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なぜ人は魅了されるのか?【コンテンツをつくるときに参考にする良書を読解】


センスが良くなる良書読解とは?

編集者の伊藤直樹と、心理学研究家の秦由佳が各ジャンルにおける良書を選び、コンテンツつくりに欠かせないクリエイティブセンスのヒントを探る番組です。このnoteは”読む良書読解”です。

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今回、秦由佳さんが選んだ良書は『魅きよせるブランドをつくる7つの条件 一瞬で魅了する方法』(サリー・ホッグスヘッド著)です。

2011年に発行された日本語版は絶版となっていますが(2020年6月現在)、中古価格は値崩れしないどころか、定価の数倍でネットオークションにかけられることもあります。そんなところも良書たる所以といえるでしょう。

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秦由佳

この本は企業、商品、あなた自身を魅力的なブランドにする方法について説いたマーケティング理論の本になります。でもそんな本の最初に書かれているのが、なぜ人を魅了する必要があるのかについて。私たちには生殖本能があって、自分の種を残すために魅了しなければいけないと述べているんです。

伊藤直樹

つまりは人間の本能的なところにアプローチするってことですね。

そうです。でも、「魅力と強迫観念は紙一重の関係にあるのです」とも書いてあります。魅了にはレベルがあって、マックスまで魅了されると、それは強迫観念になるんですね。反対に魅了がものすごく弱いと回避というレベルになる。回避と強迫観念の間には、無関心、中立、穏やかな共感、興味、関与、熱中、没頭といった魅了のレベルがあると定義したうえで、「あなたのブランドはどのくらいの魅了を目指しますか?」というような話も出てきます。魅力的な顔についての話もあるし、「性的能力は両肘の位置に現れる」という小見出しもあるし、色とりどりなんですよね、この本は。そんななかで、私がすごく好きな一文を読みあげたいと思います。

「名前がグーグルに引っかからなければ、あなたは何者でもない」

見出しの一つなんですけど、これ読んで、この本の良書感ヤバイなって思いました。

伊藤

ヤバイですね~。

この本の面白い部分は、仕組みの解説もあるし、哲学的な話もあるんですけど、ちゃんとワークがあるところです。「あなたのブランドの魅力の状態をチェックしましょう」とか。この本によると、魅了できているかどうかということには、ある一定の基準があるんですね。たとえば、そのコンテンツが強烈な情緒的反応を即座に引き起こすかどうか。それが、「おっ」でもいいし、「おや?」でもいい。情緒的反応というのがポイントなので、ネガティブとかポジティブは関係ないということを教えてくれている。

伊藤

ブランディングにおいて発信のネガポジはまったく関係なく、どういうふうに相手が、「おっ」と思うかのほうが大事だと。

そうです。それが強烈であればあるほど情緒的反応が引き起こりやすい。他に面白いと感じる点は、「業界の新たな基準をつくる」ということ。これも魅了できるブランドの一つの基準であると書いてあります。

伊藤

斬新さが大事ということですね。

そう。その業界の新しい基準をつくることができれば、そのブランドはすごく魅力的ということになります。あなたのブランドは「慣習を打ち破る力があるかどうか」ということも基準の一つです。

伊藤

カバーに大きくデザインされた「7」が印象的ですよね。

魅力とは何か? 魅了するとはどういうことか? こうした根本的な問いに対しての答えとして、7つのトリガーという言葉が出てきます。魅了するブランドをつくり出すためには7つの引き金が必要で、その引き金の配合でブランドをデザインするということが、この本のメインテーマなんですね。7つのトリガーがどのくらいの配合なのか、それは自由に調合できるんです。

伊藤

7つの割合がどのようになっているかをチェックすることで、そのコンテンツがどのような状態なのかが判断できるということですね。


7つのトリガーとは以下の通りです。

欲望――なぜ私たちは快楽への期待に惑わされるのか?
神秘性――なぜ人は、答えのわからない問いに惹かれるのか?
警告――なぜネガティブな結果が、私たちに行動を起こさせるのか?
威信――なぜ私たちは地位と敬意の象徴にこだわるのか?
権力――なぜ私たちは自分の支配者に意識を集中させてしまうのか?
悪徳――なぜ私たちは「禁じられた果実」に惑わされるのか?
信頼――なぜ人は、いつも定番を選ぼうとするのか?

