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【短編小説】石

「おい。お母さんは疑っているよ。俺のうちはもうダメだ。しばらく、君に任せる。」子供のころ僕たちの作った小さい「アジト」で蒼太【そうた】君がささやいた。僕たちだけいたのに。彼は学校の鞄の中から小さな包んでいる手ぬぐいを取り出した。
「気を付けて、ね?」赤ちゃんのようにそれを持っていて、僕に渡した。
「やりすぎじゃないか?ただの石だ」
「『ただ』なんかない!俺の大切な物だ!自分で見つけたから」
まったく。不思議な石だけど、簡単に壊れないだろう。ため息をついて、「は〜い」とイヤイヤ両手でその石をもらった。手ぬぐいをちょっとだけ外して、中に覗き込んだ。(石)といったのに、丸くて大きい卵のように見えた。小さくも、大きくもない。ポケットに詰められないくらいの大きさだ。この石から、青い光が光っていて低い音に僕は目を奪われていた。思わず石の方に手を伸ばして、一本の指で触った。
突然、僕の頭が軽くなって、部屋が回っているようだった。倒れないように、近くの壁を掴んだ。僕の体がうずいて、骨まで痛かった。手にある石から弱いビーンは頭の中に響いていて全身でチクチクしていた。お腹の中に、千振りのナイフで刺されているような痛みがした。もう立つことはできない。僕の体は前に傾いて、アジトの泥床?の上に崩れた。
まだ手にある石をちらりと見た。その不吉な光が脈々とし始めた。見ると、心のどこかでささやきが聞こえる。はっきり聞こえないけど、なんか、邪悪なものを感じがした。アジトにある影が動き始めた。暗い姿が影から現れて、僕の方に向かった。頭が別れると思ったくらい痛くて、もう考えられなかった。現実が僕から滑り落ちているみたいだった。
必死に石を離せるように、僕は最後の力でコレを投げ出した。自分がどれほど弱くなったのかわからなかった。石が、わずか2メートル離れたところに到着した。蒼太君の足の近くで転んで、止まった。
「ヒドイ!気を付けてって言ったんじゃね?!?お前。。。!」蒼太君は怒りっぽい。何か言ったかわからない。僕の頭の中がまだぐるぐる回っていた。急に吐き気がして、僕たちの間に吐き出した。厳しく痛くて、まるで僕の体はその石の存在に反対しているようだった。
 「大丈夫か?」蒼太君は優しくて石を素手で拾ってゆっくり回した「怪我ないの?」その石の心配は蒼太君にとって、とても柄にもなかった。手ぬぐいに包んでから、僕の方に冷たい目つきを向けた。
「ね、蒼太君、一体どこでソレを見つけたのか?普通な石じゃないよ。」
「あれ?なんで?自分のモノが欲しいの?確かに、見つけた場所で他にもあるけど、君には教えない。君は優しくね奴だ。教えれば、そのモノが壊されるかも。はると君はヒドイよ。俺の大切な赤ちゃんなのに…」僕より、あのクソ石を心配しているか。親友だと言ったくせに…
子供の頃から僕らは友達だった…彼と同じ高学校に行くと気づいたとき、僕は本当に心から嬉しかった。ここから、僕たちの仲が、もっと強くなりたかった。ここから、もっと蒼太君に近くなると思った。友達以上。だけど、その石を見つけて以来、彼は少しずつ、僕から離れている。蒼太君の方を見た。石に夢中になってしまった。そのやわらかい頬でアレをそっと撫でている。なんか、僕の胸の中で苛立ち始めた。
「蒼太君、学校はそろそろ始まる。今のうちに出ないと、間に合わない。行こう」
「待って、はると君。コレは…?」ねだりしている目で僕の方を見て、石を差し上げた。
「ダメだ。僕のところに親父が来るはずだ。彼のことを覚えてるか?誰でも、何かを隠そうとすると、すぐに気づいて、真実を知るまで執拗《しつよう》に質問するぞ。彼の仕事のせいで、みんなを疑っているのかな。
「蒼太君、ここはどう?僕たちのアジト。この場所は誰も知らないし…ね?」蒼太君は肩を落として、ゆっくり頷いた。
「…仕方がないだろう…」
「大丈夫。いつでもココに行けるよ。その石が君を待つ。」親父が来るのは嘘ではなかった。ただ、僕たちは元のように戻りたかったんだ。その石が見つかれた前の時に。
蒼太君はもっと僕の方を見て欲しい。僕のことをもう少し考えて欲しい…もし、アレはここに置けば、彼はいつか忘れると思ったんだ…僕の判断は、もっと間違っているはずがない…
次の日、蒼太君は学校に行かなかった。彼には、そんなことは珍しくなかったけど、僕には何も言えなかった。次の日も行かなかった。心配している僕は、念のため、アジトを調べる…
授業が終わると、冷たい雨が降っていた。濡らすのは構わずに、アジトの方に走った。その小さなあばら屋に入ると、Tシャツだけを着ている蒼太君がいた。彼の背中は僕に向いていたので、まだ気づいていなかった。暗いところは目が慣れていて、もっとはっきり見えた。蒼太君の腕には水ぶくれがあって、日焼けみたいな赤い部分もあった。思わず僕は息を吹き出した。
それを聞くと蒼太君は僕の方に向けて、石を持ちながら、ちょっと震えている手で薄い髪の毛を掻き上げた。嬉しくて黄色い歯を見せた。「ね、はると君、どうしてここに来たのか?」
「…学校に行かなかったし…僕は心配になって仕方がない…ね、その石から、しばらく離ればいいと思う…ずっと近くにいるのは良くないんだろう…」その笑顔がすぐに消えた。とても厳めしい《いかめしい》顔つきになった。
「イヤだ!俺のものだ!よくも、こっちに来て、俺の大切なモノを奪おうとするもん!」
「もういい!自分を見て!君の体!ボロボロじゃないか?!アレのせいじゃないか?!」蒼太君に近寄った。「ね、ソレは、僕に任せて。ちゃんとお世話にする。君、早く治せ、僕のそばに戻って欲しいの」石の方に手を出した。蒼太君は、ぐずぐずと石を譲り渡そうとしているみたいだった。次の瞬間、石からの眩しい光が瞬いた。
「イヤ!殺される!」蒼太君はしり込みして、石を胸に引いてしっかり握った。「はると君、嘘つき!!」アジトから疾走して、僕から逃げ出した。

