無い
もちろん
山田くんのせいでも無い

ゲームソフトはまた買えば良いけど
田中くんも山田くんも1人しか居ない
大切なお友達だよ
何処にも売ってないんだ

貧乏だと何が悪いんだろう?
ベストマンには分からないな

勝つとか負けるとかにこだわってたら
とても疲れてしまうよ

ベストマンが言ってる事は難しいかな?

ヤスシくんどう思う?」

「あっ
はい
僕は田中くんも山田くんも春田くんも大好きなんで
仲が良い方が嬉しいです

山田くんの家は大きいし
お金持ちだけど
山田くんのお母さん優しいし
春田くんの家は文化住宅に住んでるのに
お父さんのクルマはスーパーカー
田中くんの家も文化住宅
多分家に上がったのは僕だけかもしれない
ゲーム機があったのか無かったのか覚えていないけど
お母さんが芸能人みたいに
キレイなお母さんだった

僕の家は食堂
お父さんとお母さんが一緒に働いている
多分
そんなにお金持ちじゃない
でも
お父さんもお母さんも
いっつも笑ってる
僕の家にはゲーム機は無いです
その代わり
楽器とレコードが沢山あります

4人皆んな違う家の子だけど
仲良くしたいです

だから
春田くんと相談して
ベストマンさんに電話したんです」

「先生どうですか
僕で足りない所あったら
生徒たちに言ってもらえますか」

「そうですね
私にとって
生徒たちはかけがえの無い存在
6年生だから
意味は分かるよね

さっき
ベストマンさんが言っていたように
親の職業やお金持ちや貧乏の話のように
君たちには直接それは関係ないと先生は思っている

あえて言うなら
それは個性だ
それぞれの家ならではの
決まりやしつけ
楽しみや喜び
そういうのがあって
皆んなは此処に集まり
一緒に勉強する

僕も勝ち負けじゃ無いと思う
勉強できるやつ
運動できるやつ
それ以外ができるやつ

皆んな一等賞をあげたい

最後に一つだけ
腹が立つ事もある
ケンカする事もある
そういう時は誰でもある
大丈夫だから
そういう時は
ぶつかり合いなさい
その自信が無かったら
先に先生に相談してから
一緒にぶつかろう
そしたら
そこから何か学ぶ事があるよ

今日だってそうだと思う

以上です」

「先生
ありがとうございます

どうだろう皆んな
どうだろう田中くん
どうだろう山田くん
どうだろうヤスシくんと春田くん」

「田中くん
ごめんな貧乏って言ったり
泥棒扱いして
ホントはな
田中くんの事
ちょっと羨ましかってん
カッコええし
スポーツ万能やし
オモロいし」

「山田くん
僕もゴメンな
あのゲーム
メッチャオモロかったわぁ
またやらしてぇな
今度はちゃんと
皆んなと変わるから

ヤスシくんも春田くんも
ゴメンな

あっ
言うとくけど

泥棒はしてないからな」

「あのぉ…」

「どうした春田くん」

「あのぉ…
ゲームソフト
勝手に持って帰っちゃったの
僕なんです

言い出せなくて
あの時
やりたかったけど
田中くんがずっとやってたから
ちょっとだけ借りて
後でそっと返せば良いやって
思ってたんです

ごめんなさい」

クラス皆んながどよめいた

「なるほど
そうだったのか春田くん
いや君も今日はヒーローだ

こんな時に
自分から言う勇気は
素晴らしいよ

勝手に借りるのは
ダメだよ
これからはちゃんと断ってから
借りようね」

「はい
ごめんなさい」

「春田くん
そのゲーム
好きなだけ遊んで
飽きたらまた返して」

「ありがとう山田くん
ほんで
田中くん
泥棒にしてゴメン」

「良いよ
春田くんは
僕に何も言ってなかったし
今日もそうだったやん

大丈夫やで」

「ありがとう」

「では
5時間目のベストマンの授業はここまで
ここからは先生
お願いします

じゃあ
皆んなまた何処かで会おう」

ベストマンは教室を去った

すると一番前に座り
ベストマンの真ん前だった男の子が呟いた

「ベストマンってさ
佐藤さんなんやね
ベスト水道の」

「ああ
あそこの水道屋なんだ

ふぅ〜ん」


今日もベストマンはご当地ヒーローとして
子供たちや町を守っている

ありがとう
ベストマンの佐藤さん





ほな!

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