確立されたブランドには7つのトリガーが配合されていて、この本では、あの有名なコカコーラのトリガーの配合が示されています。

伊藤

具体的なブランドが出てくるんですか!?

そう。そこが面白いんですよ。みんなが知っているブランドの事例がいっぱい出てくるんです。そして、この本が基本的に重要視している大切なことは、あなたが何を発信するかではなくて、世界があなたに対してどのような発信をするかということ。たとえば、伊藤さんのことを誰かが伝えるときに、その人がどのように言うのか、ということが重要なのであって、伊藤さん本人がどう言うかはどうでもいい(笑)。

伊藤

全否定されている感じですね(笑)。

この本が強いメッセージとして発信しているのは、人は魅了されたがっているのだから、あなたがことさら魅了させたがる必要はないという点です。そもそも人間は魅了されたいと潜在的に感じている。だから「魅了されたい人の気持ちを読んで魅了しましょう」というスタンスなんですね。

伊藤

人は顕在的には否定はするが、心のどこかでは魅了されたがっている。

何かに対してときめきたいと思ったり、何か夢中になるものがほしいと思ったり、寝食忘れて没頭できるような仕事がやりたいと思うのは、魅了されたがっている証拠です。なので、魅了されたがっている人の心の引き金をどうやって引くかが重要になるわけです。

伊藤

そのために7つのトリガーがあると。

悪徳とかって、ちょっとネガティブなイメージがしませんか?

伊藤

しますよ。悪いことをしましょう、みたいなイメージじゃないですか。

そうそうそう。悪いことって一見、ネガティブですよね。でも、コカコーラを思い浮かべてほしいんです。

伊藤

ん? どういうことですか?

体にいい栄養素なんてほぼないじゃないですか。でも、なぜあんなに多くの人々を魅了しているのでしょうか。その理由は、体に悪いということを隠さないんですよ。コカコーラって、そのことをもみ消したりしないじゃないですか。

伊藤

そうですね。

つまりは悪徳をよく理解しているからなんですよ。

伊藤

コカコーラのトリガーのブレンドは、悪徳が80%くらいですか?

そんなにはないですよ(笑)。この本によると、コカコーラは欲望と信頼のトリガーが強いです。次が神秘性。神秘性のつくり方というのは、エピソードのつくり方に近いんですね。ストーリーをつくるのも神秘性を高めることにつながる。コカコーラは配合がまったくわからないという最高の神秘性をもっています。

伊藤

たしかに。情報漏えいがされないようになっていますね。

そう。とても厳しくって、それがコカコーラの神秘性を上げるわけです。長年にわたって配合がわかならないという事実が、さらに魅力的に見えてくる。以前、コカコーラ社の社員が門外不出のレシピを売ろうとしたらしいんですよ。

伊藤

とんでもねえヤツですね。

とんでもねえヤツがいたわけなんですよ(笑)。どうなったと思います?

伊藤

大富豪になったとか。

いや、その社員は捕まったんです。なんで捕まったかというと、その人がコカコーラのレシピを売り込もうとした会社に通報された。ちなみに売り込もうとした先の会社はどこだと思います?

伊藤

ペプシですか?

正解。さすが、悪徳を理解していますね(笑)。

伊藤

いや、ふつうに考えてライバル会社だから高く買ってくれそうじゃないですか。

ところが不届き者の思うようにはならなかった。ペプシも自分たちのブランディングを考えると、コカコーラのレシピを受け取ったからといってブランド力は上がらないわけで。むしろ下がっちゃう。それは信頼というトリガーが下がることでブランドが地に落ちるからです。

伊藤

なるほど。

信頼というトリガーが下がって、神秘性のトリガーも下がっちゃう。そういうことをしないというのが、ブランディングを考えた経営です。



続きます(6月18日更新)


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