。。。

数日後、蒼太君のお母さんは僕に連絡をくれた。彼は見つかった。僕らのアジトの近くで倒されたらしい。彼の状況は悪くなったので、入院した。僕は彼の親友だから、元気にさせてくれるかしら、見舞いに行く方がいいって言った…
病院で蒼太君は確かに前より悪くなった。細い腕で髪の毛を一本ずつむしっていた。腕だけじゃなくて、彼の赤くなった顔にも水ぶくれがある。
「おい。それを続けると、女性にはモテならないよ。」
「はると君!」僕が病室に入ると彼の目は明るくなった。
「元気か?君のお母さんは心配だよ。ちゃんと食べているの?」僕の質問を聞かずに、手でそわそわしていた。
「ね、頼む…アレ…こっちに持ってくれないか?アジトにある…俺がいないから、きっと、寂しい…」
突然、病室の扉が開いた。僕の親父がズカズカと入ってきた。蒼太君を一度見ると、目が大きくなって僕の方を向いた。手で僕の肩を掴んで、目が合った。
「ガキ!お前らは何かを見つけたのか!?絶対に遊んではいけない物で!?今、アレはどこにある?!?おい!教えて!」親父の声は張り上げた。
こんなに怒っている親父を見たことはなかった。「知らない」と返事した。何を言うべきか?蒼太君を守るために、真実を言えなかった。さっさと親父から離れて、蒼太君を見た。
「君の望みは叶わない。ごめん、蒼太君、それはできない。」僕の言葉を聞くと、蒼太君は怒り出した。叫び続けて、残りの髪の毛をむしり始めた。看護師さんが病室に駆け込んで、みんなを押し出した。病室の扉を閉めながら、蒼太君の声が聞こえた。
「お願い!!はると君!俺らは親友じゃないか?手伝ってくれ!」僕は、廊下を歩き続けた。熱い涙が顔を流れ落ちているのに、一度も後ろを向けなかった。

。。。

結局、蒼太君はその病室から出られなかった。彼の葬式で、蒼太君のお母さんが僕をギューとして、背中を暖かく叩いた。
「ごめんね。二人は親友だった…」泣いている彼女を抱きながら、人ごみの中で親父がいた。他の人と話さなかった。そこから動かなかった。葬式中、ずっと僕を睨んでいた。
僕は、蒼太君の墓参りをしたが、充分な勇気を上げるのは、三日かかった。墓標につくと心がだるくなった。どういうわけか、彼の死の責任を負っていた。
厚い手袋をはめて、鞄からその石を取り出した。墓の近く花束のそばに置いた。「ごめん、蒼太。やっはり、最初はコレを見せてくれたとき、捨てる方がよかったのに…ごめん、ね?弱い僕は君の前に何も言えなかった…僕のせいで、こんなことを。。」しばらくして、そこでしくしく泣き出した。涙がもう出ないくらい泣いた。
気づくと、太陽が地平線の下に下がり始めた。暗くないうちに、早く帰る。家族を心配させたくない。後ろを向いたとたん、僕は止まった。親父がいた。どのくらいそこに立ったかわからないけど、気持ち悪かった。
「こ…こんばんは親父」とおどおどして挨拶したが、彼は僕を認めなかった。後ろの墓の方に向かって、あの石を見るとはっと息を呑んだ。口を開いたまま、それを見つめていた。「あの、僕たちは…」と言いかけた。「やっぱり、俺らが一つを逃がした!」と親父がつぶやいた。僕を向けずに、ポケットの無線を取り出して、叫んだ。
「コ…コ…コードブラック‼ コードブラック‼ 状況は…限界状況だ!」
「何を…?」突然、たくさんの黒いスーツを着ている男性は駆け込んで、僕たちを囲まれた。二人の男の人は墓について、トングでその石を箱に注意深く入れた。他の二人の男の人がこっちに来て、僕の両腕をしっかり掴んだ。黒い袋が僕の頭にかぶさって、何も見えなくなった…
連行されている。どこに行くかはわからない。怖い。全力で僕は戦った。叫びながら、じたばたした。彼らから逃れようがない。
「待って」親父の声だったけど、珍しく冷たかった。僕を連行している人たちは止まった。まだ僕の腕を掴んでいるから、逃げられなかった。親父の息を僕の首に感じると背筋が寒くなった。「はると君、病院で俺の質問を答えるべきだった。お前がさっき言ったとおり、今の状況はお前のせいだ。身から出た錆だ…お前ら、続け。ちゃんと仕事を終われ。」


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