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【ショートショート】魔法使い (笑)


いい天気だった。涼しい風が吹いて、枝から木の葉がさらわれて舞った。遠い所から鳥の美しい歌声が聞こえる。その木の枝で一匹の猫が横倒しにだらだらと、寝ていた。
が、子供たちのうるさい声で起こされてしまった。

「兄ちゃん!待ってよ!」
「自分でどうにかしろ!早くしないと遅刻するぞ!」

木の下で二人の子供が小さな言い争いをしていた。女の子は泥から足を抜き出そうとしていた。両手でブーツを引っ張ったが、ブーツはそのままに足だけが外にすっぽ抜けて、泥の中で転んでしまっただ。
「あ!兄ちゃん!兄ちゃん!助けて!」
「お前は大丈夫だ。ちょっと泥がついただけだよ。立って」
「兄ちゃん、バカ!私じゃないよ!一番大好きなプリンセス・ブーツ!泥モンに食べちゃった!あ!兄ちゃん!早く!プリンセス・ブーツを助けて!」
「…」
「…お願い、ダーク・マスター!」
「…安心しろ。俺がそのプリンセス・ブーツを救ってやる★ ダーク・マジック・アタック!」

前よりこの二人はうるさくなった。ぬかるみに向けて、男の子は小さい棒を魔法の杖のようにブーツの方に振ったが、届かなかった。

「兄ちゃん!もう少し!頑張って!」
「泥モン!よくも!ならば、俺は手に入れた禁忌の力を使う……伸びろ!伸びろ!」

二人の声はさらに大きくなった。木の枝で猫はあくびをしながら、背中を伸ばした。他の静かな場所に行こう。
男の子の手にある棒が伸びてだんだん長くなった。魔法みたいに。
「で…できた!ね…見て!見て!」
「すごい、兄ちゃん!本当に魔法使いなのか!?」

その棒の先が木に着いたところで止まった。
「兄ちゃん!そこじゃないよ!ブーツはこっち!」
「…わかった!泥モンの力は強すぎる!俺の封印が…あ!」

突然、黒い猫が木から飛び降りて、女の子の頭に着地した。汚れないように、棒の上を歩いて、男の子の腕を通って肩に上り、そして《泥がない場所に》着地した。

猫は二人の子供に振り向いて、「にゃん」と鳴いた。
男の子の持っている棒が小さくなって、元のサイズに戻った。
猫は偉そうに尻尾を立てたまま、歩き出した。
二人の目の前で、その猫は魔法のように消えた。


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