【古くて新しい】 #849
大阪生まれで東京で就職し
鬼のように働き
結婚して3年経って離婚して
何もかんも嫌になって
仕事も辞め
縁もゆかりも無い田舎に引っ越し
コンビニでバイトしながら生活をしている
ここいら辺では唯一のコンビニだから
もう完全にスーパーと同じような感覚で使われる
店員とお客さんの距離も近く
暇な時は世間話なんかもしている
観光地でも無い
ただの田舎だから
他所からの人の流入は滅多に無い
せいぜい道に迷ったとか
何処かに行く途中とか
そんな程度の立ち寄りくらいしか無い
住み出して6か月
バイトを始めて3か月
何となくお客さんの顔と名前が分かり出してきた
お客さんも
私の顔と名前を覚えてきた
仕事以外で外出してても声をかけられるようになった
仕事してても
昨日何処そこで見かけたとか言われたりもする
まぁ良くも悪くもプライバシーが無い
因みに
私のような移住者はこの辺りの集落には一切居ません
役場も移住を特に推進していない
進めるにしても
何の魅力も売りも全く何も無い
ひょっとしたらもう
何も無い場所という文言で売り出しても良いのかもしれない
でも悪い場所じゃない
むしろこの手を入れてなさ過ぎる
ヨボヨボの昭和のまんまのこの場所が良いと思う
そんなある日
コンビニに見た事も無いような
美しい人が買い物に来た
まぁ
たまたま通りかかって買い物しただけの人だろう
と
そう思っていたんだけど
数日してまた来た
うん?
ココに住んどるのか?
いや
6か月住んでるけど
見た事無い
同僚のおばさんに聞いてみた
「今の人ってここの人?
知ってます?」
「誰やろねぇ」
おばさんも知らなかった
綺麗な人だなぁ
服装もここいらでは手に入れられそうに無いのを着てた
また来るかなぁ…
1週間後にまた来た
いつもジュースとおやつくらいしか買って行かない
愛想はいい感じなんだけど
無駄話はさせないオーラが出てるので
喋りかけられない
そんな事が何度か続き
私が自転車でブラブラ散策していたら
一つの家の中から
トントンどいう音が聞こえていた
そちらの方に目をやると
あの女性が機織りをしていた
美人がしているから絵になる
素敵だ
見惚れていたら向こうに気付かれ
ハッとなったが
何事も無いんだよ
ちょっとココを通りかかったら
音がしたもんだから
そちらに目をやっただけなんですよ的な感じで
さり気なく会釈して立ち去ろうとした
「コンビニの人
お茶でもしてく?」
私はビックリした
人との距離を作りたい人かと思ってたから
「良いんですか?」
「大丈夫よ
そーじゃなきゃ誘わないよ
そっちから入って来て」
そう言って指をさされた
そちらにまわるた建物の入口が現れた
私の家同様古びた家だけど
DIYしたであろう
とてもセンスの良い家だ
中へ通され
大きなソファーに座るよう導かれた
目の前のローテーブルの真ん中には
可愛い花が生けてある
何もかもがお洒落だわ
出してもらったお茶も
まぁ紅茶だったんだけど
とっても美味しかった
彼女の名前はナオミさんだった
年齢は私より2つ上だった
出身は神奈川だけど
おばあちゃんがここの人で
おばあちゃんが亡くなって
空き家になってたから引っ越してきたそうだ
でもまだ仕事が片付いて無いので
神奈川とこっちとを行ったり来たりしている
だからおばさんも知らなかったんだ
私たちは何となくだけど
波長が合うような気がした
次回は私の家に遊びに来てね
と約束して
LINEも交換してサヨナラした
久しぶりの都会人との交流
気持ち良かった
それ以来
週に1回程度は会うようになった
他愛もないお喋りだけの日があれば
食べ物を持ち寄ってお酒を飲んだり
お互いの家を行ったり来たりしていた
ある日
夜遅くまでお酒を飲んでて
酔っ払ったし
夜道は危ないから
泊まって行くよう勧められた
酔ってたのもあって
ちょっとだけ恥ずかしかったけど
割と大胆な気持ちになっていた
だから泊めてもらう事にした
布団はひとつしか無かった
私はあの大きなソファーで寝ようと思ったんだけど
手を引っ張られそのまま同じ布団で寝た
とても良い匂いがするお布団
太陽の匂いだ
そのまま私たちは手を繋いだまま
夢の中へと誘われて行った
一度こういう事があると
それが日常化されてくる
私は気付かない内に恋をしてしまっていたらしい
女同士だから仲の良い友達って思ってたのに
多分
バイトしてるコンビニで初めて見かけた時から恋してたのかもしれない
今になってみるとそんな気がする
だから
機織りしてたのも見惚れてしまったのも好きだったからなのかもしれない
同性に恋心を持ったのは生まれて初めての事
レズビアンを否定する事は無かったけど
なんだろ違う次元の人たち
そんなイメージだった
一緒に寝る時にキスをしてみた
嫌がるかしら
そしたら舌を入れられた
スイッチがオンになった
そして私たちはパートナーになった
コンビニでバイトするバツイチ女と
女性誌のライターをしながら機織りをするバリバリ女のカップルが誕生した
この場所もコンビニも
こんな私たちを受け入れる
非常にポテンシャルの高いクソ田舎だった
新しいじゃないか
ほな!
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